大学のアクセシビリティ対応状況ーサステナブル方針・axe DevToolsによる調査結果
エピソード3
Report
:教育機関におけるアクセシビリティ対応状況 首都圏の大学における調査レポート

【連載第3回】 教育機関におけるアクセシビリティ対応状況 首都圏の大学における調査レポート
前回の記事では、首都圏の大学を対象に、Webアクセシビリティ方針の公開状況やアクセシビリティ試験の実施結果・適合度など、各大学がどのようにアクセシビリティ対応を進めているかを見てきました。
本記事では、まず、各大学のサステナビリティへの取り組みを見ていきます。さらに、実際のウェブサイトにどの程度アクセシビリティ上の課題が存在しているのかを、より客観的な視点から確認します。アクセシビリティ検査ツールであるaxe DevTools Totalを用いて、大学の各サイトのトップページにおけるアクセシビリティ課題(Issue)の数を調査しました。
また、調査結果に加えて、特徴的なアクセシビリティの取り組み事例や、調査から見えてきたアクセシビリティ課題の傾向についても整理します。本記事では、これらの分析を通して、各大学のWebアクセシビリティの現状を見ていきます。
傾向としては、以下のようなことが見えてきました。
サステナブル方針・サステナビリティポリシーの公表状況を見ると、国立大学と公立大学では比較的多くの大学が方針を公表しているのに対し、私立大学ではその割合は低くなっています。また、axe DevToolsを用いたアクセシビリティ評価におけるIssue平均数では、国立大学が17件であるのに対し、公立大学および私立大学はいずれも35件となっており、相対的に課題の多さがうかがえます。
サステナブル方針、サステナビリティポリシー
サステナブル方針やサステナビリティポリシーにおいては、「国立」が50%、「公立」が67%、「私立」が43%の大学に方針が示されており、国立と公立の大学では50%以上の大学で方針ページがあったものの、「私立」では、50%以下という結果となりました。
「国立」と「私立」においては、アクセシビリティの方針よりも、サステナブル方針の方が対応度が高く、サステナビリティをより重要視する傾向が見られました。

大学ごとの axe DevTools TotalでのIssue数
以下のグラフは、axe DevToolsを用いた各大学のIssue数を表しています。横軸は「axe DevTools Total Issue数」、縦軸は「大学数」を示しています。
Issue数が「11~15」の大学が最も多く32大学あり、次いで「6~10」と「16~20」の範囲がそれぞれ28大学でした。
以下は、Issue数が「1~5」の大学は26校、101以上のIssue数を持つ大学は11校となっておりました。そのほかの範囲では、全て10大学以下となっています。
以上を踏まえて、多くの大学において、アクセシビリティにおける1つ以上のIssueを持っていることを示しています。

axe DevToolsとは
axe DevToolsは、Deque Systems, Inc. が開発、公開している、「axe」というアクセシビリティー・チェック・ツールを各種ブラウザ(Chrome、Firefox、Edge) の拡張機能として利用ができるものです。miCheckerと同等のチェック内容(WCAG 2.1)について、ページ単位でアクセシビリティの確認がおこなえます。
ツールなどを使って機械的にウェブページのアクセシビリティをチェックできるのは、全体の20%前後といわれていますが、対応状況の概要を知る上では有効といえます。
より詳細にアクセシビリティの評価、改善をおこなっていく場合は、個別に目視での確認や実際に支援機器(例えばスクリーンリーダーなど)で確認を行う必要があります。
axe DevTools®

特徴的な取り組み
アクセシビリティサポート部署の運営
障害のある学生が自立して学び、キャンパスライフを充実させるためには、学習支援、移動支援、心理的サポートなど多岐にわたる支援が必要です。こうした支援を一元的に提供するサポート部署は、障害のある学生が自分の力で大学生活を送れるように支え、学生生活の質を向上させるための手助けをします。
学生の学習成果の向上
サポート部署を通じて障害のある学生が受ける支援(合理的配慮や学習支援)は、学生が持つ可能性を最大限に発揮する助けとなり、学業成績の向上や自立した学習を促進します。
学生の心身の健康を支える
学習面だけでなく、心身の健康やメンタルケアにおいても支援が提供されるため、学生がストレスを軽減し、安心して大学生活を送ることが可能になります。

具体的な支援例
講義や試験における合理的配慮
試験時間の延長や別室受験、録音許可、補聴機器の貸出など、講義・試験時において障害のある学生が学習内容を理解しやすくするための配慮ノートテイクや筆記補助
視覚や聴覚に障害がある学生に向けて、ノートテイカーが授業内容を記録・整理し、必要な情報をリアルタイムで提供する支援
施設内のアクセシビリティ向上
出入り口の段差解消、スロープやエレベーターの設置、視覚障害者用の案内表示など、物理的な施設の改善
デジタル教材や補助機器の提供
視覚・聴覚に障害がある学生向けに、電子教科書、字幕付き動画教材、音声認識ソフトなど、デジタル技術を活用した教材や機器の提供
学生生活におけるサポート
学内の相談室やカウンセリングなど、学生の精神的・社会的なサポートを提供することで、障害のある学生が安心して大学生活を送れる環境を整えることや、食事や居住環境の調整、健康診断の補助など、生活面での配慮

