これからの移動を考えるー生活が縮まないための5つの視点

エピソード5

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    :超高齢社会におけるモビリティの意味とは ー移動ができないと、何ができなくなるのかー

    これからの移動を考えるー生活が縮まないための5つの視点

    【連載第5回】超高齢社会におけるモビリティの意味とは ー移動ができないと、何ができなくなるのかー


    生活は、どこから縮んでいくのか — デザインの介入の可能性とCULUMUが描く移動の未来

    これまで、「行けるのに行かない」という状態が、移動の問題の入口になっていることを見てきました。
    本稿では、その入口を、一時的な判断ではなく、生活全体に影響を及ぼす連鎖構造として捉え直します。
    CULUMUは、この生活が縮んでいく構造に対して、移動を単なる手段としてではなく、どこに、どのように介入できるかという視点から考えます。
    以下に示す5つの視点は、生活が縮まないためにCULUMUが描く、これからの移動の未来です。

    1. 選択肢が減らない移動

    2. 欲求が生まれる余地のある移動

    3. 役割・関わりを持ち続けられる移動

    4. 傷つかずに使える移動

    5. 生活の変化に追いつける移動

    生活が縮む連鎖構造とデザインが介入する5つの未来視点の図解

    1.選択肢が減らない移動

    「選択肢が減らない移動」とは、移動の可否そのものではなく、行き先や頻度、手段を「選べる幅」が保たれている状態を指します。
    重要なのは、「行けるかどうか」ではなく、どう行くか、どこまで行くかを自分で決められる余地があることです。
    この視点は、生活の判断が単調に固まらないための移動のあり方を示しています。

    調査から見えてきた課題

    調査では、移動手段が残っている場合でも、外出の回数を減らす、用事をまとめるなど、行動や判断を自ら調整していく様子が見られました。
    これらの調整は、困りごととして自覚されにくいまま、日常的な選択として定着していく傾向があります。
    「バスで行くと、荷物を考えて買うものを絞って買いものしていますね。」
    「免許返納をしたら、自由な行動ができなくなる、じっとしていなければいけないのが一番困るね。」

    見えにくい変化の兆し

    外出が「必要最小限の行為」として固定されることで、行き先や頻度を、自分で考える機会が減っていきます。結果として、生活のリズムや広がりが乏しくなります。
    問題は、移動できないことではなく、選択する機会そのものが生活から抜け落ちていくことにあります。

    介入の視点

    この問題に対しては、移動手段を増やすだけではなく、選択できる余地を保つ構造を作ることが重要になります。

    利用の揺らぎを前提にする
    利用頻度や参加の有無が日々変わることを前提に、定員、配車、運行を設計します。使わない日があっても問題にならない仕組みにすることで、利用者は体調や状況に応じて参加・不参加を自然に選ぶことができます。

    手段に縛られない移動の構造
    公共交通や送迎、タクシーなどを横断して利用できる仕組みを整えます。特定の手段に依存しない構造にすることで、その日の状況に合わせて行き先や頻度を柔軟に調整できるようになります。

    2.欲求が生まれる余地のある移動

    ここでいう「欲求が生まれる余地のある移動」とは、移動が用事や必要性だけで完結せず、「行ってみたい」「顔を出したい」と思えるきっかけが残っている状態を指します。
    移動は、行動の結果ではなく、気持ちが動く入口として設計される必要があります。

    調査から見えてきた課題

    外出が通院や買い物などの必要な用事に限られるにつれ、それ以外の外出理由が思い浮かばなくなる様子が見られました。
    移動手段があっても、出かけたいという気持ち自体が立ち上がりにくくなっていました。
    「免許返納してから、生活が変わって、行きたいという気持ちがなくなってしまっているね。」
    「地方に引っ越してから、アイスが食べたいとなってもコンビニが歩いてすぐの距離にないから、我慢するしかないんです。」

    見えにくい変化の兆し

    外出の理由が「用事」だけに限られていくと、行き先を自分から思いつく機会が減っていきます。結果として、「特に行きたい場所はない」と感じるようになります。
    問題は、移動できないことではなく、動機が生活から抜け落ちていくことにあります。

    介入の視点

    このような変化に対しては、外出時の関わり方の前提やきっかけの伝え方を見直し、外出を選びやすい環境を整えることが重要になります。

    外出時の「関わり方の前提」を設計し直す
    立ち寄るだけ、短時間だけ滞在する、と言った使い方を想定し、行政や企業が予約や参加を前提としない外出先や送迎手段を用意します。滞在時間や関わり方を限定せず、見に行くだけ、少し滞在して帰ることも可能にすることで、利用者は負担なく外出を選べるようになります。

    外出の「きっかけの伝え方」を設計し直す


    地域の変化をきっかけに外出につなげる仕組みを整えます。行政や企業が、地域で起きている小さな出来事や変化を、写真や短文で定期的に伝えることで、外出のきっかけを生み出します。内容を理解したり参加理由を考えたりしなくても、「気になったら行く」判断ができる状態をつくります。

    3.役割・関わりを持ち続けられる移動

    ここでいう「役割・関わりを持ち続けられる移動」とは、外出が本人の用事や消費行動だけで終わらず、誰かや場との関係の中で意味を持ち続けられる状態を指します。
    移動は、行くための手段ではなく、関わりが続くための条件として捉え直す必要があります。

