建築業界のインクルーシブ事例:Lekker Architectsの取り組み
エピソード3
Report
:多様なユーザーとの共創プロセスを実現するインクルーシブな公共空間・商業施設事例集

【連載第3回】多様なユーザーとの共創プロセスを実現するインクルーシブな公共空間・商業施設事例集
インクルーシブデザインに関する取り組み
シンガポールを拠点に活動する建築設計事務所Lekker Architectsの事例を通して、
どのようなアプローチで包括的な空間設計を行っているかをご紹介します。
Lekker Architectsは、インクルーシブデザインの分野で革新的な取り組みを行っています。このスタジオは、共感と深い研究を基に、すべての人のためのデザインを通じて社会的成果を追求しています。
そのデザイン哲学においては、デザインを単なる受動的なユーザーへの慈善行為として捉えるのではなく、相互関係を築く手段であると考えています。このアプローチは、人々とデザインが共に進化し、より良い空間を生み出すことを目指しています。
また、研究と教育への貢献として、デザインとテクノロジー、感情の関係を研究するEmotional Technologies Labを設立し、デザインが人々の感情に与える影響を最適化するための推奨を行っています。
こうした取り組みを通じて、Lekker Architectsはインクルーシブデザインの新しい可能性を示し、デザインが社会に与える影響を再定義しています。彼らのプロジェクトは、異なるニーズを持つ人々が共存できる柔軟な空間を創造することに重点を置いています。
Kindle Garden:シンガポール初のインクルーシブ保育園
すべての子どもたちの可能性を広げる
Kindle Gardenはシンガポール初のインクルーシブな幼稚園として設立されました。この幼稚園は、通常発達の子どもたちだけでなく、ダウン症、視覚・聴覚障害、ASDスペクトラム上のさまざまなニーズを持つ子どもたちを受け入れることを目的とし、開校から1年後には、すべての子どもたちに対して1年間の待機リストができるほどの人気となりました。この成功を受けて、シンガポールでは他のインクルーシブな幼稚園プロジェクトも進行中です。

出典:A breakthrough for inclusive education in Singapore
子ども一人ひとりの特性に配慮した空間設計
まず、教室内のレイアウトには固定されたテーブルや椅子を設けず、子どもたち一人ひとりの身体的および認知的ニーズに応じた、柔軟な学習スペースが提供されています。
また、空間内の座席や装飾、治療的要素を一体化させることで、どの子どもも区別されることなく、自然に学ぶことができる環境が実現されています。
さらに、従来の臨床的な要素を再設計し、治療機器や感覚的なスペースをモダンで前向きな学習環境の中に統合しています。
加えて、自閉症スペクトラムの子どもたちの視覚的な敏感さに配慮し、特定の色のパレットを用いることで、空間全体のトーンを調整し、刺激を最小限に抑える設計がなされています。
Oasis@Outram: 終末期ケアにおけるインクルーシブデザイン
多様なニーズに応えるホスピス施設の設計とその社会的・感情的サポートのアプローチ
Oasis@Outramは、シンガポールのOutramコミュニティ病院内に設立された日帰りホスピス施設であり、生命を制限する病気を持つ患者に対して質の高い終末期ケアを提供することを目的としています。この施設は、デザインと機能性を融合させ、患者やその家族にとってアクセスしやすく、多様なニーズに対応する環境を提供しています。

出典:A breakthrough for inclusive education in Singapore
多様なニーズに対応した施設設計
成人患者だけでなく、小児患者向けの設備も提供されており、遊び場としての隠れ家やジャグジー付きの浴室、機械式リフトシステムなどが整備されています。これにより、年齢や身体的な能力に応じたケアが可能となっています。
また、患者がその日の活動を自由に選択できる環境が整えられており、事前に決められたプログラムに縛られることなく、個々のニーズや希望に応じた活動を行うことができます。
さらに、患者が自己表現を通じて重要な終末期の会話を促進するためのツールが提供されており、心理的・感情的なニーズにも配慮したケアが実現されています。
加えて、小児患者向けの設備には、親が肉体的な負担を感じることなく介護できる機械式リフトシステムが導入されています。これにより、介護者や家族も安心して利用できる環境が整えられています。
Quiet Room:シンガポール国立博物館の「静かな部屋」
感覚過負荷を軽減する博物館での取り組み
シンガポール国立博物館は、視覚的で体験的な展示が感覚処理障害を持つ訪問者、特に自閉症スペクトラム(ASD)の人々にとって挑戦となることを認識しました。そこで、彼らのために感覚的な「安全空間」を提供することを目的として、「静かな部屋」を設置しました。
この「静かな部屋」は、公共博物館におけるインクルーシブ性の新たな方向性を示しています。感覚過負荷を経験する訪問者がリラックスできる空間を提供することで、博物館がより多様な人々にとってアクセス可能であることを目指しています。この取り組みは、デザインがどのようにして社会的包摂を促進できるかを示す重要な事例となっています。
このプロジェクトは、感覚的なニーズに応じた柔軟なデザインソリューションを提供することで、インクルーシブデザインの可能性を広げています。

出典:A new paradigm in sensory spaces
来館者が安心して過ごせるよう配慮された空間
このスペースは柔らかいアーチ型の形状と囲いで、訪問者に安心感を与えるデザインとなっています。
また、表面は無限に近い色調と彩度に調整可能で、個々の感覚ニーズに合わせて環境をカスタマイズすることができます。
さらに、部屋は周囲の壁や床から分離されており、振動や環境ノイズを効果的に遮断します。
加えて、触感のある柔らかいオブジェクトが用意されており、感覚体験を不快感から穏やかさへと移行させるよう設計されています。
Kam and Goh:高齢者の社会的交流を促進するコミュニティ空間
高齢者の社会的交流を促進するモバイルコピティアム
シンガポールの高齢者が直面する孤立と社会的不安の問題に取り組むため、「Kam and Goh」というモバイルコピティアム(※)を開発しました。このプロジェクトは、公共住宅の空間を活性化し、異なるデモグラフィックの人々が交流できる場を提供することを目的としています。
「Kam and Goh」は、デザインが社会的包摂を促進し、異なる背景を持つ人々が共に過ごすことができる空間を提供することで、コミュニティの強化に貢献しています。
※コピティアムは、マレーシアやシンガポールを中心に東南アジアで見られる伝統的なコーヒーショップであり、地域の文化や社会において重要な役割を果たしています。

出典:Kam-&-Goh: A mobile "kopitiam" for lonely seniors
高齢者の社会的交流を促進することを目的としたコミュニティ空間
この取り組みでは、シンガポールの伝統的なコピ文化(※)を活用し、高齢者が親しみを感じやすい環境を提供しています。これにより、地域の人々が自然に集まりやすくなり、交流の促進につながっています。
※コピ文化は、シンガポール独特のコーヒーの飲み方を指しています。
また、モバイルコピティアムとして設計されており、さまざまな場所に柔軟に展開することが可能です。2019年には公共住宅の空きデッキで実施され、異なる背景を持つ人々が自由に交流できる環境が提供されました。
さらに、このプロジェクトは、孤立した高齢者に社会的交流の機会を提供し、異なるデモグラフィックの人々が互いに交流できる場を作り出しています。これにより、コミュニティのつながりが強化されています。
こうした取り組みは、デザインを通じて異なるニーズを持つ人々が共存し、交流できる柔軟な空間を創造できることを示しています。
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