「インクルーシブデザインって、何なんだろう?」新メンバーと考える、CULUMUの仕事と思考
#インタビュー
インクルーシブデザインスタジオで働くとは、どういうことなのか。
インクルーシブデザインとは、これまで見過ごされやすかった人の経験や困りごとを起点に、サービスやプロダクト、場のあり方を考えていくデザインの考え方だ。たとえば、障害のある人や高齢者、外国籍の人など、多様な当事者と一緒に考えることも、その一つに含まれる。
ただ、CULUMUの仕事は、その一文だけでは捉えきれない。
今回は、直近でCULUMUに参画した狩生理沙、竹中哲、徳野稀太と、2024年3月よりCULUMUに参画している山﨑佳を交えながら、CULUMUの仕事について話を聞いた。
入る前に思っていたこと、実際に関わってみて感じたこと、いまもまだうまく言葉にできないこと。それぞれの視点から、CULUMUで働くことを考えていく。

入る前に見えていたCULUMUと、入ってから見えてきたCULUMU
──まず、CULUMUに入る前に、どんな印象を持っていたのかを聞いてみたいです。CULUMUって外からはどう見えていたんでしょうか。
竹中 僕は、インクルーシブデザインばかりやっているのかなと思っていました。もちろん、入る前から(他のテーマ案件の)後方支援のような仕事もあるとは聞いていたんですけど、実際に入ってみると、意外とそちらの割合も多いんだなと感じました。
──それは、いいギャップでしたか? それとも、思っていたのと違うという感じでしたか?
竹中 いい・悪いというより、「そりゃそうだよな」と腑に落ちた感じです。インクルーシブデザインだけでクライアントの課題解決が100%成り立つわけではないですし、クライアントワークとして成立させるためには、いろいろな仕事があるんだなと。
徳野 僕は逆で、思ったよりインクルーシブデザインの仕事が多いなと思いました。
──逆なんですね。
徳野 インクルーシブデザインばかりやっていても、正直お金を稼ぐのは難しいだろうと思っていました。なので、もっとマーケティング的に言葉だけ使われている部分もあるのかな、という先入観もありました。
でも入ってみると、もちろん他の仕事もあるんですけど、インクルーシブデザインに近い領域をちゃんとやり続けている。もっとお金を稼げる案件もあるだろうに、それでもこの領域を組織としてやろうとしているんだな、というのは伝わってきました。
狩生 私も徳野さんに近いです。もともと産後ケアや日本語教師のような領域に関わっていて、マネタイズの難しさはすごく感じていました。だから、お金がないと回らないよな、という感覚はありました。
ただ、実際に入ってみると、インクルーシブに近い案件も思ったより多い。いろいろな案件でお金をいただきながら、インクルーシブデザインもやっている、という印象です。
山﨑 今の話は、どちらもわかります。ビジネス目線で見ている人は、「インクルーシブデザインだけでやっていけるの?」と思うだろうし、逆にインクルーシブデザインをやりたくて入ってきた人は、「あれ、そうじゃない案件もやるんだ」と感じると思います。
あと、入ったタイミングでどの案件に関わるかによっても印象は変わりますよね。インクルーシブデザインに近い案件に入るのか、そうではない案件に入るのかで、受ける印象はかなり違うと思います。
──山﨑さん自身は、入る前はどちら寄りでしたか?
山﨑 私は、インクルーシブデザインをやりたくて入っています。会社がすごく大きくなりそうとか、稼ぎそうだという期待は正直あまりなかったです。ただ、インクルーシブデザインをやれる場所は少ないので、それができるところがいいなと思っていました。
今、インクルーシブデザインを前面に出す案件だけに関わっているわけではありませんが、がっかりはしていないです。CULUMUとしてインクルーシブデザインに向き合い続けているからこそ、通常のデザイン支援や事業支援の中でも、見過ごされがちな視点をどう活かせるかを考えられる。そこはつながっているんですよね。
──案件の種類で切り分けるというより、どの仕事の中でも、CULUMUとして大切にしている視点をどう活かせるかを考えている。
山﨑 そうですね。もちろん、私自身もインクルーシブデザインには関わっていきたいです。でも、組織の中でちゃんとつながっているので、インクルーシブデザインを前面に出す案件だけではないこと自体には、納得感があります。

「CULUMUらしい提案」って、どうつくるんだろう
──実際に仕事をしてみて、CULUMUならではの難しさを感じる場面はありますか?
