DesignShip2025の登壇から半年――AI時代に浮上するインサイトマネジメントとデザインマネジメントの意義

    • #インタビュー

    STYZ CDO, インクルーシブデザインスタジオCULUMU代表 川合俊輔が語る、熱量とデザインのこれから
    デザインは何のために存在するのか。
    収益最大化の手段としてのデザインか、それとも社会的価値を創出する営みか。

    本記事では、「稼ぐデザインからいいデザインへ」という問いを起点に、DesignShip登壇から約半年後の現在における変化を整理します。

    川合俊輔へのインタビューを通じて明らかになったのは、AI時代におけるデザインの役割の再定義と、その中で見落とされがちな「熱量」という本質的要素でし。

    テクニックではなく、社会的な意義に関心が移っている

    —— DesignShipでの登壇、かなり反響があったそうですね。

    川合:そうですね。正直、ここまで反応があるとは思っていませんでした。特に若手のデザイナーの方からの関心が高かったのが印象的でした。
    話した内容としては、マーケティング目線のユーザビリティだったりダークパターンのようなUI/UXテクニックの話だったりではなくて、社会的意義のあるプロジェクトや、社会に対してデザインがどう関わるべきか…という話でした。
    それがちゃんと届いたというのは、自分の中でも一つの発見でしたね。

    —— いわゆる「How-to」ではなかった、と。

    川合: はい。DesignShip自体が、ノウハウよりも「その人の考え方」や「なぜそれをやっているのか」を問われる場なんですよね。
    なので、自分にとっても発信というよりは、自分の思考を整理する機会でした。ある種の“チェックポイント”というか、今の自分の立ち位置を確認する場だったと思います。

    半年経っても変わらなかった、デザインについての考え方

    —— 登壇から半年ほど経っていますが、その後デザインについての考え方に変化はありましたか?

    川合: 大きくは変わっていないですね。むしろ、自分の中にあった価値観を、自分の言葉で再確認できたことの方が大きいです。僕たちがやっているCULUMUで言うと、一番重要なのは「新規事業」と「場づくり」だと思っています。
    場づくり、というのは、多様な人が関われる環境をつくることですね。いいプロダクトって個人の能力だけでは生まれなくて、環境や関係性の影響が大きいのだと思います。個人の能力だけに依存するのではなくて、いろんな人の可能性が立ち上がるような土壌をつくる。ビジネスだけを優先するのではなくて、ユーザーや社会をちゃんと見る。そのバランスを崩さないことが、結果的にいいデザインにつながると思っています。
    だからこそ、熱量を持った人たちが前に進めるような場をつくることが重要だと思っています。

    —— 「熱量」という言葉が印象的です。

    川合:そうですね。いいプロダクトって、合理性だけでは生まれないんですよ。そこには必ず、関わる人の熱量がある。
    じゃあその熱量をどうやって生むかというと、プロセスの設計や進め方がかなり大きいですね。
    例えば、デザインプロセスを一部の専門家だけで閉じるのではなくて、チーム全体で共有する。仮説立て、検証、振り返りを全員でやる。そうすると、単なる作業ではなくて「自分ごと」になって、熱量が自然と上がっていくんです。

    共創型のデザインが求められるようになった市場視点、経営視点での変化に対応

    —— 従来型の、いわゆるコンサルティングファームが提供してきたコンサルティングビジネスとは違いそうですね。

    川合:そうですね。外から正解を持ってくるのではなくて、チームの中で意味をつくっていく。解釈を統合していくプロセスそのものが価値になる、重要である、という考え方です。

    その前提に立つと、我々はインクルーシブデザインスタジオとしていわゆる「共創型」のデザインプロセスをかなり重視しています。特定の専門家だけで閉じるのではなく、多様な立場の人が関わりながら、意味や価値を一緒に立ち上げて問題を解決していく。

    そしてもう一つ重要だと思っているのが、それを単なる思想や個別事例にとどめるのではなく、きちんと再現性のある形で提供していくことです。プロジェクトごとに偶然うまくいくのではなく、どのプロジェクトでも一定以上の熱量やインサイトの共有が生まれるように、プロセスとして設計していきたいとも考えています。

    —— その背景には、どのような社会的な変化があると捉えていますか?

