視覚障害の子どもの勉強を支える、当事者to当事者のオンライン個別指導ビジネスが創る“自立” 

株式会社WillShine

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視覚障害のある子どもは、どのように勉強すればよいのでしょうか――?一口に視覚障害といっても、「弱視」「全盲」「視野狭窄」など見え方は人によって大きく異なります。しかし現在の教育現場では、こうした違いに十分対応できていないケースも少なくありません。
特に、

  • 弱視と全盲の学習方法の違い

  • 点字と音声読み上げの使い分け

  • 子どもの特性に合わせた個別指導

などは、多くの保護者や教育関係者が悩んでいるテーマです。
障害者教育の現場において、長らくボランティアや善意がその支え手となってきました。しかし、そこには支援する側とされる側の固定化された構造や、持続可能性の課題が潜んでいます。「やる気の問題ではなく仕組みの欠陥がある」。そう語るのは、視覚障害者向けオンライン個別指導塾『ブイリーチ』を運営する株式会社WillShineの川本氏です。
なぜ、あえてビジネスという手段を選んだのか。そして、N=1の違和感から始まった取り組みは、どのように社会のバリアを溶かしていくのか。その持続可能なソーシャルイノベーションの全貌に迫ります。

川本さんプロフィール

株式会社WillShine代表取締役の川本一輝氏のプロフィール写真

川本 一輝
株式会社WillShine 代表取締役 / 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 学生

2004年9月、徳島県生まれ。幼少期より弱視であったが、12歳(中学時代)で視力が急激に低下し全盲となる。徳島県立盲学校(現:徳島視覚支援学校)を経て単身上京し、筑波大学附属視覚特別支援学校高等部に進学。高校在学中に文部科学省「トビタテ!留学ジャパン」7期生としてタイに留学し、多様性や国際協働への理解を深める。
現在は、視覚障害者を受け入れる日本唯一の国立大学である筑波技術大学にて、情報技術(IT)と教育の可能性を専攻。2024年11月に合同会社WillShineを設立。2025年1月より、視覚障害のある子どもたちへ当事者がマンツーマン指導を行うオンライン個別塾『ブイリーチ』の運営を開始する。その革新性が評価され、2025年3月には「TOKYO SUTEAM DEMO DAY 2025」にてTOKYO SUTEAM賞を受賞。


視覚障害教育の課題とは?特別支援教育で見落とされがちな学習の違い

“視覚障害”は一括りではない――「弱視」と「全盲」の間にあるグラデーション

多くの学習塾において視覚障害のある生徒を教えるのは「目の見える先生」であることが一般的です。しかし、『ブイリーチ』が徹底してこだわっているのは、「当事者 to 当事者」の指導体制です。そこには、単に視覚障害があるという大枠のカテゴリーではなく、驚くほど細やかな解像度でのマッチングが行われています。

視覚障害の種類の多様さや情報入力スタイルの違いを説明する川本氏

川本さん「一口に視覚障害といっても、全盲の方もいれば弱視の方もいます。さらに弱視の中にも、視野が縦長なのか横長なのか、あるいは点字ユーザーなのか音声読み上げソフト(スクリーンリーダー)を多用するのかといった、情報の入力スタイルの違いがあります」

N=1にチューニングするマッチング設計にあるべき視野・文字サイズ・学習方法の違いへの理解

一般的な配慮として「文字を拡大すればいい」と考えがちですが、視野狭窄のある生徒にとっては、大きな文字はかえって読みづらく、逆に小さなポイント数のほうが認識しやすいケースさえあります。
『ブイリーチ』では、生徒の見え方や学習スタイルと、同じ経験をしてきた講師をマッチングさせます。自分と同じ方法で学んできた人がいる、その事実は学習効率の向上だけでなく、この方法で社会に出ているロールモデルがいるという希望の提示機能も果たしているのです。

なぜ「ビジネス」なのか? 支援の上下関係から脱却する視覚障害のオンライン教育

視覚障害のオンライン教育ビジネスに取り組む理由と目指す未来

川本氏が最も強く意識しているのは、この事業を「ボランティアではなく、ビジネスとして成立させること」です。その背景には、従来の支援構造に対する課題意識がありました。

川本さん「障害のある人への教育がボランティアベースである限り、『与え続ける側』と『受け続ける側』という固定化された関係性が生まれてしまいます。私は、この構造自体を変えなければならないと考えました」

障害のある学生が成長し、アルバイトをしようとしても、「見えないから無理だ」と断られ、自己効力感を喪失していく現状があります。結果、親の仕送りや奨学金に頼らざるを得ない。川本氏は、『ブイリーチ』の生徒が将来、同社の講師として雇用されるサイクルも描いています。

川本さん「自分でお金を稼ぐ経験は、自己肯定感に直結します。講師として働く学生たちも、ボランティアではなく対価が発生する仕事だからこそ、責任感が生まれ、自分も価値を提供できるという自信につながります。支援されるだけの存在から、価値を生み出す存在へ。この転換を作るには、ビジネスである必要不可欠だったのです」

視覚障害の子どもを持つ親が抱える悩み

『ブイリーチ』が提供している価値は、学力の向上だけではありません。サービスを利用する保護者からのフィードバックによって、川本氏は親子の関係性を調整するという隠れた提供価値(バリュー)に気づかされました。
視覚障害のある子を持つ親御さんは、「どう関わっていいかわからない」という悩みを抱えがちです。子供の行動がわがままなのか、障害特性ゆえの困難さなのか判断がつかず、将来への不安から過干渉になったり、逆にどう接すべきか迷ってしまうこともあります。

