都市と地方で異なる、シニアの移動の前提条件と実態

エピソード2

    Report

    :超高齢社会におけるモビリティの意味とは ー移動ができないと、何ができなくなるのかー

    都市と地方で異なる、シニアの移動の前提条件と実態

    【連載第2回】超高齢社会におけるモビリティの意味とは ー移動ができないと、何ができなくなるのかー


    都市と地方で異なる移動環境の構造

    都市と地方では、生活環境と移動手段の構造が根本的に異なります。都市部では、徒歩・公共交通・自転車など、複数の移動手段を使い分けられる環境が整っています。
    生活インフラも比較的近接しており、状況に応じて移動手段を選びやすい特徴があります。
    一方、地方では、徒歩圏に生活機能が集約されていない地域が多く、日常生活において自動車を前提とした移動構造が形成されています。
    内閣府の調査によると、大都市では高齢者の72.5%が徒歩圏内にコンビニやスーパーなどの小売店があるのに対して、町村部では、その割合が32.6%まで下がります。
    この違いは、距離や人口規模の差ではなく、生活を成立させるための移動条件そのものの相違を意味しています。

    大都市と町村部における徒歩圏内の小売店の有無を比較した図解

    地方における車依存という構造

    公共交通の本数が限られ、駅や停留所までの距離が長い地域では、買い物や通院、社会活動への参加が自動車によって成立しているケースが多く、車が生活と自立を支える基盤になっています。
    国土交通省の調査では、運転免許を保有する高齢者と保有しない高齢者の間で、外出頻度や移動範囲に大きな差が生じていることが示されています。
    地方においては、自動車は単なる移動手段ではなく、生活を維持し、自立を保つための前提条件として機能しています。そのため、免許返納や運転継続の判断は、移動の問題にとどまらず、生活全体の選択に直結しています。

    高齢者の免許保有の有無による外出率の差を示す棒グラフ

    出典:国土交通省 「高齢者の生活・外出特性について」

    移動格差とは「選べる移動の厚み」の差

    都市部では、鉄道・バス・徒歩・自転車など、複数の移動手段を組み合わせることが可能であり、一つの手段が使えなくなっても代替が存在します。
    一方、地方では、公共交通の選択肢が限られ、実質的に「車のみ」が移動を支える状況が生まれています。
    この場合、車を使えなくなることは、移動の選択肢を失うこととほぼ同義になります。
    高齢者の外出状況における地域間格差に関する研究でも、高齢者の外出率は、移動手段の選択肢が多い地域ほど高い傾向が示されています。
    移動格差とは、「どれだけ移動できるか」の差ではなく、「どれだけ多様な移動を選べるか」の差として捉える必要があります。

    シニアの移動に関する実態調査

    ここからは、シニア当事者へのインタビュー調査を通して、移動が生活にどのような影響を与えているのかを捉え、その先にある新たな機会の可能性を探っていきます。

    調査の視点

    • 移動が難しくなったときに起きる変化

    • 外出頻度や行き先の変化

    • 欲求の生まれ方・失われ方

    • 判断や我慢のあり方

    • 困難や不便の記述にとどまらず、新たな支援や設計につながる余地・機会に着目

    調査方法

    • シニア当事者へのインタビュー調査

    • 移動手段や頻度といった事実に加え、選択の理由や背景となる考え方を聞き取り

    分析の考え方・手法

    • インタビュー記録を意味単位で整理

    • 行動・判断・感情の要素を抽出

    • 共通点と差異を横断的に比較し、構造化

    • 都市/地方、自立/依存の軸で再整理

    調査対象者の立ち位置マッピング

    本調査では、免許返納済み、もしくは返納を検討している移動環境や自立度の異なるシニア5名に話を伺いました。
    年齢や属性の代表性ではなく、移動の前提条件と判断の違いが見える構成を意識しています。

    Aさん
    ・70代前半・女性/都市近郊在住

    ・免許返納後も、徒歩・公共交通・宅配を組み合わせて生活を維持

    Bさん
    ・70代・女性/地方在住・単身
    ・車を中心に、生活・趣味・仕事を自分で完結
    ・数年後に免許返納を検討

    Cさん
    ・70代・男性/地方在住
    ・農作業や地域活動も含め、移動の自由=自立という感覚が強い

    Dさん夫妻
    ・90代夫婦/限界集落在住
    ・免許返納後、家族や制度による送迎が主な移動手段

    Eさん
    ・60代後半・女性/地方在住
    ・徒歩・乗り合いバスで生活は成立しているが、時間制約が大きい

    各象限から見えた象徴的な声

    調査対象者を都市↔地方 × 自立↔依存の4象限で整理したところ、それぞれの立ち位置から、異なる語りが見られました。

    都市・地方と自立・依存の4象限で整理した対象者の象徴的な声

    インタビューから得られた主要インサイト

    インタビューから見えたのは、移動の困難そのものよりも、それが生活の中で「どう処理されていくか」の違いでした。

    主要インサイト

    ①移動の困難は「できない」ではなく「やめる/減らす」として処理される
    「行けなくなった」ではなく「行く回数を減らす/行くのをやめる」という判断が先に起きる

    ②通院・買い物などは必要な外出として最後まで残りやすい
    生命維持に関わる行動は優先されるが、それ以外の外出は贅沢・わがままとして後回しにされる

    ③「行きたいが、そこまでしなくていい」という判断が繰り返される
    行きたい気持ちは消えていないが、移動の負担や遠慮を理由に、行動が見送られる

    ④人に頼る選択肢は、自然には浮かびにくい
    家族・支援・交通手段が存在していても、「頼むほどではない」「自分で何とかする」と判断されやすい

    ⑤移動を減らすことで、行動の選択肢が少しずつ減っていく
    行く場所が限定される、外出の頻度が下がるなど移動を減らした結果として、生活の幅が狭まる

    ⑥同じ対応でも、生活への影響は居住環境によって異なる
    行動の回数や選択肢が減るだけで済む場合もあれば、生活の成立そのものに影響が及ぶ場合もある

    まとめ

    当事者のインタビューを通じて、それぞれの状況によって、移動という行為を生活の中でどう受け止め、調整しているのかに違いがあることが見えてきました。この差はどこから生まれるのかを、次回以降、生活環境の違いに着目しながら読み解いていきます。

    keyboard_arrow_right

    ジャーナルトップへ

    keyboard_arrow_right

    Contact

    お問い合わせ

    お気軽にご相談ください。お見積もり依頼も可能です。1営業日中にご返信いたします。

    お問い合わせをする

    keyboard_arrow_right

    Service introduction

    サービス紹介資料

    CULUMUが提供するインクルーシブなデザインソリューションをご紹介しています。ぜひご活用ください。

    資料をダウンロードする

    keyboard_arrow_right

    採用情報

    Careers

    N=1の当事者の声からしか、生まれない未来がある
    “つくる”を超える“共創”に挑戦する仲間を待っています

    詳しく見る

    新規タブで開く