発達特性のある子どもと家族との共創を通じて、誰もが安心して滞在できるホテル空間の実証をコスモスホテルマネジメント(アパートメントホテルMIMARU)と実施

コスモスホテルマネジメント

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サマリー

株式会社コスモスイニシアおよび株式会社コスモスホテルマネジメントと連携し、発達特性のある子どもとその家族の暮らしや旅行体験を起点とした、インクルーシブな空間づくりの研究・実証を支援しました。

プロジェクトでは、英国規格協会が発行するニューロダイバーシティに関するガイドラインなどの文献調査、有識者へのヒアリング、当事者参加型ワークショップを通じて、発達特性と生活環境のミスマッチから生じる困りごとを整理しました。

さらに、得られた知見を実際の宿泊施設で検証するため、アパートメントホテル「MIMARU」を舞台に、発達特性のある子どもと家族を対象としたアンケート、インタビュー、試泊調査を実施しました。

旅行時の困りごとを「見通しが立ちにくい」「人との距離を調整しづらい」「刺激を予測できない」「普段の生活を再現しづらい」「複数の負荷が同時に重なる」という5つの構造的課題に整理。その解決策として、客室内のカームダウンエリア、共用部のスヌーズレンコーナー、旅行前の事前リーフレット、待機場所やスタッフ対応などを試験的に導入しました。

当事者家族の体験を通じて、空間設備を一律に整えるだけではなく、利用者が自ら刺激や他者との距離を調整し、状態に応じた過ごし方を選べる環境が重要であることを明らかにしました。

クライアントの課題

コスモスイニシアグループでは、マンション、リノベーション、オフィス、ホテルなど、多様な都市空間を提供しています。

一方で、これまでの空間づくりでは、無意識のうちに「標準的な生活者」や「一般的な家族像」を想定しており、発達特性や感覚特性、家族構成、生活上のニーズの違いを十分に捉えられていない可能性がありました。

例えば、一般的な照明や生活音、人の多い共用空間、予定の変更、初めて利用する施設の情報不足などは、発達特性のある子どもにとって強い負担になる場合があります。しかし、こうした困難は本人の特性や行動上の問題として捉えられやすく、空間やサービスとのミスマッチとして検討される機会は限られていました。

特に旅行では、移動、荷物の運搬、初めての場所、周囲の視線、普段とは異なる食事や睡眠環境など、複数の負荷が同時に生じます。その結果、保護者が「周囲に迷惑をかけないように」と常に緊張し、滞在時間を短くしたり、旅行そのものを諦めたりする可能性があります。

そこで、発達特性のある子どもや家族が旅行時に経験している困りごとを調査し、ホテルの空間、情報提供、接客、運用によって負担を軽減できるかを検証する必要がありました。

また、特定の診断や特性に合わせた固定的な設備を開発するのではなく、ホテルをはじめとするさまざまな施設で導入・展開できる、汎用性の高い環境設計の原則を見いだすことが求められていました。

CULUMUの活動

  • MIMARUの施設見学および宿泊体験における課題仮説の整理

  • 発達特性のある子どもを持つ家族64名へのインターネットアンケート、

    当事者家族へのデプスインタビュー、旅行時の困りごとを5つの構造的課題として体系化

  • 旅行体験を「事前・到着・滞在・回復」に分けた体験設計・事前リーフレット、カームダウンエリア、スヌーズレンコーナーなどの実証施策の企画

  • MIMARU京都 河原町五条、MIMARU京都 新町三条での試泊調査

  • 当事者家族の行動、感情、空間利用状況の観察・評価、宿泊施設における空間設計、情報提供、接客、運用上の改善点の整理

成果

  • 発達特性のある子どもと家族が旅行時に感じる困りごとを、64名へのアンケートとインタビューから可視化・子どもの特性に起因する困難だけでなく、保護者の精神的・身体的負担や周囲の視線が大きな制約になっていることを確認

  • 「落ち着くための専用スペース」を利用した経験がある回答者は12%にとどまり、宿泊施設や日常的な外出先に安心できる居場所が不足していることを把握

  • 旅行時の困りごとを5つの構造的課題として体系化・旅行前の情報提供が、不安の軽減だけでなく、期待感や行動の安定化につながることを確認

  • 客室内に、刺激から距離を置いて休める「ほっとコーナー」を設置、共用部に、心地よい感覚刺激を通じて自ら状態を整えられる「ひかりとふわふわのばしょ」を設置・「休む場所」と「発散・没頭する場所」の両方を用意することの有効性を確認

