金融機関のインクルーシブ事例
エピソード3
Report
:金融業界で広がるインクルーシブデザイン

【連載第3回】 金融業界で広がるインクルーシブデザイン
近年、金融業界はフィンテック企業の台頭やデジタル化の進展、少子高齢化や社会の多様化など、大きな変化の中にあります。こうした変化に対応し、新たな価値を生み出していくためには、従来の金融サービスの枠組みを見直し、多様な利用者の視点を取り入れたサービス設計が求められています。
本記事では、金融業界におけるインクルーシブデザインの国内外の事例を紹介します。
セブン銀行ATM
健常者から多様な方まで幅広い方にとって使いやすいATM
セブン銀行ATMは、「誰かに使いやすいから、みんなに使いやすい」という考え方のもと設計されています。
2019年にセブン銀行は、「いつでも、どこでも、だれでも、安心して」というビジョンを掲げ、ATMのデザインや機能を一新しました。音声ガイダンスシステムの導入により、視覚障がいのある方も安全かつ便利に利用できるコンビニATMとして注目を集めました。
また、現在はセブン銀行ATMを設置することで、ショッピングモールや複合施設の集客力向上にもつながるとされており、設置台数も大幅に増加しています。
マイノリティが抱える課題やニーズに着目することで、結果としてより多くの人にとって使いやすいサービスを実現しています。マイノリティの抱える問題意識をもとに、マジョリティに対しても新たな価値を創出する、インクルーシブデザインの好事例といえます。

みんなの銀行
デジタルネイティブ世代に提供する全く新しいバンキング
みんなの銀行は、口座開設や送金、ATM入出金までスマートフォンで完結できるデジタルバンクです。実店舗を持たない新しい銀行の形を実現し、デジタルネイティブ層を中心に支持を集めています。2021年の開業から1年間で、アプリのダウンロード数は約100万件、開設口座数は40万口座に達しました。
また、イラストを活用した親しみやすいデザインと洗練されたUI/UXによって、従来の銀行とは異なる新しい顧客体験を提供しています。この事例は、デザインが金融サービスの価値向上や新たな顧客層の獲得に貢献していることを示しています。

AGENT伊予銀行
地銀がデジタルが苦手な方も取り込む全国初アプリで活路
単なる業務のデジタル化ではなく、顧客体験を軸に企業改革につなげている企業が、愛媛県にある地方銀行の伊予銀行です。
伊予銀行では、口座開設などの申請手続きを店頭のタブレット端末で顧客自ら入力できるようにした「店舗受付AGENTアプリ」を導入し、業務改善を進めています。デジタルに不慣れな方にも配慮しながら、ユーザー・銀行・行員の三方良しを実現する取り組みとして注目されています。
アプリ導入により、顧客の待ち時間や書類作成時間を大幅に削減し、行員の事務作業も約80%削減しました。これまで45分かかっていた口座開設時の入力時間は約6分に短縮され、通帳・カード発行まで含めても約10分で手続きが完了するようになりました。

福岡銀行
「みんなに優しい銀行」の実現へ向けた「ユニバーサルアクション」の実行
ふくおかフィナンシャルグループのコアバンクとして、福岡県内を中心に九州全域に店舗を展開する福岡銀行では、「みんなに優しい銀行」の実現に向けた取り組みを進めています。
お子様連れの方、高齢者、外国人など幅広い利用者を対象に、事業のさまざまな接点で誰にでも分かりやすい工夫を行うことで、来店される方が快適にサービスを受けられる環境づくりを行っています。
福岡銀行では、ユニバーサルデザインに「行動(アクション)」の考え方を加えた「ユニバーサルアクション」を推進しています。設備やサービスの改善だけでなく、行員一人ひとりの対応も含めて、誰もが利用しやすい銀行を目指しています。
具体的には、車椅子利用者への配慮、高齢者に優しいサービス設計、ユニバーサル対応ATMの導入、外国人利用者への対応に加え、多様な利用者への理解を深めた行員によるサポートなど、多面的な取り組みを実施しています。

