書籍『当事者発想』発刊に寄せて ー なぜ「みんなのため」は失敗するのか ー

    • #ナレッジ

    はじめに

    はじめまして、CULUMUの代表であり、共著者の川合俊輔です。

    この書籍は、私たちがこれまで取り組んできた
    インクルーシブデザインや社会課題を起点とした事業開発、
    そして大学での研究活動の中で得られた視座から出発した書籍です。

    CULUMUは5年前に設立したデザインスタジオですが、
    これまで本当に多くの、多様な共創プロジェクトに関わってきました。

    その中で出会ったのが、共著者の佐藤徹と各務太郎です。

    佐藤さんは、私がCULUMUを始めるきっかけになった人物であり、
    社会課題の解決を志す上で、長年にわたりデザインプロセスを議論してきた仲間です。
    たまに喧嘩もしますが仲良しだと思っています。

    そして各務さんは、私が頭の中で考えてきたことや経験してきたことを、
    きちんと体系化し、この書籍という形にするために、何度も背中を押してくれました。
    書籍に関する打ち合わせの9割は冗談・ギャグでした。

    そんなふたりと執筆できたことに改めて、最初に二人には感謝を伝えたいと思います。
    本当にありがとうございます。


    さて、本題に入ります。

    いまは「なんでも作れる時代」だと言われています。
    AIの発展も著しく、技術的にはほとんどのことが実現できるようになりました。

    だからこそ、逆に難しくなっていると感じています。

    それは、「誰が、何を作るのか」が、これまで以上に問われるようになったからです。


    「みんなのため」が失敗する理由

    プロジェクトの現場でよく聞く言葉があります。

    「みんなのために」

    一見、とても良い言葉ですし、否定するものではありません。
    ただ、実務の中では、この言葉が失敗の起点になることが多いのも事実です。

    理由はとてもシンプルで、
    主語が大きすぎるからです。

    「みんな」を対象にした瞬間に、

    • 誰の課題なのかが曖昧になり

    • 解像度が下がり

    • 意思決定が平均化していきます

    その結果、どうなるか。

    機能はどんどん増えていきます。
    でも、体験はどんどん薄くなっていきます。

    操作は複雑になり、
    結局、多くの機能は使われないまま残っていく。

    これはこれまでの製品やサービスの歴史を見ても、
    繰り返されてきた構造だと思います。


    機能よりも体験の時代

    以前は、どれだけ多くの機能を持っているかが価値でした。
    いわば「機能競争」の時代です。

    しかし今は違います。

    機能はある程度、誰でも作れる。
    差がつくのはそこではありません。

    これから重要なのは、
    どんな体験を提供できるかです。

    そしてその体験は、
    「誰のために作っているのか」という問いの解像度に強く依存します。


    当事者から始めるということ

    私たちがプロジェクトの中で大事にしているのは、
    「みんな」ではなく、「ひとり」から始めることです。

    具体的な誰かの、

    • 痛み

    • 不便さ

    • 日常のリアル

    に徹底的に向き合う。

    そうすると、不思議なことが起きます。

    本当に必要なものだけが残り、
    余計な機能は自然と削ぎ落とされていきます。

    そして、その結果として生まれたものは、
    結果的に多くの人に届いていきます。

    つまり、

    「みんなのために作る」のではなく、
    「ひとりのために作る」ことが、結果としてみんなに届く。

    これが、私たちが現場で何度も見てきた事実です。


    想いと志をデザインする

    これからの時代、設計すべきものは機能だけではありません。

    むしろ重要なのは、
    想いや志そのものをデザインすることだと思っています。

    • なぜこれをやるのか

    • 誰のどんな課題に向き合うのか

    • どんな未来を実現したいのか

    この問いにどれだけ向き合えているかが、
    そのままプロジェクトの質に表れます。

    技術はあくまで手段です。
    中心にあるべきは、志です。


    当事者発想とは何か

    この本で扱っている「当事者発想」とは、

    誰かの課題を理解することでも、
    表面的に共感することでもありません。

    その人の立場に立ちきること。

    そして、
    自分ごととして引き受けること。

    その覚悟のことだと考えています。


    この本で伝えたいこと

    最後に、この書籍全体を通して伝えたいことを、
    シンプルに言葉にするとこうなります。

    • 当事者発想のあるプロジェクトは、志がある

    • 当事者発想のあるプロジェクトは、持続する

    • 当事者発想のあるプロジェクトは、楽しいし、いっしょう懸命になれる

    • 当事者発想のあるプロジェクトは、失敗すら価値に変えていく


    これからに向けて

    これからも私は、
    インクルーシブデザインの実践や、研究者としての探求を続けていきます。

    現場と研究の両方を行き来しながら、
    「当事者発想とは何か」を、さらに深めていきたいと思っています。

    この書籍が、その一つの出発点になれば嬉しいです。

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