  • 子どもが自らカームダウンエリアへ移動し、気持ちを落ち着かせる行動を確認・共用空間と個室では利用しやすさが異なり、他者との距離を選べることが重要であると把握

  • スタッフの柔軟な声かけや見守りが、設備だけでは補えない安心感につながることを確認

  • 個人のニューロダイバーシティだけでなく、家族全体の関係性や負担を捉える「家族のダイバーシティ」という視点を獲得

「標準的な家族像」を見直すことから始まった空間づくり

本プロジェクトは、当初から発達特性だけを対象として始まったものではありません。

コスモスイニシアが部署横断で新しい空間づくりを検討する中で、これまで無意識に想定していた「標準的な家族像」では、多様な暮らしの実態を十分に捉えられていないという課題が浮かび上がりました。住宅やホテルでは、できるだけ多くの人に使いやすい空間を提供することが重視されます。

一方で、その「多くの人」という言葉の中から、光や音に敏感な人、予定変更への対応が難しい人、複数の情報を同時に処理することが負担になる人などが、見過ごされている可能性があります。

発達特性は、特定の人だけが持つ明確な区分ではなく、集中しやすさ、感覚の敏感さ、情報処理の方法など、一人ひとり異なるグラデーションとして存在します。また、困りごとは人の特性だけから生じるのではなく、その人と生活環境との間にミスマッチがあることで顕在化します。

そのため、「本人が既存の環境に合わせて頑張る」のではなく、照明、音、情報、動線、他者との距離など、環境の側を柔軟に調整できるようにすることが、空間づくりを担う企業に求められます。

CULUMUは、当事者や有識者の具体的な経験を起点に、これまで見過ごされてきた生活上の困難を、空間設計の課題として捉え直しました。

住宅からホテルへ、実際の滞在環境で知見を検証

コスモスイニシアで始まった空間研究は、グループ会社であるコスモスホテルマネジメントが運営するアパートメントホテル「MIMARU」での実証へと発展しました。MIMARUは、4人以上で泊まれる広い客室やキッチンを備え、宿泊者の約9割を家族連れが占めるホテルです。

普段の生活に近い環境を再現しやすいという施設特性を持つ一方、旅行そのものには、移動、初めての場所、予定変更、食事、睡眠、人混みなど、多くの不確実な要素があります。

発達特性のある子どもにとっては、こうした予測困難な要素が重なることで、心身の負担が大きくなる場合があります。そのため、ホテルの客室や共用部が、外出中にいつでも戻れる「安心の拠点」として機能するかを検証することにしました。

CULUMUはMIMARUの施設を見学し、特定のホテルだけに最適化された大規模な改修ではなく、他の宿泊施設でも比較的導入しやすい情報提供や空間上の工夫を中心に実証計画を設計しました。

64名への調査から見えた、旅行への意欲と家族の負担

試泊調査に先立ち、発達特性のある子どもを持つ家族へのインタビューと、64名を対象としたインターネットアンケートを実施しました。

プロジェクト開始時には、「旅行は負担が大きいため、そもそも出かけない家庭が多いのではないか」という仮説もありました。しかし、実際に話を聞くと、困難があっても「子どもにさまざまな経験をさせたい」「家族で旅行を楽しみたい」という強い思いがあることが分かりました。

旅行は単なる余暇や思い出づくりではなく、子どもにとっての挑戦や成功体験であり、家族の未来の可能性を広げる機会として捉えられていました。その一方で、多くの家族が「周囲に迷惑をかけないようにすること」に大きな神経を使っていました。

アンケートでは、「環境の変化で不安定になる」「予定変更に対応しづらい」といった子どもの特性に関する困りごとだけでなく、保護者の精神的・身体的負担や、周囲からの視線が大きな制約となっていることが明らかになりました。

対策として、外出を短時間で切り上げる、混雑を避ける、予定を減らすなど、家族が旅行体験そのものを制限している実態も見えてきました。また、「落ち着くための専用スペース」を利用した経験がある人は12%にとどまり、利用場所も療育施設、イベント会場、商業施設、空港などに限られていました。

日常的な外出先や宿泊施設に、親子が周囲の目を気にせず休める場所が不足していることが、社会的な課題として浮かび上がりました。

旅行時の困りごとを5つの構造的課題へ整理

アンケートやインタビューで得られた困りごとは、一見すると家庭や個人ごとに異なります。

CULUMUは、それらを個別の要望として扱うのではなく、旅行という体験と環境との関係から、共通する5つの構造的課題として整理しました。

1.見通しが立ちにくい

旅行では、移動経路、施設の様子、滞在中の予定、出会う人など、普段の生活よりも不確実な要素が多くなります。事前に何が起こるのか分からないことが、不安や緊張、行動の不安定さにつながります。

