組織の論理をどう突破するか?行政 × デザインに学ぶ、ボトムアップの合意形成術

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    複雑化する社会課題の解決には、企業・行政・市民といった多様なステークホルダーによる「共創」が不可欠です。しかし、異なる組織や立場の人間が集まる現場では、しばしば「合意形成の壁」に直面します。その中でも特に堅牢で、突破が困難に見えるのが「組織の論理(予算・法律・前例)」の壁です。

    現場の担当者が抱く「変えたい」という熱量と、組織が求める「確実性と公平性」。この間に横たわる深い溝を埋めない限り、社会実装に至るイノベーションは生まれません。

    今回は、CULUMUが主催するナレッジイベント「くるむとまなぶ」より、デザイン研究者・中山郁英氏(合同会社ケイフー)を迎えたセッションの内容を再構成。「行政とデザイン」の実践知から、堅牢な組織構造の中でいかにして「個人の想い」を「組織の合意」へと変換していくのか、その翻訳とプロセス設計の技法を探ります。

    泥臭い対話こそが、共創の起点になる

    「行政 × デザイン」と聞くと、華やかなワークショップやスタイリッシュな広報物を想像しがちですが、中山氏が語る現場の実態は極めて泥臭いものです。

    行政組織において、デザインは単なる意匠(色や形)の話ではありません。それは、政策立案や住民サービス構築のプロセスに、生活者の視点を取り入れ、課題の本質を発見し解決策を導き出す思考法と実践そのものを指します。

    しかし、前例踏襲が重視される組織において、不確実性の高いデザインプロセスを導入することは容易ではありません。そこで重要になるのが、トップダウンの号令ではなく、現場レベルでの徹底した観察と対話です。「なぜやるのか」という個人の想いを起点にしつつ、組織のKPIやミッションとどう整合させるか。その調整プロセス自体をデザインすることが、プロジェクトマネージャーの腕の見せ所となります。

    N=1の違和感を「予算・計画」へ接続する技術

    本セッションで議論の中心となったのは、現場(ボトムアップ)から組織を動かす方法論です。行政職員は、法律や予算といった厳しい制約の中で業務を遂行しています。そのような環境下で新しい取り組みを始めるには、現場の職員が抱いた「N=1の違和感」や「小さな気づき」を、組織全体の論理(事業計画や予算)へと翻訳して接続する高度なスキルが求められます。

    CULUMUデザイナーの視点:

    「行政と聞くと特殊な環境に思えますが、地道に泥臭く、ボトムアップでプロジェクトを進めていく流れは、民間企業の新規事業開発と大きな差異はありません。重要なのは、現場発信でリーダーシップを取ることで、個人の気づきが最終的に予算や事業計画という『組織の言葉』に変換されていくプロセスです。従来のトップダウン型とは一線を画するこのアプローチこそ、組織の硬直化を防ぐ鍵になると感じました」

    現場の個人的な違和感を放置せず、プロトタイピングなどを通じて可視化し、組織が意思決定できる材料へと昇華させる。この翻訳能力こそが、共創を担う人材に求められる核心的なスキルと言えます。

    複雑性を乗り越える「共通言語」としてのデザイン

    もう一つ、議論の中で浮かび上がったのが業務の複雑性とデザインの役割です。行政の現場では、一人の職員が並行して何件もの事業を兼任しているケースも珍しくありません。多忙かつ、多岐にわたるステークホルダーとの調整が必要な環境下では、コミュニケーションのミスや認識の齟齬が致命的なボトルネックとなります。

    CULUMUデザイナーの視点:

    「一人の担当者が抱える案件数の多さに驚くと同時に、だからこそ『デザイン思考』が機能するのだと腑に落ちました。複雑に絡み合った課題や、立場の違う関係者の認識を、図解やプロトタイプで『可視化』する。デザインを単なる成果物の作成ではなく、コミュニケーションコストを下げるための『共通言語』として使うことで、合意形成のスピードと質は格段に上がるはずです」

    言葉の定義さえ異なる行政・民間・市民の間で、デザインは通訳の役割を果たします。抽象的な議論を具体的な形(目に見えるもの)に落とし込むことで、議論を前に進めるための土台が整うのです。

    よそ者の視点が組織の壁に風穴を開ける

    中山氏の実践から見えてきたのは、内部の論理を知り尽くした職員と、外部の視点を持つパートナー(デザイナーや研究者)が協働することの重要性です。

    組織の論理に染まっていない「よそ者」だからこそ、客観的な視点で「問い」を立てることができる。一方で、内部の人間がその問いを組織の文脈に翻訳する。この相互補完的な関係性こそが、硬直したシステムに風穴を開け、持続可能なイノベーションを生み出す原動力となります。

    共創とは、単に仲良く集まることではありません。異なる論理を持つ者同士が、互いの言語を理解し、泥臭く対話を重ねるプロセスそのものです。その過程にこそ、社会を変えるヒントが隠されているのです。


    Guest Profile中山郁英さん(合同会社ケイフー プロジェクトマネージャー/立命館大学デザイン・アート学部准教授(2026年4月より)) 

    立命館大学経営学部 准教授。立命館大学デザイン・アート学部/ 研究科設置委員会 委員。合同会社ケイフー プロジェクトマネージャー。
    民間企業や東京大学i.school 等での勤務を経て滋賀県長浜市に帰郷、自治体と協働した事業等に携わる。2025年より立命館大学にて新学部/ 研究科の立ち上げに従事。
    研究テーマは「行政組織によるデザインの実践」 。デザインを行政で当たり前のものにすることを目標に研究・活動を行う。著書に『行政×デザイン実践ガイド 官民連携に向けた協働のデザイン入門』 (ビー・エヌ・エヌ、2024年) 、監訳・共訳書に『誰もがデザインする時代のデザイン 日々の営みからソーシャルイノベーションを生み出すための思想と実践』(ビー・エヌ・エヌ、2026年)がある。
    京都工芸繊維大学大学院デザイン学専攻博士後期課程修了。博士(学術)総務省地域力創造アドバイザー。社会教育士。

    ◯書籍『行政×デザイン実践ガイド 官民連携に向けた協働のデザイン入門』
    2024年7月に発売された「行政組織によるデザイン実践」をテーマとした書籍。地域を良くしようと奮闘する行政職員の方が自らデザインを実践するために、そしてデザイナーや民間企業がパートナーとして行政と協働することを支援できればと思い執筆しました。
    https://bnn.co.jp/products/9784802512916

    ◯滋賀県立伊香高等学校「森の探究科」
    地元県立高校の新学科設立と地域連携活動。
    2025年度(令和7年度)に新たに設立された「森の探究科」では地域の自然資源を活かした活動が展開されています。既存の普通科でも、様々な地域連携の試みが地域の方と共に行われています。http://www.ika-h.shiga-ec.ed.jp/?page_id=1438

    ◯「フナヤマリサーチハウス」
    研究者や学生などが中長期滞在しながらフィールドリサーチをすることを念頭にした宿泊施設です。改修時には、武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科の学生による滞在型リサーチが行われました。
    https://funayama-research-house.studio.site/

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