共創とプロダクトの可能性を探る(インタビューw. Ginger)

エピソード3

    Report

    :共創から生まれるインクルーシブなIoTプロダクト事例集

    共創とプロダクトの可能性を探る(インタビューw. Ginger)

    【連載第3回】 共創から生まれるインクルーシブなIoTプロダクト事例集


    Gingerデザインスタジオは、デザインとエンジニアリングを同時に並行して行う「デザインエンジニアリング」のアプローチを採用し、ユーザーの多様なニーズに応えるプロダクトを開発しています。特に、プロトタイピングを重視し、不確実性の高い問題を迅速に解決し、気づいていなかった課題を発見することができます。

    本記事では、Gingerデザインスタジオに対して行ったインタビューの内容をご紹介します。このインタビューでは、ユーザーとの共創を通じて、より良い製品を生み出すことの価値について「Father’s Nursing Assistant(父親向けの授乳・寝かしつけデバイス)」「PALMBEAT(聴覚障害児向けの音楽教育のためのデバイス)」の2つのプロダクトに関する開発背景をもとに紐解きます。

    Gingerデザインスタジオについてと星野泰漢さんを紹介する資料

    インタビュー内容

    デザインエンジニアリングの重要性と実践

    CULUMU:Gingerデザインスタジオのポリシーについて教えてください。

    星野:私たちはデザインとエンジニアリングを同時に並行して行う「デザインエンジニアリング」に取り組んでいます。これにより、従来の部門間の壁を越えて、スムーズに新規性の高いプロダクトを開発することができます。

    CULUMU:具体的にはどのようなプロセスで問題解決を行っているのですか?

    星野:プロトタイピングを重視しています。実際にモノを作り、動かしてみることで、問題をクイックに解決したり、気づいていなかった課題を発見したりします。特に新規事業開発においては、このアプローチが非常に有効です。

    プロジェクトの背景と取り組み

    CULUMU:大学時代からこういったプロジェクトに取り組まれていたのですか?

    星野:そうですね。東大在学中にデザインサークルを立ち上げ、企業の仕事も手掛けていました。卒業後もそのメンバーと集まり、活動を続けていました。

    CULUMU:東芝のデザインセンターでの経験について教えてください。

    星野:東芝では、デザインとエンジニアリングの両方の視点からプロジェクトに取り組むことが求められました。特にロジカルシンキングが重要で、デザインを通じて課題解決を行うことが多かったです。

    プロダクト開発の具体例

    CULUMU:クライアントからの依頼に対して、どのようにプロダクトを開発しているのですか?

    星野:クライアントの要望に応じて、プロトタイプを繰り返し作成し、具体化していきます。例えば、男性用授乳デバイスの開発では、最初のコンセプトからデザインを柔軟に変更し、最終的に赤ちゃんにとって安心感のあるデザインに仕上げました。

    CULUMU:PALMBEATプロジェクトについても教えてください。

    星野:聴覚障害者向けのデバイスとして、最初はカラオケデバイスの提案から始まりましたが、最終的には子どもがリズムを覚えるためのデバイスに進化しました。インタビューやリサーチを通じて、具体的な課題を抽出し、それに基づいてプロダクトを開発しました。

    今後の展望

    CULUMU:今後の展望について教えてください。

    星野:デザインとエンジニアリングを組み合わせた課題解決を続けていきたいと考えています。また、自社製品の開発にも注力し、より多くの人に使ってもらえるプロダクトを作りたいと思っています

    Father’s Nursing Assistant 父親向けの授乳・寝かしつけデバイス

    CULUMU:それでは、「FATHER'S NURSING ASSISTANT」の開発背景についてお聞かせください。

    星野: 「FATHER'S NURSING ASSISTANT」は、男性が赤ちゃんの授乳や寝かしつけを行うことを目的としたウェアラブルデバイスです。女性の乳房のような形状を持ち、ミルクタンクを内蔵しており、赤ちゃんが母親の授乳時に感じる柔らかさや温かみ、鼓動を再現しています。開発のきっかけは、電通の高橋理氏が姉の家族を見て、授乳や寝かしつけの負担が母親に偏っていることに気づいたことでした。これを解決するために、男性も授乳ができるデバイスを開発することを決意しました。

    CULUMU:具体的にはどのような仕組みで動作するのですか?

    星野:デバイスは片側がミルクタンク、もう片方が授乳できる仕組みになっています。乳首部分にはセンサーが搭載されており、赤ちゃんが吸うとそれを感知してデータをアプリで記録するシステムも導入されています。これにより、赤ちゃんの授乳や入眠のタイミングを視覚的に捉えることができます。

    CULUMU:開発過程でのプロトタイピングやフィードバックについて教えてください。

    星野:小児科医やベビーシッターのアドバイスを参考にし、赤ちゃんが授乳時に感じる安心感を再現するための質感や機能に配慮しました。最初は男性が装着することを意識して鎧のようなデザインを考えましたが、最終的には赤ちゃんにとって柔らかく安心感を与えるデザインに変更しました。素材もシリコンゴムを使用し、赤ちゃんが触れる部分を柔らかくしました。