竹中 クライアントさんも、「インクルーシブデザインスタジオであるCULUMUに発注している」という意識を持っていることが多いと感じています。なので、「CULUMUらしい提案って何だろう」とすごく考えます。
インクルーシブデザインではない案件でも、アクセシビリティやインクルーシブデザインの観点をどう織り込めるか。そこは今もかなり頭を使っているところです。
──「CULUMUらしさ」を、いきなり自分の中で定義しきるのは難しいですよね。竹中さんは、その難しさとどう向き合っているんですか?
竹中 まずは、自分なりに一回考えるようにしています。そのうえで、「こう思っているんですけど、どうですかね」と先輩方に相談する。
そうすると、インクルーシブデザインの経験があるメンバーから、「こういう提案の仕方もあるんじゃないか」「この観点も入れられるんじゃないか」と返ってくるんです。そこで、少しずつ提案の質が上がっていく感覚があります。
──つまり、竹中さんにとっての「CULUMUらしさ」は、完成された定義として最初からあるというより、案件ごとに考え、周囲と壁打ちしながら掴んでいくものなんですね。
竹中 そうですね。自分だけで「これがCULUMUらしさです」と決めるというより、まず考えて、相談して、他の人の視点を足してもらいながら深めていく。そういうプロセスの中で、だんだん見えてくるものだと思っています。
──山﨑さんは、「CULUMUらしい仕事」や「CULUMUらしい提案」をどう捉えていますか?
山﨑 正直、クライアントによります。インクルーシブデザインを求めて依頼してくださっている方には、「CULUMUとしてこうやります」と話しやすいです。
でも、最初からインクルーシブデザインを求めていないクライアントもいます。そういう方に対して、いきなりインクルーシブデザインの話を投げかけても、不自然になってしまう。
──無理に押し出せばいいわけではない。
山﨑 そうです。インクルーシブデザインスタジオであることには誇りを持っています。でも、インクルーシブデザインはこちらだけが熱量を持っていてもできないんです。相手にも関心や熱量がないと、一緒に進めるのは難しい。
ただ、完全に諦めるわけではないです。やり取りの中で、「今ならこの話を出せそうだな」という隙間が見つかることはある。たとえば「それって高齢者の方にも関係しますよね」とか、そういう接続点があれば、そこから話を広げていきます。
──入口が通常のデザイン支援や事業支援でも、やり取りの中でインクルーシブデザインにつながる可能性を探している。
山﨑 そうですね。ただ、なかなかつながらないこともあります。クライアントのフェーズもあると思うんです。まずはビジネスとして固めたい、土台をつくってから次に進みたい、という状況もある。
インクルーシブデザインによって新しい発見があることは大事です。でも、それが必ずビジネスの成功に直結するとは言い切れない。だからこそ、相手に関心がない状態でいきなり出すのは難しいなと感じます。
徳野 クライアントがやりたいこと自体は、インクルーシブデザイン的な思想に基づいていることもあると思うんです。ただ、手法としてはビジネス的なやり方しか知らない、ということがある。
だから、こちらが「インクルーシブデザインとはこうです」と持ち込むというより、同じ問いを一緒にモヤモヤできる状態をどうつくるかが難しいと思っています。
──同じ問いを一緒にモヤモヤする状態。
徳野 はい。クライアントの中では当たり前になっている考え方がある。特に日本企業では、ビジネス的な考え方がすごく訓練されていると思います。
そこから少し外すために、あえて子どもっぽい問いを投げることがあります。仕事としての前提を一回リセットするというか、別の思考を通じて話すようにする。
──「CULUMUらしさ」は、決まった型に当てはめることではなく、クライアントの文脈に合わせて問いの立て方を変えることでもあるんですね。

そもそも、インクルーシブデザインって何なんだろう
──狩生さんは、入ってみて難しいと感じていることはありますか?
