誰もが文化を楽しめる未来へ:東京国立博物館とろう者の共創
東京国立博物館
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CULUMUは、東京国立博物館様と連携し、ろう者・難聴者の方々と博物館職員の皆様が共に、博物館のアクセシビリティ向上について議論するワークショップを実施しました。本事例では、この共創のプロセスと、そこから生まれた具体的なアイデアや気づきを紹介します。

1. はじめに
東京国立博物館(以下、東博)は、誰もが “自分らしく・心地よく” 文化に触れられる場づくりを目指し、2025 年 3 月にろう者参加型のインクルーシブデザインワークショップを実施しました。本レポートは、プロジェクトの背景・社会的潮流・ワークショップの設計と成果、得られた気づきをまとめたものです。
2. プロジェクトの背景と目的
文化施設では、音声・視覚情報を前提とした体験が多く、第一言語を日本手話とするろう者や難聴者にとっては物理的・心理的バリアとなり得ます。東博は来館者の多様なニーズに応えるため、「当事者の視点を起点とした改善策の共創」を掲げ、ワークショップを実施しました。
目的は以下の通りです。
当事者の一次体験を通じて、展示・運営に潜むバリアと機会を顕在化し、東博スタッフが実体験として理解すること
共創したインクルーシブな改善アイデアを、今後の取り組みに活用すること
3. 社会的背景とプロジェクトの注目度

国内外では、インクルーシブな博物館・美術館づくりが急速に進展しています。
まず、2022年に改訂された国際博物館会議(ICOM)の博物館定義に「多様な声の包摂」が明文化され、ユネスコ世界文化遺産の保全ガイドラインでもアクセシビリティ評価が強化されたことで、欧米を中心に手話ツアーや触図キットの常設化が広がりました。
日本でも文化庁が「博物館 DX」を推進し、デジタルガイドやハイブリッド展示への補助など、制度面の整備が段階的に進んでいます。
これらの施策を後押しするのがメディアと SNS の存在です。ろう者インフルエンサーによる施設のレビュー動画は数百万再生を記録し、公共放送や新聞での特集も相次ぐなど、アクセシブルな博物館づくりは社会的関心事となっています。さらに、リアルタイム字幕 AI、触覚ディスプレイ、振動デバイスなど共生技術市場は成長し、技術革新も加速。制度・施策、社会的関心、技術進歩という三つのレイヤーが相乗し、インクルーシブな文化施設への転換は加速度的に進行しています。
出典:OHK公式チャンネル「誰もが楽しめるアート展」、ユニバーサル・ミュージアムの魅力、文化庁「令和7年度 概算要求の概要」
4. CULUMU が提唱する当事者共創プロセス
CULUMU は 「設計段階からユーザーと共創する当事者共創プロセス」 を提唱しています。
観察・共感 → 2. 概念化・デザイン → 3. 実装・検証 → 4. 運用・改善
当事者共創プロセスはN=1 (当事者それぞれの視点・感覚)を深く共感しながら取り組むアプローチです。当事者が企画・評価にも主体的に関わることで、表層的配慮ではない「自分ごと化された空間・施設の体験」を創出できます。

5. プロジェクト概要
1. ワークショップ概要
時間 | セッション | 目的 |
10:10‑10:25 | アイスブレイク・自己紹介 | 参加者同士の相互理解と安心安全な場づくり |
10:25‑13:00 | ワーク 1:常設展鑑賞 | 当事者と館内を巡り、バリアと気づきをマッピング |
14:00‑15:30 | ワーク 2:発見共有 | チーム内外で課題を整理し共有 |
15:40‑16:45 | ワーク 3:アイデア創出 | バリア解消・価値向上のアイデアをスケッチ |
2. 参加者構成
ろう者のリードユーザー 6 名(20〜40 代/俳優・手話言語学者など)
東博スタッフ(聴者) 4 名(教育普及担当・生涯学習ボランティア)
CULUMU ファシリテーター(聴者) 3 名
3. 収集データ
観察・気づき 200 件以上
創出アイデア 100 件以上

6. 主な気づき(抜粋)
事前情報の不足:サポート内容の可視化不足により不安が生じていました。
筆談具の形骸化:一部の当事者は、筆談ボードが歓迎されていないと感じていました。
書記日本語の読解負荷:ろう者にとって、第二言語である日本語の長文を読むのは負担がかかる。その場合は、日本手話があればより嬉しいという意見がありました。また、ふりがなを必要とする方もいました。
“顔が見える”情報欲求:人物像やストーリーを示すことで展示理解が深まりました。
空間把握の難しさ:柱や壁などで、見渡しづらい場所は視覚を中心にしているろう者には、移動時の不安につながることもありました。
7. 共創アイデア(抜粋)
参加者全員による熱意のこもったプレゼンテーションが行われ、全て短期的に実現できるわけではないものの、東博の未来を見据えた良質なアイデアが数多く共有されました。
カテゴリ | アイデア | 期待効果 |
受付・誘導 | タブレット多言語・日本手話案内、手話バッジ | サポート依頼の心理的ハードルを低減します |
情報発信 | 日本手話付きショート動画/SNS クイズラリー | 来館前の動機形成を拡大します |
展示体験 | 触図・振動フィードバック・香り展示 | 五感拡張による没入体験を生み出します |
プログラム | 当事者企画「日本手話で行うワークショップ」 | 共感と学びのコミュニティを形成します |
雇用・組織 | ろう者スタッフ採用・手話研修 | 継続的な改善サイクルを内製化します |
8. 成果と学び
プロセス価値の再確認
ワークショップ形式を採用したことで、あらかじめ設定した結論に到達するための議論ではなく、参加者同士が対話と試行錯誤を重ねながら学習・発見を深める「プロセス」自体の重要性を可視化しました。これにより、博物館運営における課題解決を“結果ありき”ではなく“共通の時間を体験することによる相互理解”が醸成されました。一次体験による課題と機会の顕在化
ろう者と聴者の間で言語の違い、文化の違い(視覚を中心に生活しているなど)があることが発見できたことで、ろう者にとって物理的・情報的バリアが起きていることがわかりました。同時に、既存リソースを活かせる改善余地や、来館前後のエンゲージメント向上など新たな機会も発掘され、東博スタッフが自らの体感として課題‐機会を理解する土台が築かれました。共創によるインクルーシブ改善アイデアの創出と次への接続
抽出した課題‐機会を踏まえて、参加者・スタッフが協働で具体的な改善案(例:ナビアプリの連動、対話型ガイドツアーの共通デザインガイドラインなど)を試作可能なアイデアまで構想。これらのアイデアは、今後の展示計画や館内の継続的なサービス改善・取り組みにつながる一助になった。
9. 今後の施策と願い
来館前の「参加したい」という動機から、現地で「行って楽しめる」という充実した体験まで、ひと続きのユーザージャーニーを実現することが、今後いっそう重要になります。進的な実践を重ねる東博のチャレンジは、多様な来館者に向けた包摂的価値を社会に広げる取り組みとして期待しています。

10. おわりに
本ワークショップを通じて、当事者との対話が「配慮」から「共創」へと変わる瞬間を目の当たりにしました。本レポートが、日本の文化施設におけるインクルーシブ推進の一助となることを願っています。
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