    CULUMU:国内外のフィードバックについて教えてください。

    星野:このデバイスは、2019年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で初めて公開され、国内外で大きな注目を集めました。日本国内では「Yahoo!」や「News Zero」に取り上げられ、Webでは500万回再生されるなど、多くのメディアで紹介されました。海外からの反応も非常にポジティブで、特にジェンダー平等を推進する活動家やメディアから高い評価を受けました。アメリカの元アナウンサーでジェンダー活動を行っている人物からも連絡があり、デバイスの提供を求められるなど、関心が高まりました。
    ヨーロッパでは、デンマークのルイジアナ美術館やドイツのマンハイム美術館で展示され、哲学的な問いかけとして「母性とは何か」をテーマにした展示会に参加しました。これにより、ヨーロッパでは母性やジェンダーに関する深い議論の一環として受け入れられました。

    父親による授乳と寝かしつけを支援するウェアラブルデバイスの画像

    Palm Beat 聴覚障害児向けの音楽教育のためのデバイス

    CULUMU:次に、PALMBEATの開発背景についてお聞かせください。

    星野:PALMBEATは、聴覚障害のある子どもたちが音楽のリズムやテンポを学ぶための教育デバイスです。クライアントの電通と共に企画を進め、特別支援学校の先生方からのフィードバックを基に開発しました。最初は聴覚障害者のためのカラオケデバイスを考えていましたが、子どもがリズムを覚えることに特化する形に落ち着きました。

    CULUMU:PALMBEATはどのような仕組みで動作するのですか?

    星野:PALMBEATには「指揮棒型」と「卵型」のデバイスがあります。先生が指揮棒型デバイスを振ると、赤外線通信で信号が発信され、生徒たちが持つ卵型デバイスが光りながら振動します。これにより、先生のリズムやテンポの指示が生徒たちに同時に伝わります。

    CULUMU:赤外線センサーを使用することに決めた理由は何ですか?

    星野:赤外線センサーを使うことで、遅延なく一対多の通信が可能になり、ペアリングの必要がないという利点があります。普段から新技術に触れていることで、こうした技術を活用するアイデアが自然と出てきました。

    CULUMU:開発過程でのプロトタイピングやフィードバックについて教えてください。

    星野:筑波大学附属聴覚特別支援学校の協力を得て、特別授業や音楽発表会を通じてデバイスの効果を検証しました。生徒たちはデバイスを使ってリズムを正確に取ることができ、音楽や歌うことの楽しさを再発見しました。特に「とんぼのめがね」という楽曲の難しいリズムを全員がマスターできたという成果がありました。

    CULUMU:デバイスの使用感やフィードバックはどうでしたか?

    星野:子どもたちからは「ビートがなくてもリズムが取れるようになった」という声がありました。先生方からも「リズムを教えやすくなった」というフィードバックをいただきました。

    技術と遊ぶ

    Gingerデザインスタジオの星野さんのインタビューの中で、「技術と遊ぶ」という言葉が非常に印象的でした。このフレーズは、技術を新しいおもちゃのように扱い、楽しみながら学び、実験する姿勢を表しています。
    新技術を楽しみながら学び、実験し、プロトタイピングを通じて問題を解決するアプローチが、革新的なプロダクトの開発につながっています。このように、技術と遊ぶ姿勢は、デザインとエンジニアリングの両面から問題を解決するための重要な要素であることが分かります。また、人を支えるテクノロジーとしての温かみを感じられる一言でした。

    PALMBEATの商品画像と子どもたちがリズム学習にPALMBEATを活用する様子

    まとめ

    デザインとエンジニアリングとインクルーシブ

    「抽象と具体」両方の視点でクライアントの状態に合わせた提案

    クライアントからの依頼が具体的な場合もあれば、非常に抽象的な場合もあります。例えば、男性用授乳デバイス「FATHER'S NURSING ASSISTANT」の場合は、具体的なコンセプトが最初から決まっていましたが、聴覚障害者向けデバイス「PALMBEAT」の場合は、何を創るか未確定の状態からスタートしました。クライアントの状態に合わせて、具体的な提案やデザインを行い、プロジェクトを進めていきます。この柔軟な対応が、ユーザーの多様なニーズに応えるための基盤となっています。

    プロトタイプを通じた迅速な問題解決とフィードバックの重要性

    プロトタイプを作成することで、問題を迅速に解決したり、気づいていなかった課題を発見したりすることができます。例えば、「PALMBEAT」では、特別支援学校の協力を得て、プロトタイプを通じてリズム教育の効果を検証しました。このように、プロトタイプを繰り返し作成することで、クライアントと共に最終的な形を具体化していきます。これにより、ユーザーからのフィードバックを迅速に取り入れ、製品の改善に役立てることができます。

    インクルーシブな視点での共創

    ユーザーと共にプロダクトを創り上げるインクルーシブなアプローチを重視しています。例えば、「PALMBEAT」の開発では、特別支援学校の先生方や生徒たちからのフィードバックを積極的に取り入れ、リズム教育の効果を高めるための改良を行いました。また、「FATHER'S NURSING ASSISTANT」では、男性が授乳を行うことでジェンダー平等を推進するという社会的な意義を持たせ、ユーザーの多様なニーズに応えるプロダクトを目指しました。このように、ユーザーとの共創を通じて、より良い製品を生み出すことを目指しています

    プロトタイプと共創によるプロダクト開発プロセスの概念図
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