都内の美術館と博物館のアクセシビリティ対応状況ーサステナブル方針・axe DevToolsによる調査結果

エピソード3

    Report

    :美術館と博物館のアクセシビリティ対応状況一斉調査レポート

    都内の美術館と博物館のアクセシビリティ対応状況ーサステナブル方針・axe DevToolsによる調査結果

    【連載第3回】美術館と博物館のアクセシビリティ対応状況一斉調査レポート


    前回の記事では、都内の美術館や博物館を対象に、Webアクセシビリティ方針の公開状況やアクセシビリティ試験の実施結果・適合度など、各施設がどのようにアクセシビリティ対応を進めているかを見てきました。

    本記事では、まず、各施設のサステナビリティへの取り組みを見ていきます。さらに、実際のWebサイトにどの程度アクセシビリティ上の課題が存在しているのかを、より客観的な視点から確認します。アクセシビリティ検査ツールであるaxe DevTools Totalを用いて、美術館・博物館の各サイトのトップページにおけるアクセシビリティ課題(Issue)の数を調査しました。
    また、調査結果に加えて、特徴的なアクセシビリティの取り組み事例や、調査から見えてきたアクセシビリティ課題の傾向についても整理します。本記事では、これらの分析を通して、美術館・博物館のWebアクセシビリティの現状を見ていきます。

    サスティナブル方針、サステナビリティポリシー

    美術館の59館中1館(約2%)、博物館の45館中1館(約2%)と、サステナビリティポリシーの公表率がいずれも非常に低く、アクセシビリティよりも対応が進んでいませんでした。
    美術館と博物館の間で大きな差異は見られませんが、全体で東京富士美術館と日本科学未来館の2施設でしかサステナビリティポリシーを公表していない状況となりました。

    美術館・博物館ともにサステナビリティポリシーの公表率は約2%

    美術館と博物館ごとのaxe DevTools TotalでのIssue数

    Issue数が「1~5」の施設が最も多く18施設、次いで「6~10」の範囲が16施設で、これら2つの範囲が全体の大部分を占めています。
    一方、Issue数が「11~30」の中程度の範囲には合計33施設が該当し、一定数の施設が存在します。それ以降(36~100)の高いIssue数の範囲では該当施設が少ないですが、「101以上」の範囲には16施設と、非常に多くの問題を抱える施設も確認されました。
    一方で、Issue数が「0」の施設はわずか3施設にとどまり、全体としてアクセシビリティ対応の改善が求められる状況になっています。

    美術館・博物館のWebサイトにおけるaxe DevTools TotalのIssue数分布

    axe DevToolsとは

    axe DevToolsは、Deque Systems, Inc. が開発、公開している、「axe」というアクセシビリティー・チェック・ツールを各種ブラウザ(Chrome、Firefox、Edge) の拡張機能として利用ができるものです。miCheckerと同等のチェック内容(WCAG 2.1)について、ページ単位でアクセシビリティの確認がおこなえます。
    ツールなどを使って機械的にウェブページのアクセシビリティをチェックできるのは、全体の20%前後といわれていますが、対応状況の概要を知る上では有効といえます。
    より詳細にアクセシビリティの評価、改善をおこなっていく場合は、個別に目視での確認や実際に支援機器(例えばスクリーンリーダーなど)で確認を行う必要があります。

    axe DevTools®

    axe DevToolsでアクセシビリティ課題を確認する画面

    アクセシビリティの特徴的な取り組み

    東京都庭園美術館:当事者レビューを取り入れた、Webアクセシビリティの向上

    2023年にリニューアルされた東京都庭園美術館のウェブサイトでは、様々な環境のユーザーがウェブサイトへ訪問することを想定し、誰にでも使いやすいサイトの実現を図っています。
    「だれもが文化につながる」ことを目指すプロジェクト「Creative Well-being Tokyo」によって行われた障害当事者による合同レビューでは、特にカレンダー部分が高く評価されています。
    本サイトでは、日本工業規格「JIS X 8341-3:2016」のレベル「AA」に準拠するため、デザイン構築の段階から、Webアクセシビリティ診断を専門業者に依頼しています。さらに、以下のような設計が特徴的です。

    • 開催中の展覧会や、実施予定のイベント情報に迷わずたどりつける設計

    • 日本語ページの他、英語、フランス語、繁体字、簡体字、韓国語の5言語対応

    • 情報量が多く設計が難しい「カレンダー」部分は、スクリーンリーダーで読み上げた際に、情報を容易に把握できる設計

    東京都庭園美術館のWebサイトと、スクリーンリーダーで把握しやすいカレンダー設計

    松岡美術館/江戸東京たてもの園:アプリ体験を通した、アクセシビリティの向上

    美術館や博物館が提供するアプリは、利用者が文化や学びをより深く、快適に体験できる環境を提供しています。移動や情報アクセスのハードルを下げ、誰もが平等に楽しめる場を作り出しています。

