農業の未来は、「農業経営体と共に新たなエコシステムを創る」井関農機のオウンドメディア共創リニューアル事例
井関農機株式会社
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農業人口の減少や経営の大規模化など、日本の農業が転換期を迎える中、農業機械メーカーもまた、そのあり方を問われています。 井関農機株式会社「夢ある農業総合研究所」が運営する農業オウンドメディア『Amoni(エーモニー)』のリニューアルプロジェクト。それは、単にWebサイトのデザインを刷新するだけのプロジェクトではありませんでした。
「誰に情報を届けるべきか?」という問いに対し、CULUMUとの共創ワークショップを通じて辿り着いたのは、農業経営体という一義的なターゲットを超えた、自治体・金融機関・食品企業までをも巻き込む“エコシステム”の視点でした。 長年現場を見つめ続けてきた研究所が、デザインのリサーチプロセスを経て言語化した「本来やるべきこと」。これまでの典型的なオウンドメディアの枠を超え、農業の未来を醸成する「場」へと進化するための、合意形成と視座転換のプロセスを追います。
お話を伺った担当者
海發 育実(かいはつ いくみ)
井関農機株式会社
夢ある農業総合研究所
水稲の有機栽培を中心とした技術実証に従事。現場に即した栽培技術の構築と普及に取り組む。また、実践アグリメディア「Amoni」の運営にも携わり、情報発信と課題解決の場づくりを通じて、持続可能な農業の実現を目指している。
オウンドメディア『Amoni』リニューアルの背景――情報発信から「共創の場」へ
開設から4年、オウンドメディア『Amoni』が直面していた課題
井関農機株式会社の「夢ある農業総合研究所」が運営する『Amoni』は、農業現場におけるリアルタイムな情報収集、学び、問題解決の場を提供することを目的として設立されました。Webでの情報収集が当たり前となる中、同オウンドメディアは貴重な情報源としての役割を担ってきました。
しかし、設立から4年が経過し、運用面での課題が浮き彫りになっていました。情報の鮮度が失われつつあること、そして会員限定コンテンツが中心であったため、広く情報が行き渡らないことへの懸念です。
今回のリニューアルにあたり、研究所が目指したのは単なる情報サイトへの回帰ではありませんでした。研究所で行われている実証栽培の様子を発信するだけでなく、販売会社やメーカーとの「共創」によって、より幅広い現場の情報を発信できるプラットフォームへと進化させること。それが、CULUMUと共に挑んだリニューアルの出発点でした。

(リニューアル前のAmoni)
変化の激しい農業経営に応える「研究・実証・普及」を一気通貫させる現場力
そもそも、なぜメーカーである井関農機がオウンドメディアを持ち、情報発信を行うのでしょうか。その背景には、研究所が持つユニークな組織体制があります。通常、農業分野では分断されがちな「研究・実証・普及」の3つの機能を、同研究所は一気通貫で担っています。
夢ある農業総合研究所の海發 育実さんは、その背景をこう語ります。
海發さん「国内の農業生産現場では、経営の大規模化が進む中で、これまで以上に効率化・省力化・低コスト化が求められるようになってきています。こうした課題に対応するためには、農業機械だけでなく、栽培技術やICT技術を含めた総合的な技術提案が必要でした」
現場の課題解決には、複合的なアプローチが不可欠です。しかし、農業経営体が求めるものは刻々と変化していきます。
海發さん「研究・実証の成果をスピーディーに、現場に合った形で提案することが重要です。そのため、研究・実証・普及を一気通貫で取り組む体制が構築されました。」
現場や農業経営体との関わりの中で海發さんたちが大切にしているのは、徹底した観察の姿勢です。一見すると見慣れた、すでに知っているようなことでも、現場に触れるたびに新しい発見があると考え、観察を心がける。常に新たな気づきや感動、驚きを忘れないこと。
この「現場から学び続ける姿勢」こそが、CULUMUとのデザインプロセスにおける共通言語となり、プロジェクトを推進する原動力となっていきました。
共創型ワークショップで見えた“ユーザー像の再定義”
「農業経営体に『何を届けるか』」から「『誰が農業を支えているか』」への視座転換
CULUMUとの共創プロジェクトにおいて、チームは大きな壁に直面します。「誰のために、どんな情報を発信するのか?」。 これまで、具体的な商品やサービスの文脈ではオウンドメディアの読者=農家と明確に定まっていました。しかし、サイト全体として「誰に・どの文脈で価値を届けるのか?」を構造的に問い直すワークショップを行ったことで、海發さんの中に新たな視界が開けました。
海發さん「特に印象に残っているのは、ペルソナ整理のプロセスです。これまで具体的な商品・サービス単位ではターゲットを意識してきましたが、より広い視点で『誰に・どの文脈で価値が届くのか』を構造的に捉え直した経験は初めてでした」
議論を深める中で見えてきたのは、農業経営体だけを見つめていては解決できない課題の複雑さでした。

(ワークショップの様子)
オウンドメディアのリニューアルは、関係性のリニューアル(見直し)でもあった
海發さん「従来とは異なる関係構築の可能性にも気づくことができました。どうすれば農業経営体に伝わるかという点に意識が集中しがちでしたが、それを支える周辺のパートナー(自治体、食品関連企業、金融機関など)もまた、重要な情報の受け手であり、同時に環境を醸成する担い手であるという認識が明確になりました」
農業を持続可能なものにするためには、農家個人の努力だけでなく、それを支える資金、流通、行政の支援といったエコシステム全体へのアプローチが不可欠です。CULUMUと共にステークホルダーマップを描き、ペルソナを整理する中で、これまで見過ごされていた関係者たちの重要性が可視化されました。
海發さん「私自身、まだ経験が浅く、視座が限定的だったからこそ、他メンバーの考えや捉え方に触れられたことは非常に有意義でした。率直に言えば、『これは特別な発見というより、本来やるべきことをようやく体系的に捉えられた』という感覚に近いです」
この気づきこそが、プロジェクトにおける最大の合意形成であり、オウンドメディアの今後の方向性を決定づける羅針盤となりました。

(作成したステークホルダーマップの例)
単なる情報発信から企業オウンドメディアを「共創の場」にする方法
共創プロセスがもたらした、ステークホルダーとの新しい関係性
「農業経営体」を起点として見えてきた、多様なステークホルダーの存在。リニューアルを経て、『Amoni』が発信する情報の「意味」は大きく変化しました。
海發さん「共創を経て、『Amoni』は単なる情報発信やサービス提供のプラットフォームではなく、関係者同士の認識や行動が少しずつ揃っていく“醸成の場”でありたいと感じるようになりました」
ただ情報をサイトに置くだけでなく、農業を取り巻く自治体や企業に対し、同じ文脈・同じ言葉で価値を共有していくこと。それが、結果として農業現場の課題解決を加速させることにつながります。

(作成したサイトコンセプト)
短期的・直接的な視点を正す共創のプロセスの意義
海發さん「これまでは、どうすれば『農業経営体に伝わるか』『導入メリットをどう伝えるか』という短期的・直接的な視点に寄りがちでしたが、共創プロセスを通じて、農業を取り巻くパートナーたちに対しても価値を共有していくことの重要性を再認識しました」
一企業のオウンドメディアという枠を超え、農業界全体の「共通言語」を作るプラットフォームへ。 井関農機とCULUMUの共創は、Webサイトの構築プロセスを通じて、組織の視座を「点」から「面」へと広げる、大きな意識変革のプロジェクトとなりました。

(リニューアル後のAmoni)
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