モビリティの再定義
エピソード3
Report
:超高齢社会におけるモビリティの意味とは ー移動ができないと、何ができなくなるのかー

【連載第3回】超高齢社会におけるモビリティの意味とは ー移動ができないと、何ができなくなるのかー
モビリティが支える「生活成立構造モデル」
移動が支える生活の構造
本調査から、モビリティは単に場所を移動する手段ではなく、生活がどのように成り立つかに深く関わっていることが見えてきました。
移動環境が整うことで、人は「行ける」だけでなく、選び、思い、関わり、自分でいられる状態を保ちながら日々の生活を組み立てています。
モビリティによって支えられている生活の要素のことを、「生活成立構造モデル」として整理します。
Choice(選べる):いつ・どこで・どう行くかを、自分で決められていること
Desire(したいと思える):外出や行動へ載っ丘が自然に生まれていること
Connection(関われている):人・仕事・地域・社会とつながりを持ち続けられていること
Dignity(自分でいられる):頼らなくて済む、または頼っても傷つかないと感じられていること

本図では、移動環境を生活の前提条件として最外側に配置し、その内側に、生活の成り立ちに直接影響する要素を重ねて表現しています。
移動は目的そのものではなく、これらの状態が成立するための土台として生活全体を支えていることを示しています。
「生活成立構造モデル」が崩れるポイント
では、「生活成立構造モデル」はどこで失われていくのでしょうか。
移動環境が整っていても、生活が維持されるとは限りません。
調査からは、移動は可能でも生活の一部が失われていく過程が確認されました。
これは一度に起こるのではなく、一部の要素の欠落をきっかけに連鎖的に生じるケースが多く見られます。その結果、「行ける環境はある」「生活は成り立っているように見える」にもかかわらず、行動や関わりが縮んでいく状態が生まれます。
Choice(選べる)の喪失
移動の時刻や手段が限られると、行動の選択肢は次第に固定されていきます。
限られた交通手段や時刻を前提に予定を組む必要があるため、荷物の量や滞在時間も制約されます。こうした制約が重なることで、「自分で選んでいる」という感覚は少しずつ薄れていきます。
「バスで行くと持てる量を考えて買い物しないといけないし、時計ばかり気にしてしまいます」
Desire(したいと思える)の低下
移動の準備や調整の負担が大きくなると、行動の前に大変さが意識されるようになります。
その結果、本来であれば生じていた「行きたい」という欲求そのものが生まれにくくなります。
「そこまでして出かけるなら我慢しようかな、と思うようになりました」
Connection(関わり)の縮小
移動が難しくなると、人と会う機会や社会の中での役割も少しずつ減っていきます。
結果として、地域や社会との接点が限定されていきます。
「免許返納前は、近所の人の家や道の駅でみんなと集まったりできたけれど」
「免許を返納したら仕事も辞める、と職場の人に伝えています」
Dignity(自分でいられる)の揺らぎ
移動手段が限られると、「迷惑をかけてしまうのではないか」「そこまでして行くべきか」といった遠慮や我慢を前提にした判断が増えていきます。
その結果、自分の生活の選択肢を自ら狭めてしまいます。
「自分だけのためにデマンドバスを頼むのは気が引けます」
「食材は社協の人に頼めるけれど、植物の種を買いに行くとかちょっとしたことはできないね」

まとめ
モビリティは単に移動するための手段ではなく、選択、欲求、人との関わり、そして自分らしさと言った要素を支えながら、生活の基盤として機能しています。
しかし移動の自由度が下がると、この生活成立構造は少しずつ崩れていきます。
モビリティを再定義することは、生活を支える構造そのものをどう維持するかを問い直すことでもあります。
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