みずほフィナンシャルグループ
様々なバックグラウンドの従業員がはたらきやすく
株式会社みずほフィナンシャルグループは「work with Pride」が策定する「PRIDE指標2021」において最高評価の「ゴールド」を5年連続受賞と同時に「ベストプラクティス」に選定されています。LGBT+等の性的マイノリティの社員が不利益を感じることなく安心して働くことができるよう、人事制度・福利厚生制度や相談窓口の設置等の環境を整備しています。 株式会社みずほ銀行では2017年に邦銀で初めて住宅ローンにおいて、家族ペア返済や収入合算での配偶者の定義に同性パートナーを含めるお取り扱いを開始しました。また、みずほ信託銀行株式会社の信託商品「選べる安心信託」においても、信託財産受取人に同性パートナーを指定できるよう対応しています。

福井銀行
地域のDX、ウェルビーイングを目指す地方銀行
株式会社福井新聞社と株式会社福井銀行は2022年9月5日、地域のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を目的に、株式会社ふくいのデジタルを共同設立しました。新会社は、ふくアプリを通じて新たな体験価値を提供し、持続可能な地域社会・経済エコシステムの創出を目指しています。また2024年春の北陸新幹線福井・敦賀延伸を見据え、福井県に暮らす人々だけでなく、福井県を訪れる人々のウェルビーイングの向上を目的として掲げています。
国として打ち出す「デジタル田園都市国家構想」や、新型コロナウイルス禍によりデジタル化が地方でも重要度を増していることを鑑み、ふくアプリ事業を展開し、より強力にDXを活用した地域共創の取り組みを進めています。

海外の事例 WeCapital
女性の経済的自立と金融包摂をテクノロジーで解決
メキシコでは女性の83%がクレジットヒストリーを利用できないため、ローンの申し込みが却下され、勉強やビジネスを始める障壁となっています。この課題に対しWeCapitalは、近所のお店でのアナログ支払履歴を信用履歴データとして活用できるプラットフォーム「DataTienda」を構築しました。これらのサービスにより、女性が起業するにあたってマイクロクレジットを受け取るための基盤を構築しました。
2021年1月に開始されたこの取り組みは、同年12月には、100人以上の女性が初めてマイクロクレジットを受け取り、プラットフォーム開設以来、1万人以上の女性がクレジットヒストリーを構築するために登録、2300人以上の女性がビジネスや学習計画のためのマイクロローンを受けています。

海外の事例 Capital One Financial Corporation
職場の文化を醸成する7つのビジネスリソースグループ
アメリカ合衆国・バージニア州に本部を置く金融持株会社、Capital Oneではビジネス・リソース・グループ(以下BRG)と称する7つのコミュニティを設置し多様なバックグラウンドをもつ社員のサポートシステムを構築しています。コミュニティはそれぞれ、LGBTQ+、障がい者、女性のエンパワーメント、ヒスパニック系/ラテン系バックグラウンド、アジア系バックグラウンド、退役軍人と配偶者、Capital One全体のリーダーシップに分かれており、各グループ内で幅広いコミュニティ活動を実施しています。ワークショップ、コーチング、目標開発を通じたリーダーシップスキルの育成など、様々なバックグラウンドをもつ社員が自身のアイデンティティに帰属した文化を醸成し、多様な文化が混ざりあった企業文化の育成に効果を上げています。

まとめ
金融業界では、DXの推進や社会の多様化を背景に、より多様な利用者に寄り添ったサービスづくりが求められています。インクルーシブデザインは、特定の人の課題を解決するだけでなく、新たな顧客体験や事業機会の創出につながる考え方です。
本ホワイトペーパーで紹介した事例からも、顧客向けサービスの改善だけでなく、組織づくりや地域社会への貢献など、さまざまな場面でインクルーシブデザインが活用されていることが分かります。
多様な人々の声に耳を傾け、その視点をサービスや事業に取り入れることは、これからの金融機関にとって持続的な成長と新たな価値創出につながる重要な取り組みといえるでしょう。
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