    川合: 大きくは、消費のパラダイムが変わってきていることだと思っています。これまでのような「物を所有すること」から、「どんな意味があるのか」という意味消費、さらには「どんな時間や体験を過ごすか」という時消費へとシフトしている。そうなると、単に機能的に優れたプロダクトをつくるだけでは不十分で、そのプロダクトがどんな文脈や体験の中で価値を持つのかが重要になるんですよね。

    その文脈でいうと、プロセスエコノミーの考え方もかなり影響していると思います。完成されたアウトプットだけではなくて、そこに至るまでの過程やナラティブなストーリー自体が価値になる。これはまさに、我々が重視している共創型のデザインプロセスとも接続しています。

    このような流れの中で、デザイン経営の重要性もより高まっていると思います。デザインを単なるアウトプットの改善手段としてではなく、事業や組織そのものの意思決定に組み込んでいく。共創のプロセスを通じてインサイトや熱量を生み、それを事業戦略や組織設計に反映していく。そういう意味で、デザインはより上流、かつ経営に近い領域に広がっていると感じています。

    AI時代に必要になる”インサイトマネジメント”

    —— 一方で、AIによってプロセス自体はかなり効率化されていますよね。

    川合: そこは難しいところで、確かにスピードは上がるんですが、その分「発見の体験」が共有されにくくなっているとも感じています。プロセスを一緒に辿るからこそ生まれる納得感や感情があるんですが、AIによってプロセスが短縮されると、発見のプロセス自体が共有されなくなってしまい、最終的にはチーム全体の熱量が上がりにくくなる。

    ここで重要になるのが、インサイトマネジメントという考え方だと思っています。単に情報を共有するのではなくて、発見のプロセスや、そのときの理解や感情まで含めて共有することですね。

    チームの中で「なぜそう思ったのか」が腹落ちしている状態をつくる。インサイトや感情の共有をどう設計するかを組み立てること、それが結果的に熱量につながるのだと考えています。

    ”インサイトマネジメント”と“デザインマネジメント”との違い

    —— 従来のデザインマネジメントとはどう違いますか?

    川合: デザインマネジメントは、どちらかというとマクロな設計ですね。例えば、プロジェクトの進め方や仮説検証の精度や柔軟性、適切な体制・組織設計、デザイン人材の育成などが含まれます。

    その一方で、インサイトマネジメントはよりミクロな視点で、個人やチームの感情や理解の深まりに関わる部分であると考えています。

    この二つを分けて考えると、整理しやすいと思いますし、我々のようなデザインスタジオにはこれらの両方が必要だと思っています。

    効率だけでは、パーパスは生まれない

    —— CULUMUの取り組み自体についてもまた、一つの事例になり得ると感じました。

    川合: AIによって、効率はどんどん上がっていくと思います。近い将来、デザイナーでなくともクリエイティブを簡単に作成できる未来はもうすぐに迫って来ています。しかしAI時代になるほど効率化は進みますが、それだけでは不十分で、「願い」や「熱量」といった非合理な要素がより重要になる。

    CULUMUは、社会性や場づくりを軸に事業を展開しているという意味で、パーパスドリブンな事業開発の一つのモデルになれる可能性はあると思っています。社会性や場づくりを軸にしながら、あらゆる人が才能を発揮できる環境と土壌をつくる。つまり、競争的に勝つための専門特化した支援ではなくて、「人が力を発揮できる土壌をつくる」というアプローチで事業に貢献するモデルを証明しようとしているのかもしれません。

    新規事業も、プロダクトも、結局は人から生まれるのだと思います。その人たちの熱量が自然に立ち上がる環境をどう設計するかが、これからのデザインの役割だと思います。


    終わりに

    「いいデザイン」とは何か。
    その問いに対して、本記事が提示するのは一つの方向性だ。
    それは、アウトプットではなく、環境を設計すること。
    そして、合理性だけでなく、人の内側にある熱量を扱うこと。
    デザインの対象は、プロダクトから「関係性」へ。一方向の価値提供から「共創」へ。
    そのシフトは、すでに静かに始まっている。

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