    • 松岡美術館「ポケット学芸館」 解説文やナレーションを楽しめるアプリ

      学芸員が展示物に付した解説文やナレーションをスマートフォンで無料で楽しめるアプリです。関東圏の47の美術館・博物館に導入されており、松岡美術館では、音声ガイドの代わりとして活用されています。

    • 江戸東京たてもの園「たてもの園ナビ」バリアフリーに配慮したアプリ

      復元建造物の関連資料等を閲覧できるAR機能や、音声ガイドを通じて建造物への理解を深めることができます。また、GPS機能によって来園者が自分の現在位置を把握しながら園内を散策できる位置情報認識機能を備えています。マップモードには園内の階段・段差や砂利道等も表示されており、バリアフリーにも配慮した設計となっています。

    松岡美術館の音声ガイドアプリと、江戸東京たてもの園の園内ナビアプリ

    東京都写真美術館/三菱一号館美術館:多様なニーズを持つ人々が、芸術を楽しむ機会を広げる取り組み

    東京都写真美術館や三菱一号館美術館では、多様な背景やニーズを持つ人々が芸術を楽しむ機会を広げることを目的とし、イベントを実施しています。対話を通じて新たな発見を生む体験や、最新技術を活用した鑑賞体験の可能性を提示し、物理的・情報的な障壁を軽減しています。

    • 東京都写真美術館 インクルーシブ鑑賞ワークショップ「見るときどき見えない、のち話す、しだいに見える」
      障害の有無にかかわらず、多様な背景を持つ人が集まり、会話を交わしながら一緒に写真作品を鑑賞するワークショップを定期的に開催。目の見える人、見えない人の2人のナビゲーターとともに、見えていることや感じていることを言葉にして伝え合い、さまざまな視点を持ち寄ることで、一人では出会えない新しい作品の楽しみ方を発見することができます。

    • 三菱一号館美術館「MUSEUM for All」プロジェクト
      さまざまな人に美術館を身近に感じてもらうために、2021年12月から「MUSEUM for All」プロジェクトを行っています。三菱地所株式会社のローカル5G環境を活用した鑑賞体験や、遠隔鑑賞の実証実験などを実施し、幅広い人々へ開かれた、新たな美術館の可能性を模索しています。

    対話鑑賞や遠隔鑑賞など、多様な人が芸術を楽しむ取り組み

    古代オリエント博物館/世田谷美術館:視覚以外の感覚を活用した、鑑賞の可能性を広げる取り組み

    美術館や博物館では、触れることで作品を観察する「触察」に関連するイベントが開催されています。視覚以外の感覚を活用した鑑賞の可能性を探り、文化や歴史に触れる新たな方法を模索している点が特徴的です。

    • 古代オリエント博物館 視覚障害者のための展示解説ツアー

      「視覚障害者のための展示解説ツアー」と題し、レプリカや触図、実物を触ってもらいながら展示品解説を行うツアーを定期的に開催しています。2024年度の夏には秋の特別展「悠久のペルシア」にちなみ、動物をかたどった古代イランの土器やペルシアの織物キリムなどを触る体験が提供されました。

    • 世田谷美術館 触察に関する講演会

      さまざまな理由で美術館を利用しにくいと感じる、多様な方々の美術館利用や、美術館とのかかわり方について考えるプログラムを開催しています。触察本の出版者や盲学校教諭、目の見えない子どもたちのための「さわる絵本」工房創設者など、触察に関連する講師を多数招き、講演会を実施しています。

    触察ツアーや講演会を通じ、視覚以外の感覚で鑑賞を広げる取り組み

    日本科学未来館:館内の移動・展示体験・イベント参加に注力した3つの取り組み

    日本科学未来館では「だれもが楽しめるミュージアムをつくる!」と題し、「館内の移動」「展示体験」「イベントへの参加」の3つのアプローチからアクセシビリティの向上に取り組んでいます。また「未来館アクセシビリティラボ」や「xDiversityプロジェクト」など、多様な取り組みが実施されています。

    • 館内の移動をサポートするツール

      視覚障害者や、車いすを利用する方、地図を読むのが苦手な方も自由に館内をまわれるよう、サポートツール「AIスーツケース」の開発や「インクルーシブ・ナビ」アプリによる音声ナビの提供を行っています。

    • 五感を使って体験する展示

      見るだけではなく、さまざまな感覚を使って理解したり、発見したりできる新たな展示体験を提供しています。

    • みんなが楽しめるイベント

      リアルタイムで音声を認識して字幕を表示するシステムを使った展示ツアーや、展示や模型に触れて学ぶツアーなど、多様な人が参加し楽しめるイベントを定期的に開催しています。

