多様性を織るリサーチ— インクルージョンを文化として育てるために
#レポート
2026年6月28日に開催されたリサーチカンファレンスで、CULUMUのデザインリサーチャー・石井萌が「多様性を織るリサーチ」というテーマで登壇しました。
本稿は、当日の発話や会場の様子を再現するレポートではありません。カンファレンスに向けて石井が組み立てた内容を起点に、私たちCULUMUがデザインリサーチで大切にしている視点を、あらためて言葉にするものです。
テーマに掲げた「多様性を織る」という言葉には、多様な人を集めるだけでは終わらせない、という思いがあります。違いのある人たちが同じ場所にいることは、とても大切です。けれど、それだけではインクルージョンには届きません。
私たちが考えたいのは、その人が本当に参加できているか。安心して違和感を言葉にできるか。その声が、プロダクトやサービス、空間、組織の意思決定に届く文化になっているか、ということです。

「多様な人がいる」から、「参加できる文化」へ
ダイバーシティは、違いのある人たちが所属している状態をつくること。エクイティは、公平な機会を確保すること。そしてインクルージョンは、一人であっても集団であっても、歓迎され、尊重され、参加できる環境をつくること。
この3つを並べてみると、私たちが特に向き合うべきなのは、インクルージョンを「文化」としてどう育てるかだと感じます。
たとえば、「女性だから」「障害者だから」という理由で声を聞こうとするとき、そこには注意が必要です。本人の経験や能力ではなく、属性だけが前に出てしまうと、参加しているようで、実は役割を固定してしまうことがあるからです。

当事者発想は、当事者を「困っている人」や「支援される人」として扱うためのものではありません。その人の経験や違和感を通じて、これまで見えていなかった環境や制度、サービスの前提や社会の側にある障壁を一緒に見つけていくための考え方です。
だからこそ、多様性を数や構成の話で終わらせず、参加できる文化、声が届く関係性、問いを更新できるプロセスへとつなげていく必要があります。
切実な声は、設計の前提を照らす
リサーチの探索における問題は、私たちが無意識的に前提としている人の範囲がそもそも狭いということです。リサーチでは、平均的なユーザー像だけを見ていると、見落としてしまう問いがあります。多くの人にとっては小さな不便に見えることが、ある人にとっては生活や参加を左右する切実な問題になっていることがあるからです。
過去にCULUMUが取材した、エレコムのモバイルバッテリーの事例があります。
モバイルバッテリーの利用者として、まず思い浮かぶのは、スマートフォンを長時間使う若い世代や、外回りの多い営業職、SNSを仕事にする人かもしれません。けれど、視覚障害のある人にとって、スマートフォンは情報を得るための視覚補助であり、生活の中で「目」に近い存在です。
その人にとって、充電が切れることは、単なる不便ではありません。世界との接点が断たれることに近い。さらに、従来のバッテリーは電池残量をLEDの光で知らせるため、見えない人には確認しづらい。落とすと見つけられない不安もある。
ここで見えてくるのは、既存の製品が前提としてきた「見える人」の身体感覚です。

見えている人が変わると、見える問いが変わる。
これは、少数の人のためだけの発見ではありません。これまで当たり前だと思っていた設計の前提を見直し、より多くの人にとって使いやすいものを考える入口になります。
包摂を要件にしながら、問いを育てる
今回のテーマを考えるうえで、私たちは2つの視点を大切にしています。
1つは、Design with inclusion。包摂を要件としてデザインすることです。多様な人の声を設計に反映し、アクセシビリティや合理的配慮を、あとから足すものではなく、最初から考えるべき要件として扱う。
もう1つは、Design through inclusion。包摂的なプロセスを通じて、問いや関係性が生まれるという考え方です。多様な人との対話を、単なる意見収集にしない。そこで生まれた違和感や気づきを、次の問いとして育てていく。
この2つは、別々のものではありません。
包摂を要件として扱うからこそ、プロセスの中で新しい問いが生まれる。プロセスの中で問いが育つからこそ、次の設計要件も変わっていく。私たちは、この行き来の中に、デザインリサーチの可能性があると考えています。

設計に反映して終わりではなく、関係性の中で問いを更新し続ける。その積み重ねが、インクルージョンを一時的な配慮ではなく、文化へと近づけていきます。
ひとつの問いが、別の生活場面へつながる
発達特性のある子どもとの暮らしを起点にした取り組みの事例をご紹介します。

暮らしの中で見えてきた「予測できないことへの不安」「落ち着ける場所の必要性」「光や音などの刺激への配慮」といった問いは、住まいの設計だけで完結するものではありませんでした。旅行や宿泊の場面でも、同じように不安や参加のしづらさが生まれることがあります。
暮らしの問いが、宿泊体験の問いになる。家の中で見えていた困りごとが、旅先での過ごし方を考える手がかりになる。
このように、ひとつのプロジェクトで出会った問いは、別の生活場面や事業領域へつながっていきます。大切なのは、そこで得た気づきを「案件の成果」として閉じないことです。
問いを持ち続けること。関係性を続けること。別の領域に移ったときにも、その問いをもう一度見直すこと。そこから、次のプロジェクトや新しい共創の機会が生まれていきます。
共創の質を支える、基本姿勢

最後に、今回あわせて伝えたいのが「CULUMU共創ポリシー」です。
これは、共創の場で相手を傷つけず、情報を適切に伝え、ともに創るための基本姿勢をまとめたものです。言葉の選び方、文章の書き方、振る舞い、個別配慮の視点。どれも特別なマナーではなく、インクルージョンを文化として育てるために必要な土台です。
私たちは、「障害は人ではなく、環境にある」と考えています。本人の特性だけで困難が生まれるのではなく、環境や社会の前提との相互作用によって、参加や共創のしづらさが生まれる。だからこそ、迷ったときは本人に確認し、その都度学びながら、ともにデザインすることを大切にしています。
インクルーシブデザインは、正しい配慮を一度覚えれば終わるものではありません。相手を「支援される人」として固定せず、対等なデザインパートナーとして向き合う。その関係性を支える姿勢があってはじめて、切実な経験や違和感は、社会やサービスの前提を見直す知恵へと変わっていきます。
多様性を織るリサーチとは、多様な声を集めることだけではありません。
まだ言葉になっていない困りごとや違和感に出会い、それを一緒に問いへと育て、プロダクト、サービス、空間、組織のあり方に返していくことです。
インクルージョンは、誰かに配慮するためのチェック項目ではなく、ともに問いを見つけ、関係性の中でデザインを更新し続ける文化です。私たちCULUMUは、その文化をつくるためのリサーチを、これからも実践していきたいと考えています。
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