アクセシビリティマップの公開
アクセシビリティマップの公開は、障害のある学生にとっての大学キャンパス内の利便性の向上と、インクルーシブな学習環境の推進につながります。こうした姿勢は、他の学生や教職員にも多様性の重要性を伝え、包括的な大学づくりの一環としての効果が見込まれます。
学生の自立性と安心感の向上
アクセシビリティマップを利用することで、障害のある学生は自身で安全に移動ルートや設備を確認し、日常の大学生活をスムーズに過ごすことができます。これにより、自立性が高まり、心理的にも安心感を得やすくなります。
安全管理と緊急対応の改善
地図上で設備の位置が示されていることで、緊急時にも障害のある学生が安全に避難しやすくなります。どの経路が安全で、どの施設が利用可能かが事前にわかることで、危機管理の面でも大きな利点があります。

より安心してキャンパスを利用できるアクセシビリティマップ
キャンパス全体のアクセシビリティマップだけでなく、校舎ごとのマップや動画などを活用することで、学生は特定の建物内の経路、施設の配置、各フロアで利用できる設備(エレベーター、スロープ、バリアフリートイレなど)について事前に詳細に把握できます。
特に動画による案内は、視覚的にわかりやすく、特に初めての場所に不安を感じる学生にとって安心材料となります。

学生による、ピアサポート
授業内でのノートテイクや移動支援など、授業や日常生活において必要なサポートを受けられることで、より快適に学習ができる環境が整います。またサポートをする学生にとっても、活動を通して障害に関する理解や共感力が深まり、多様な背景を持つ人々と接することで、他者を理解し、尊重する共生社会に必要なスキルを身につけることができます。
安心感の向上
サポートスタッフが同席していることで、困った時にすぐに助けを求められる安心感を得ることができます。このようなサポート体制があると、精神的な負担が軽減され、大学生活をより充実させることができます。
サポートをする学生の自己成長と貢献意識の向上
他者のサポートを通じて、自分の行動が他人の役に立つことを実感し、自信ややりがいを感じることができます。これは自己成長の促進につながり、社会貢献への意識も高まります。
学内コミュニティの多様性向上と交流促進
サポートスタッフとして活動する学生と障害のある学生が日常的に関わることで、学内コミュニティの多様性が豊かになり、学生間の理解と交流が促進されます。これは、キャンパス内の連帯感や多様性への理解を深める一助となります。

アクセシビリティ/サステナビリティ人材の育成
アクセシビリティ/サステナビリティリーダーの育成を通じて、学生が周囲の人々の理解を促進し、将来的に社会の中でのリーダーシップを発揮できるよう支援します。
アクセシビリティリーダープログラム(ALP)
オンライン講座で基礎知識を学び、資格を取得し、現場での実践に移る段階的なプログラムです。「導入編」「基礎編」(各6章)があり、各章ごとの確認テストに合格すると次に進むことができ、すべての確認テストに合格すると修了で、オンライン講座を修了すると、「2級アクセシビリティリーダー」の資格認定試験を受けることができます。
アクセシビリティリーダーキャンプ(ALC)
企業訪問や参加者との議論を通して、将来リーダーとして果たす役割を考える取り組みで、全国の各大学から選抜された学生が、数日間の研修とグループワークを行います。「社会の最新ニーズ・取り組みを学び人に優しい未来を考える」課題解決型学外研修です。
アクセシビリティ人材の育成を通して、学生視点のマップを制作
学生自らの視点でキャンパスのアクセシビリティマップを制作
東工大のアクセシビリティガイドとなるマップを制作するにあたり、学生の視点は不可欠として、「どういったことを、どう案内するといいか」を考察し、日ごろ感じていたことや新たに気づいた点等を学生スタッフ自身が洗い出しを実施。
アクセシビリティ人材育成プログラムに参加した学生が主導
プロジェクトに参加したのは、2021年度に「2級アクセシビリティリーダー」資格を取得した学生で、多様な視点が集まり、マップに盛り込むべきポイントを整理することができました。

ジェンダー・エクイティとバリアフリーの推進
東京大学では、「バリアフリー支援室」と、「男女共同参画室」が、これまでの蓄積をふまえて発展的に統合され、「多様性包摂共創センター」として新たな出発をし、「世界のだれもが来たくなる大学」の実現を推進しています。
D&I棟(仮称)の建設
2026年にはIncluDEの活動拠点となる「D&I棟(仮称)」が設立される予定で、日本のDEI推進の重要な拠点となることが期待されています。この施設では、DEIに関する研究と実践の連携を深め、国内外への情報発信を行うとされています。
リアルイベントの開催
2024年7月には「SOGIの多様性と包摂~誰もが自分らしく生きられる社会を目指して~」というイベントが開催され、大学や企業、NPOなど多様なアクターが集まり、LGBTQ+の包摂をテーマにしたネットワーキングが行われました。リレートークや交流会も開かれ、参加者同士の連帯を深める機会が提供されました。

まとめ
本記事では、首都圏の大学を対象に、サステナブル方針の公表状況および、axe DevToolsによるアクセシビリティ評価の結果をもとに、各大学の対応状況について見てきました。
その結果、国立大学や公立大学ではサステナビリティに関する方針の公表が比較的進んでいる一方で、私立大学では対応にばらつきが見られることが分かりました。また、アクセシビリティ評価においては、公立大学・私立大学でIssue数が多い傾向が見られ、全体として改善が必要な状況が明らかになりました。
一方で、各大学が独自に工夫を凝らしたアクセシビリティに関する実践も見られました。こうした取り組みは、誰もが安心して学べる場所づくりへとつながっています。
しかしながら、アクセシビリティ対応は一部の取り組みに限られているケースも多く、全体としては継続的な改善やさらなるアクセシビリティの推進が課題として残されています。今後は、方針の策定と実践を結びつけながら、誰もが利用しやすい環境を整備していくことが求められます。
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