2.人との距離を調整しづらい

ホテルのロビー、エレベーター、レストランなどの共用空間では、他の利用者との接触を避けることが難しくなります。一人で落ち着きたいときにも、周囲から距離を取れる場所が見つからない場合があります。

3.刺激を予測・調整しづらい

照明、音、人の動き、におい、室温など、旅行先では普段とは異なる刺激が生じます。いつ、どの程度の刺激が発生するかを予測できず、複数の刺激が蓄積することで心身の負担が高まります。

4.普段の生活を再現しづらい

食事、入浴、睡眠、遊び方など、普段と同じ習慣や環境を維持することが難しくなります。特定の食事や寝具、生活手順が安心につながっている場合、環境の変化が大きな負担になります。

5.複数の負荷が同時に重なる

ホテル到着時には、移動による疲労、荷物の運搬、チェックイン手続き、子どもの見守り、周囲への配慮などが同時に発生します。一つひとつの負担は小さくても、複数の対応が重なることで、家族全体の余裕が失われやすくなります。

これらの課題に対して重要なのは、特定の行動や障害特性に合わせて空間を固定することではありません。利用者自身が、刺激、人との距離、情報量、過ごす場所を選択し、自分の状態を整えられる環境を用意することが、実証実験の基本方針となりました。

旅行体験を「事前・到着・滞在・回復」に分けて設計

試泊調査では、旅行体験を「事前」「到着」「滞在」「回復」という場面に分け、それぞれに生じる課題に対応する施策を設計しました。

旅行前には、宿泊する客室や施設、滞在中の流れを視覚的に確認できる、子ども向けの事前リーフレットを作成しました。

到着時には、チェックインや荷物の運搬、子どもの対応が重なることを想定し、事前の特性把握や、ロビーで待機できる場所の確保を行いました。

滞在中には、刺激から離れて休める客室内のカームダウンエリアと、心地よい感覚刺激を受けながら没頭・発散できる共用部のスヌーズレンコーナーを用意しました。また、設備だけに頼るのではなく、スタッフによる柔軟な声かけや見守りも、安心して滞在するための重要な要素として検証しました。

刺激から離れて休める「ほっとコーナー」

客室内には、パニックになりそうなときや、外出による疲労を感じたときに、自分だけの安全基地として利用できる「ほっとコーナー」を設置しました。

ホテルの客室は家族が同じ空間で過ごすため、子どもが一人になりたいときにも、家族の会話や視線、生活音から完全に距離を取ることは簡単ではありません。

そこで、テントや囲われた空間などを活用し、外部からの刺激や視線を適度に遮りながら、家族とのつながりを保てる場所をつくりました。試泊中には、理由が分からず泣いていた子どもが、自らほっとコーナーへ入り、落ち着きを取り戻したという事例が確認されました。

これは、保護者がその都度対応方法を指示するのではなく、子ども自身が自分の状態に気づき、適切な場所を選択できる可能性を示しています。

安心できる場所があらかじめ客室内に用意されていることは、子ども本人だけでなく、「状態が不安定になったときに逃げ場がある」という家族全体の安心感にもつながります。

心地よい刺激で没頭・発散できる「ひかりとふわふわのばしょ」

刺激を減らすだけでは、すべての人が落ち着けるとは限りません。発達特性やその時々の状態によっては、光、動き、触感などの心地よい刺激に没頭することで、気持ちを整えやすくなる場合があります。

そこで共用部には、スヌーズレンの考え方を取り入れた「ひかりとふわふわのばしょ」を設置しました。

水中の泡や色の変化を楽しめるバブルユニット、落ち着いて過ごせるテント、見たり触れたりして楽しめる道具などを配置し、五感を穏やかに刺激できる空間をつくりました。

試泊した家族からは、「普段のキッズルームでは興奮しやすいが、この場所では興味を持ちながらも落ち着いていた」「何度も訪れ、お気に入りの道具で遊んでいた」といった声が寄せられました。

客室内の「休む場所」と、共用部の「没頭・発散する場所」の両方を用意することで、子どもがその時の状態に合った過ごし方を選びやすくなりました。

共用空間と個室、どちらも選べることの重要性

「ひかりとふわふわのばしょ」は、独立した個室に設置するパターンと、ロビー横の共用スペースに設置するパターンの2種類を検証しました。

ロビー横に設けた場合は、施設を利用する他の子どもにも自然に使われ、時間帯を問わずアクセスしやすいという利点がありました。

発達特性の有無にかかわらず、多様な子どもが利用することで、特定の人だけを対象とした特別な設備ではなく、ホテル全体の体験価値を高める空間となる可能性も確認されました。