    調査から見えてきた課題

    外出の頻度が減るにつれて、地域活動や人とのやりとりから距離が生まれ、「行く理由」が少しずつ失われていく様子が見られました。
    移動できる状況でも、関わりが途切れることで、外出が減っていくケースがありました。
    「免許を返納したら、習い事も仕事もし続けられなくなってしまいます。」
    「免許があったときは、道の駅や知り合いの家に出かけておしゃべりしたりしていたけれど。」

    見えにくい変化の兆し

    顔を出す場や役割がなくなると、その場に行かなくても支障がない存在になってしまいます。その結果、外出の機会は少しずつ減り、地域や周囲との関わりも次第に薄れていきます。
    問題は、移動できないことではなく、関係の中での自分の位置が薄れていくことにあります。

    介入の視点

    こうした変化に対しては、行く意味や役割が自然にできる関係性を設計し直すことが重要になります。

    「行く意味」が残る関係性を設計し直す
    行政や企業が、参加しない日があっても役割が消えない活動設計を行います。継続的な参加を前提にせず、時々顔を出す関わり方も認めることで、利用者は「行く意味」を失わずに外出を続けることができます。

    「役に立つ場面」が自然に生まれる環境をつくる
    行政や企業が、外出先に関与できる余地を用意します。特別なスキルや責任を求めるのではなく、短時間の手伝いや声掛けなど、関わり方を選べる設計にすることで、利用者は無理なく役割を持ち続けることができます。

    4.傷つかずに使える移動

    ここでいう「傷つかずに使える移動」とは、移動の支援を使うことが遠慮や負い目、関係の気まずさを生まない状態を指します。
    移動は、「迷惑をかける行為」ではなく、自然に使ってよい選択肢として存在する必要があります。

    調査から見えてきた課題

    移動が難しくなっても、「人に頼むほどではない」「まだ自分でできる」と考え、支援の利用を控える様子が見られました。
    結果として、使える手段があっても、頼る判断そのものが選択肢から外れていくケースがありました。
    「娘はいつでも頼ってねと言ってくれるけど、娘も忙しいので遠慮しちゃいますね。」
    「病院に行くわけでもないので、自分しか利用者がいないときにデマンドバスを頼むのは気が引けます。」

    見えにくい変化の兆し

    支援を使うことに気を遣うようになると、「自分でなんとかしよう」「我慢すればいい」といった判断が増えていきます。ここで起きているのは、移動できないという問題ではなく、頼るという判断が自分の中で消えていくという問題です。

    介入の視点

    これに対しては、「頼ることが特別な行為にならない」前提を設計し直すことが重要になります。

    「頼ることが特別にならない」前提を設計し直す
    行政や企業が、通院や買い物といった必要な用事に限らず、私的な外出も含めて利用されることを前提に移動支援を位置づけなおします。日常の利用シーンとして明示することで、利用者は「これは使ってよい移動だ」と納得しながら選ぶことが出来ます。

    「与える/受け取るの非対称」を設計し直す
    移動の利用と同時に、経験や時間を別の形で提供できる関与の余地を用意します。直接の返礼を求めず、役割が循環する設計にすることで、利用者は「頼るだけ」の状態にならずに済みます。

    5.生活の変化に追いつける移動

    ここでいう「生活の変化に追いつける移動」とは、体力や健康状態、暮らし方の変化に応じて、移動の使い方や前提を段階的に切り替えられる状態を指します。
    移動は、ある時点の自立度に合わせて固定されるものではなく、変化に合わせて更新される条件である必要があります。

    見えてきた課題

    免許返納や体力低下といった変化が生じた後、代替手段への切り替えが一気に求められる様子が見られました。
    変化は徐々に起きているにもかかわらず、移動の前提だけが急に変わってしまうケースがありました。
    「免許返納して2ヶ月くらいで、すっかり生活パターンが変わってしまったね。」
    「地方に引っ越してきて免許もなくて、車社会で街に人が歩いていないから、人との関わりがなくて本当に寂しいんです。」

    見えにくい変化の兆し

    ある日を境に、使える移動が大きく変わることがあります。例えば、免許返納などをきっかけに、これまで当たり前に使っていた移動が突然使えなくなると、生活の組み立て方そのものを短期間で変えなければならなくなります。 その結果、切り替えの準備ができないまま生活が縮むんでいくことがあります。
    問題となっているのは、変化そのものではなく、変化に慣れる時間が用意されていないことなのです。

    介入の視点

    こうした状況に対しては、移動手段の切り替え方やそのものを設計し直すことが重要になります。

    移動手段の切り替え方を設計し直す
    行政や企業が、同じ利用者が複数の移動手段を段階的に試せる仕組みを用意します。免許返納などを契機とする切り替えを一度に求めず、併用期間を前提にすることで、利用者は生活を保ったまま次の移動に慣れていくことができます。

    生活変化を先回りして伝える
    行政や企業が、体力や生活の変化に応じた移動の選択肢を早い段階から伝えます。困ってから案内するのではなく、あらかじめ知る機会をつくることで、利用者は自分のペースで備えておくことが出来ます。

    まとめ

    本稿で描いた移動の未来は、移動手段を増やすだけでは実現しない性質を持っています。
    移動のあり方は、「どのように頼れるか」「欲求がどこで生まれるか」「役割や関わりがどう続くか」といった、生活全体のデザインと結びついています。
    そのため、これらは一つの主体だけで完結できるものではなく、複数のステークホルダーで連携が必要です。

    行政・企業・地域の共創による移動課題解決の枠組みを示した図
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