インクルーシブデザイン・ハニカムとその事例(後編)

エピソード4

    Report

    :インクルーシブ・デザインハニカムから考える共創のはじめかたキットと事例集

    インクルーシブデザイン・ハニカムとその事例(後編)

    【連載第4回】 インクルーシブ・デザインハニカムから考える共創のはじめかたキットと事例集


    前回は、インクルーシブデザイン・ハニカムの「Market」の視点から、製品・サービスのイノベーション創出やブランド価値向上について紹介しました。

    インクルーシブデザイン・ハニカムでは、インクルーシブデザインに取り組む目的を以下の6つの領域に整理しています。

    • 製品・サービスのイノベーション創出(Market)

    • 製品・サービスのブランド価値向上(Market)

    • 社員の当事者意識向上(Company)

    • 社内のプロセスイノベーション(Company)

    • 多様な人々の機能的価値向上(Customer)

    • 多様な人々の情緒的価値向上(Customer)

    インクルーシブデザインの目的を、機能的価値・情緒的価値・イノベーション・ブランド価値・当事者意識・社内プロセスの6領域で整理した図

    今回はその中から、「Company」と「Customer」の視点に着目し、インクルーシブデザインが組織やユーザーにどのような価値をもたらすのかを事例とともに紹介します。

    社員の当事者意識の向上

    社会課題への社員の当事者意識を高める

    インクルーシブデザインを通じて、実際に社会課題やマイノリティの人々と触れ合うことにより、社員一人ひとりの当事者意識向上を目指すパターンです。
    実際の事業を通じてマイノリティの人々と対話し、理解を深められるため、人材育成や研修よりもより実用的な方法で事業に活かすことができます。
    本目的を主目的とするケースは多くはありませんが、副次的な目的として有効といえます。

    Company視点における社員の当事者意識向上のアイコン

    徳島県立博物館

    徳島県立博物館では2019〜20年にインクルーシブデザインを活用した展示の見直しが行われました。多様な当事者との共創を通じて「本当に伝えたいことが伝わっていない展示になっている」ということを職員自身が実感したことで、職員の意識が変わり、ワークショップ後も自ら発見を続けて改善策を考えるための土壌をつくることができました。

    リディラバ

    リディラバでは、さまざまな企業が社会課題起点で事業をつくる伴走支援を行っています。企業で働く人にとって、SDGsや社会課題が身近でなく取り組むテーマ自体を定められないといったケースも少なくありません。プログラムを通じて、自社のミッションと社会課題の接点を見つけることで、社員の当事者意識を高めるサポートを行っています。

    徳島県立博物館とリディラバを例に、インクルーシブデザインが職員や社員の当事者意識向上につながることを示した図

    社内のプロセスイノベーション

    製品・サービス開発のプロセスを変革する

    製品・サービスの開発において、多様な人々の参加機会をつくるプロセスを、社内に浸透させることを目指すパターンです。
    これまで企業のみで行ってきた製品・サービス開発に、実際のユーザーとなる人の直接的な声を取り入れることで、新たな視点や発想を取り入れることができます。
    インクルーシブデザインは元々、従来デザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、デザインプロセスの上流から巻き込むデザイン手法のことを指します。こうしたプロセスイノベーションは、インクルーシブデザインの本質ともいえます。

    Company視点における社内のプロセスイノベーションのアイコン

    コクヨ

    コクヨでは、特例子会社・コクヨKハートや多様な社外の仲間とともに、インクルーシブデザインによって社会のバリアを発見し、誰もが自分らしくいられる社会をつくることを目指しています。
    このプロセスに「HOWS DESIGN」という名前をつけ、共感・共創によるモノづくり・コトづくりを進めています。

    ファーストリテイリング

    ファーストリテイリングでは、障害者や難民などの雇用を全世界で積極的に行っています。単にこうした人々を雇用するだけではなく、当事者の視点だからこそ得られるお客様の困りごとへの気づきを生かし、より良い買い物体験の創出を生み出し続けています。

    コクヨの「HOWS DESIGN」とファーストリテイリングの障害者の声を生かした店舗づくりを、社内プロセスイノベーションの事例として示した図

    多様な人々の機能的価値向上

    誰もが同じ労力で使えるものをつくる

    これまで製品やサービスの設計・デザインを行う上で、製品・サービスの想定ユーザーとして排除されてきた人たちに目を向け、メインユーザーと考えられてきた人と同様に利用できることを目指す、課題解決型(マイナス→ゼロ)のアプローチです。
    障害の有無や特性に関わらず、誰もが同じ労力で製品・サービスを使えるようにすることを目指すパターンです。

    Customer視点における多様な人々の機能的価値向上のアイコン

    freee

    freeeは、“だれでも”サービスを使ってビジネスを推進できる世界を目指しています。
    その実現のため、全盲のエンジニアや視覚障害当事者によるレビュー会などを通じて、誰にとっても使いやすいプロダクトづくりを行っています。

    かみす防災アリーナ

    平時も災害時も誰もが過ごしやすい公共空間を目指した施設です。
    段差のないフラットなアプローチや多目的トイレ、車椅子対応エレベータなどを備え、誰もが使いやすい空間を実現しています。

    freeeの誰でも使いやすいプロダクトづくりと、かみす防災アリーナの誰もが過ごしやすい公共空間を、機能的価値向上の事例として示した図

    多様な人々の情緒的価値向上

    誰もが「うれしい」と感じるものをつくる

    多様な特性を持つ当事者の人々の課題に寄り添い、あらゆる人にとって機能だけなく、心理的にも満足できる製品・サービスを目指すパターンです。
    多様な特性のある人々にとってうれしい体験をつくることが、結果として他のユーザーにとっても共感される価値につながることも少なくありません。

    Customer視点における多様な人々の情緒的価値向上のアイコン

    セブン銀行

    セブン銀行ATMは、“誰一人取り残されない社会の実現”という理念のもと、機能面だけでなく五感で感じる「使い心地の良さ」にもこだわっています。
    ATMで良質な体験を提供し、「ATMを使うなら、セブン銀行ATMがいい」と選ばれる存在を目指し、改善が続けられています。

    ケンタッキーフライドチキン(中国)

    中国のケンタッキーフライドチキンでは、高齢者の利用体験にフォーカスしたスマホアプリを提供しています。
    高齢者モニターによる検証を通じて、「おすすめメニューを選ぶ傾向がある」「クーポンに敏感」「予想外の挙動に混乱しやすい」などの発見を得ました。
    これらのインサイトからシンプルなアプリを提供した結果、シニア世代だけでなく若者にも支持されるアプリとなっています。

    まとめ

    インクルーシブデザインは、製品やサービスの改善だけでなく、組織の意識変革や開発プロセスの変革にもつながります。
    また、多様な人々の機能的価値や情緒的価値の向上を目指すことで、結果としてより多くの人にとって価値のある体験を生み出すことができます。

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