見えにくい移動格差

エピソード4

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    :超高齢社会におけるモビリティの意味とは ー移動ができないと、何ができなくなるのかー

    見えにくい移動格差

    【連載第4回】超高齢社会におけるモビリティの意味とは ー移動ができないと、何ができなくなるのかー


    移動の問題は、行けなくなった瞬間に生じるのではありません。
    調査では、移動手段が残っている段階から、「外出の回数を減らす」「必要な用事だけを優先する」といった判断が重なっていました。

    この「行けるのに行かない」状態が、
移動できなくなることで失われていく生活の最初の入口になっていると考えられます。
    本稿では、この入口がどのような生活環境でどのような影響の広がり方をするのかを整理します。

    都市と地方で異なる、生活成立構造の失われ方

    モビリティが支える生活成立構造モデルの概念図

    「モビリティの再定義」で示した生活成立構造モデルは、都市・地方のどちらにも当てはまりますが、移動環境が変化したときに、どこから生活が揺らぐかには違いが見られました。

    都市:成立する生活と、調整されていく行動

    都市部では、徒歩や公共交通、宅配サービス、自転車など、複数の代替手段が存在するため、移動環境は維持されやすい状況にあります。そのため、移動が難しくなった場合でも、生活が急に成り立たなくなるわけではありません。
    一方で、行動は少しずつ調整されていきます。
    移動の制約は、困りごととして表に現れるというよりも、本人が行動を減らすことで対応されます。外出の頻度や選択肢、意欲が、本人にも自覚されないまま少しずつ減っていくのです。
    「前みたいにしょっちゅうは行かないけど、困っているわけではないんです。」
    都市部では、移動そのものは成立しているように見えても、外出頻度や行き先の選択、行動への意欲が徐々に薄れていくという変化が起こりやすいと考えられます。

    都市における外出頻度や意欲が徐々に薄れていく構造の図解

    地方:前提条件の変化が、生活全体に影響する

    一方で、地方では状況が大きく異なります。
    多くの地域で、車が生活の前提条件として機能しています。そのため、移動手段に変化が生じると、生活の組み立て全体に影響が及びます。
    外出の機会や人との関わり、そして社会の中での役割も同時に失われ、生活の縮小が短期間で進みやすいのが特徴です。
    「車に乗らなくなってから、顔を合わせる人が一気に減りました。」
    「バスは役所や病院にしか行かないから、カフェとか娯楽のあるところには行かれないの。」
    このように、地方では、移動手段の変化をきっかけに、外出・人との関わり・社会的役割といった生活の要素が同時に失われやすくなります。

    地方において移動手段の変化が生活全体に及ぼす影響の図解

    本調査から見えてきたのは、都市と地方の違いが、「移動できる/できない」の差ではなく、生活成立構造の、どこが・どのように失われるかの違いとして表れているということです。

    自立と依存で異なる、生活構造の失われ方

    同じ移動環境にあっても、「自立を前提にしている」のか、「他者や制度に頼る前提にしている」のかによって、生活成立構造の失われ方には違いが見られました。

    自立型:頼らない判断が、選択と意欲を削る

    自立を前提に生活している人の場合、困難が生じても「自分で何とかする」という判断が先に立つ傾向があります。そのため、支援を使う前に、行動を減らしたり我慢したりする対応が選ばれやすくなります。
    結果として、「選べる」「したいと思える」「関われている」と言った状態が、本人の判断によって弱まっていきます。
    「娘はいつでも頼ってと言ってくれるけど、忙しいから」
    「タクシーに乗ってまで行くほどのことではないなぁって」

    依存方:支えられることで、主体的に選ぶ機会が失われる

    支えられることを前提に生活している人の場合、移動や生活が、家族や支援、制度に頼る形で成立している傾向があります。そのため、移動や外出が、家族や支援者によって「手配されるもの」になりやすくなります。
    結果として、行き先や目的を自分で決める余地が小さくなっていきます。
    「デイケアに行ったらと言ってくれて、連れて行ってもらっています。」
    「野菜は農協から、週に2回届けてくれるんです。」

    本調査から見えてきたのは、これらの違いが、いずれも「移動が成立している」状態の中で起きており、支援の有無だけでは捉えきれない差が存在している点です。
    自立型では「頼ってもよい設計」が、依存型では「選べる余地を残す設計」が求められます。

    見えにくい移動格差 ― 本調査から導く定義 ―

    これまで見てきたように、移動に関する課題は、単に移動手段があるかどうかでは捉えきれません。
    都市と地方、自立と依存といった条件の違いによって、生活がどのように制限されていくかのプロセスに差が生まれています。
    一方で、共通して見えてくる傾向もあります。

    都市/地方、自立/依存に共通して見られた傾向

    • 移動手段があっても、生活の広がりが失われる場合がある

    • その変化は、困難として認識されにくい

    • 本人も周囲も気づかないまま進行することが多い

    では、なぜこの変化は見えにくいのでしょうか。

    課題が顕在化しにくい背景

    • 移動は成立しているように見える

    • 支援や代替手段が機能している

    • そのため、困難が表面化しにくい

    結果、生活の縮小は移動の問題として認識されにくく、「個人の選択」や「年齢のせい」として処理されてしまうことが少なくありません。

    まとめ

    本稿では、移動格差を「移動できるかどうかではなく、生活をどれだけ自分で組み立てられるかの差である」と捉えています。
    では、この差に対して私たちはどのように向き合えば良いのでしょうか。重要なのは、単に移動回数を増やすことではありません。生活が広がる機会や余地を、どのように作ることができるのか。その視点から、モビリティを捉え直す必要があると考えます。

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