    日本科学未来館の移動支援、展示体験、イベント参加を支える取り組み

    東京芸術劇場/パイオニア株式会社(めぐろパーシモンホール):劇場での鑑賞体験向上に関する取り組み

    劇場では、多様な人々が音楽や芸術の感動を共有できるよう、さまざまな鑑賞サポートやイベントが実施されています。

    • 東京芸術劇場の鑑賞サポート

      舞台/公演説明会・音声ガイドや、ポータブル字幕機サービスの貸し出し、受付やチケットの精算時における手話通訳者の対応など、ひとりでも安心して来場できる環境を整えています。また、磁気コイル付補聴器や人工内耳を使用している来場者に舞台上の音声を効果的に伝えるための聴覚支援システム、「ヒアリングループ」によるサポートも実施しています。

    • 身体で聴こう音楽会(パイオニア株式会社)

      「身体で聴こう音楽会」は、聴覚に障がいのある方もない方も共に心から音楽を楽しむことができる音楽会です。音を振動に変える”ボディソニック (体感音響システム)”を用いることで、全身で音楽に触れることができます。また、手話を交えたコンサートも定期的に開催されています。このイベントは2018年度グッドデザイン賞の受賞および、「グッドデザイン・ベスト100」に選出されています。

    ヒアリングループと、音を振動で体感する「身体で聴こう音楽会」の紹介

    都内の文化施設 クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー(CWT)

    乳幼児から高齢者まで、障害のある人もない人も、そして海外にルーツをもつ人たちも、だれもが文化施設やアートプログラムと出会い、参加しやすいように文化芸術へのアクセシビリティ向上に取り組むプロジェクトです。ウェブサイトでは、都内の文化施設で実施しているアクセシビリティに関わる取組や、施設情報が紹介されています。主な取り組みは以下の通りです。

    • 環境を整える

      都立文化施設や文化事業を中心に、あらゆる人が文化芸術に出会い、体験し、参画できる環境づくりを推進しています。

    • プログラムの開発

      国内外の文化施設、NPO、研究機関などと連携し、さまざまな立場の人に必要とされるプログラムの開発に取り組んでいます。

    • ネットワークを築く

      アクセシビリティに関する取組を展開する文化施設や担い手とのネットワークを築き、ともにアクセシビリティの向上を推進しています。

    文化芸術へのアクセシビリティ向上に取り組むCWTのWebサイト

    アクセシビリティの課題の傾向

    デザイン面における、アクセシビリティの課題の傾向

    多くの美術館・博物館のウェブサイトで、文字と背景色の色の組み合わせが十分なコントラスト比(4.5:1)を満たしていないという指摘が見られました。
    コントラストが十分でない場合、視覚に障害を持つ人にとって見づらく、読みづらいものとなってしまいます。
    一方で、色の組み合わせの課題のみが指摘されている企業も多く、正しい色の組み合わせに変更をすることで改善が見込まれるため、アクセシビリティの改善として取り組みやすい課題とも言えます。

    文字と背景色のコントラスト不足が指摘されたWeb画面例

    マークアップ・アクセシビリティ

    マークアップ・構造におけるアクセシビリティの課題があげられた美術館・博物館が多く見られ、特にリスト部分(ulタグやolタグ、liタグ)の文法が正しくないという指摘が多くありました。
    正しくマークアップがされていない、または構造化されていない場合、支援機器(例えばスクリーンリーダーなど)が正確に情報を把握することができず、利用者が情報を知ることができなくなってしまいます。
    実装面の見直しが必要になりますが、どのようにすれば改善されるかが明確で、比較的対応はしやすい課題ではあります。

    リスト構造などのマークアップ課題が指摘されたWeb画面例

    ラベル(altテキストなど)におけるアクセシビリティの課題の傾向

    ラベル(altテキストなど)におけるアクセシビリティの課題があげられた美術館・博物館が多く見られました。
    特に、画像の代替テキスト(altテキスト)やボタンにラベルが設定されていない課題が多くあげられました。
    画像に代替テキストがなかったり、ボタンにラベルが設定されていないと、支援機器(例えばスクリーンリーダーなど)が画像の情報について読み上げることができなかったり、何が起こるボタンなのか利用者が把握することができなくなってしまいます。
    画像に適切な代替テキストを作成したり、ボタンのラベルを見直すなど、方針を決めて対応を進めていく必要があります。

    altテキストやボタンラベルの未設定が指摘されたWeb画面例

    まとめ

    本記事では、アクセシビリティ課題やサステナビリティ方針の状況を確認するとともに、特徴的な取り組みの事例や、全体的に共通して見られる課題の傾向について見てきました。
    サステナビリティポリシーを公表している施設はごくわずかにとどまり、文化施設全体としてサステナビリティへの取り組みが十分に普及していない現状が明らかとなりました。アクセシビリティ課題の数を見ると、比較的対応が進んでいる施設が一定数存在する一方、課題が多く残る施設も見られ、対応状況には大きな差があることが分かりました。
    また、Webアクセシビリティ以外にもイベントやワークショップの開催など、様々な特徴的な事例も確認されました。今後は、こうした取り組みを広げていくとともに、サステナビリティやアクセシビリティの両面から、継続的に取り組んでいくことが求められます。

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