川本さん「そんな時、障害受容ができている大学生の講師が「こういう時は、こう考えますよね」と、自分の経験をもとに子供の気持ちを言語化してくれます。それを聞いた親御さんは「あ、うちの子は今こう考えているんだ」と理解できる。講師が間に入ることで、親子の衝突を防ぐ緩衝材になれていると感じています」

当事者が教える「当事者 to 当事者」モデルの可能性

親には言えないけれど、同じ境遇の講師になら言える本音がある。そして講師は、その本音を適切な形で親御さんに伝える翻訳者となる。一人でパソコンに向かい、先生と楽しそうに話して勉強している。その姿を見ることが、親御さんにとっても「子供は自立していけるんだ」という安心感につながり、家族全体の心理的安全性をもたらしています。
事業が拡大する中で、現在川本氏が取り組んでいるのが仕組み化です。しかし、そこには教育サービスならではの難しさがあります。

川本さん「今まさに、講師のための共通マニュアルを作成し、知識を集約しているところです。ただ、悩みどころでもあります。マニュアルを作るとどうしても画一的になり、柔軟性が失われる恐れがあるからです」

視覚障害者の学習に用いられるスマートフォンと点字盤、点筆

学校教育の現場では、長年の蓄積に基づいた『ベストプラクティス(標準的な正解)』が提供されます。例えば、「本は耳で聞くより点字が良い」といったセオリーです。しかし川本氏は、それが必ずしも全ての子どもに合うとは限らないと考え、あえてその「標準」から外れてしまっても、その子自身に最も合ったやり方(個別解)を見つけることを最優先にしています。

川本さん「授業の時間だけ強制的に勉強させても、成績は上がりづらいんです。私たちが大切にしているのは、生徒が授業外でも『自学自習』できるようになること。点字が苦手ならYouTubeで学ぶ動画があるよと提案したり、その子が自分で情報を掴める方法を教える。授業外の時間にいかに自分で学べるか。あえて手を出さず、自走できる習慣を作ることを大切にしています」

型化して質を担保しながらも、目の前の「N=1」に合わせた柔軟性は失わない。そして、教えすぎずに自立を促す。そのバランスを追求し、講師自身のコーチングスキルを高めていくことが、今年の大きなテーマとなっています。

当事者側から見た合理的配慮――”配慮”だけでは解決しない問題とは

障害者当事者と社会の双方が歩み寄る必要性を語る川本氏

インタビューの終盤、川本氏は「批判を恐れずに言えば」と前置きし、インクルーシブな社会実現に向けた核心的な課題について言及しました。それは、社会(マジョリティ)側の意識変革だけでなく、障害当事者(マイノリティ)側も変わる必要があるのではないか、という問いです。

学校教育での優しさが、社会でのミスマッチを生む構造

川本さん「例えば、視覚障害のある子が学校で物を落としたとします。すると、周りの目の見える友達は親切心からすぐに拾ってあげますよね。そこには何の悪意もありません。しかし、それが積み重なると、その子にとっては「落ちたものは誰かが拾ってくれる」のが当たり前になってしまう。自分で拾おうとしなくなってしまうんです」

この優しさの副作用には、良かれと思って手を貸す周囲も、そしてそれを受ける当事者自身も、なかなか気づくことができません。しかし、この小さな蓄積が、学校という守られた環境を一歩出たとき、大きなギャップとなって現れます。

川本さん「就職活動の面接でペンを落とした時、もし自分で拾わずに待っていたら、企業側はどう思うでしょうか。「この子は受動的だな」「何でもやってあげないといけないのかな」という印象を与えてしまうかもしれません。学校での優しさが、社会に出た時にその子の評価を下げ、結果として就労のバリアを作ってしまうことがあるのです」

だからこそ川本氏は、同じ当事者として「自分で拾いなよ」と声をかけます。それは厳しさではなく、社会に出た時にその子が苦労しないための、先輩としてのリアルなフィードバックなのです。

権利を主張するだけでなく、事業者の論理を理解する翻訳機能が求められている

さらに川本氏は、企業の採用現場における合理的配慮のあり方についても、踏み込んだ見解を示しました。
ある弱視の学生がWebテストを受けた際、制限時間が短く、画面を拡大するとボタンが押せないという仕様上の問題に直面しました。「配慮してほしい」という要望に対し、企業側の回答は「その処理速度も含めての選考である」というものでした。

川本さん「これを受けて落ち込んでしまう子もいます。しかし、そこで「配慮がない!」と嘆くだけでは何も変わりません。企業側にも「なぜその選考基準なのか」という意図や論理があります。大切なのは、問題の本質がどこにあるのか、会社側の意図は何なのかまで想像を巡らせることです。それが考えられるようになると、次に起こす行動や伝え方が変わってきます」

社会に対してバリアフリーを求めることは重要です。しかし、同時に当事者側も社会の論理を理解し、歩み寄る姿勢を持つこと。この双方向の視点こそが、膠着した現状を打破する鍵になると川本氏は考えています。

川本さん「お互いがフラットに意見を言い合える関係性でないと、本当の意味でのインクルーシブは実現しません。就労前の学生時代に、こうした視座の転換を経験できる場を作ること。それが、結果として社会全体のシステムを変えていく一歩になると信じています」

インクルーシブな社会実現に向けた課題と展望を語り合う様子

N=1の違和感から始まった『ブイリーチ』。それは単なる学習塾を超え、福祉とビジネス、障害者と健常者、そして個人と社会の間に横たわる「見えない境界線」を溶かし、双方の歩み寄りをデザインする、ソーシャルイノベーションの実践の現場となっていました。

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