一方で、他の利用者がいると空間に入れない、視線や音が気になって利用しづらいという子どももいました。

個室型の空間では、他者との接触を避け、自分のペースで安心して過ごしやすいという特徴がありました。

この結果から、単にカームダウン設備や感覚刺激のための設備を設置するだけでは十分ではなく、「人との距離を取る」「他者と一緒に過ごす」「一人で過ごす」といった選択肢を用意することが重要であると分かりました。

インクルーシブな空間とは、誰に対しても同じ場所を提供することではなく、自分の状態に合わせて場所や関わり方を選択できる空間だと考えられます。

事前情報が、不安を期待へ変える

旅行前の「見通しが立ちにくい」という課題に対しては、当初の計画にはなかった子ども向けの事前リーフレットを作成しました。

インタビューの中で、施設の外観、客室、スタッフ、旅行中の流れなどを事前に知ることで、子どもの安心につながるという声が多く聞かれたためです。

リーフレットには、宿泊する部屋やホテル内の空間、「ひかりとふわふわのばしょ」、旅行中の予定などを、写真や分かりやすい表現で掲載しました。

試泊家族からは、「旅行への不安よりもワクワクする気持ちが強くなった」「事前に客室の動画を見ることで安心できた」という声が得られました。

一方で、「どのようなスタッフがいるのかも知りたい」と子どもから何度も質問されたという意見もあり、空間だけでなく、そこで出会う人の情報も見通しをつくる要素になることが分かりました。

事前情報は、単に不安を減らすための説明資料ではありません。

本人が旅行の流れを理解し、心の準備をし、楽しみを見つけることで、実際の行動を安定させるための重要な環境設計の一部です。

設備だけでなく、スタッフの対応が安心感をつくる

空間や情報を整備しても、旅行中に生じるすべての負荷を取り除くことはできません。特に到着時には、駐車場からの移動、荷物の運搬、子どもの見守り、チェックイン手続きなどが重なり、保護者の負担が高まります。

試泊調査でも、「荷物を運びながら子どもに対応することが大変」「荷物を運びやすくする工夫が必要」といった課題が挙げられました。一方で、「スタッフが笑顔で声をかけてくれた」「柔らかな対応で安心できた」という評価も得られました。

必要なときには支援し、必要がないときには過度に介入せず見守るという柔軟な接客は、設備だけでは補えない安心感につながります。

インクルーシブなホテル運営には、ハード面の整備だけでなく、利用者の状態や希望に応じて対応を選択できるスタッフの理解と運用体制が不可欠です。

個人の多様性から「家族の多様性」へ

本プロジェクトを通じて得られた重要な示唆の一つが、発達特性を個人だけの問題として捉えないことです。

子どもが刺激や予定変更に困難を感じるとき、その影響は本人だけにとどまりません。保護者は周囲への説明、きょうだいへの配慮、荷物やスケジュールの管理、子どもの状態の調整など、複数の対応を同時に担います。一方で、子どもが安心して過ごせる場所や情報が用意されることで、保護者やきょうだいも緊張を緩め、旅行を楽しみやすくなります。

「個人のニューロダイバーシティ」への配慮が、家族全体の体験や関係性を変える可能性があります。

家族滞在型ホテルでの実証を通じて、誰か一人の特性に対応するだけではなく、家族の構成や関係性、役割、過ごし方の違いを前提に空間やサービスを考える「家族のダイバーシティ」という視点が生まれました。

誰もが自分の状態に合わせて過ごせる都市環境へ

発達特性のある子どもと家族の経験を起点として空間を見直すと、これまで日常に埋もれていた小さなストレスや使いづらさが見えてきます。

照明が強すぎないか、生活音が負荷になっていないか、一人になりたいときに距離を取れるか、初めて訪れる人が事前に情報を得られるかといった問いは、発達特性のある人だけに関係するものではありません。

出張で疲れている人、妊娠中で感覚が敏感になっている人、小さな子どもを連れた家族、高齢者、外国からの旅行者など、さまざまな人にとって重要な視点です。

今回の試泊調査で検証した施策は、大規模な改修を前提とするものではありません。事前情報の提供、家具やテントによる居場所づくり、照明や刺激の調整、待機場所の確保、スタッフの柔軟な対応など、既存施設にも導入可能な工夫を中心に構成されています。

特定の人の困りごとに深く向き合い、その背景にある環境との関係を捉えることで、結果として、より多くの人が自然に使いやすく、心から安心できる空間につながります。

CULUMUは、当事者の声を調査するだけでなく、空間設計、サービス運用、情報提供、スタッフ対応へと翻訳し、実際の施設で検証するプロセスを通じて、インクルーシブな都市環境づくりを支援しました。

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