狩生 私はまだ2ヶ月くらいなんですけど、「インクルーシブデザインって何なんだろう」というのはずっと感じています。
なんとなくイメージしているものはあるし、「インクルーシブデザインをやっているな」と感じる場面もあるんですけど、そもそもインクルーシブデザインとは何かを人に説明できるのか。みんなの頭の中にあるデザインが、同じものなのか。そこは今でも難しいと思っています。
──たしかに、社内でも「これはインクルーシブなのか」という捉え方に差があるように感じることがあります。
狩生 全部を「これはこうです」と定義するのも違うのかなと思っています。変動していくこと自体がインクルーシブなのかもしれない。でも、だからこそ難しいです。
徳野 インクルーシブデザイン、わからないですよね。
単純に「障害のある人と一緒にやる」といった手法として捉えるよりは、思想や考え方として捉えるほうが近いのかなと思っています。
クライアントがビジネスとしてやりたいことの中にも、実はインクルーシブデザイン的な思想が含まれていることがある。でも、手法としてはビジネス的な方法しか知らなかったり、思考としてそこまで想像されていなかったりする。
その中で、どうやって同じ問いを持てる状態をつくるか。一緒にモヤモヤできる状態をどうつくるかは、これからもずっと難しいんだろうなと思います。
──インクルーシブデザインを「手法」として持ち込むというより、クライアントと一緒に問いを立て直していく感覚なんですね。
徳野 そうですね。たとえば、クライアントの中で当たり前になっているものがあるとします。その前提から少し外すために、あえて素朴な問いを投げることがある。
仕事として考えると、どうしてもビジネスの文脈で整理しようとするじゃないですか。でも、そこで一回、「それってそもそも何なんでしたっけ?」と聞いてみる。そういう問いが、別の考え方に入っていくきっかけになることもあると思っています。
「わからない」と言えることは、専門性の一部かもしれない
──「わからない」と言うことって、専門家として依頼されている立場では勇気がいることでもあると思います。信頼を落としてしまうのではないか、という不安はないのでしょうか。
山﨑 言い方は大事だと思います。でも、私たちが持っているのは、「知らないことを知っている」という専門性なのかなと思います。
誰でも、自分たちがまだ見えていないことがある、ということ自体には気づきにくいものです。私たち自身も同じです。たとえば、子育てもそうですよね。子どもが生まれて初めて、「自分は子育てのことを何も知らなかった」と気づく。
どの世界にも、入ってみないと見えないことがある。私たちは、その「知らなかったこと」に一緒に入っていくためにいるのかなと思っています。
──「自分たちは知らない」と言うことは、専門性を放棄することではない。
山﨑 そうですね。むしろ、何を知らないのかを知っていることが大事だと思います。
たとえば、高齢者の方にインタビューをして話を聞いたとしても、「こういう話を聞きました」とまでは言える。でも、「私は高齢者の免許返納について知っています」とは思わないようにしています。
一回やったことがあるテーマほど、わかった気になりやすい。だからこそ、「これ、私はまだわかっていないよね」と思えることを大事にしています。
竹中 スタンスとしては、「だから当事者の人に聞いてみましょうか」なんですよね。いっぱい話して、聞いてみて、調べてみる。そこがスタートになる。
山﨑 そうですね。すぐに答えを出すほうが早いし、ビジネスでは結果も決断も求められます。でも、「本当にわかっているんだっけ?」と問い続ける。
モヤモヤを途中で終わらせず、もう少し一緒にモヤモヤする。それは大事にしているかもしれません。
形にしてみることで、問いが更新されていく
──CULUMUのデザイナーとして、大事にしている姿勢はありますか?
狩生 最近すごく思っているのは、自分がわかっていないことに気づくプロセスを大事にしたい、ということです。わかった気にならない。
ただ、「わからない」で止まってしまうのではなく、わかるための努力は続けたいです。わからないことをわかろうとする姿勢は、大事にしたいと思っています。
徳野 僕は、「問いを更新し続ける」ことだと思っています。
デザインって、形にすると考えられるようになるんですよね。もちろん、言語化してつくるプロセスは必要なんですけど、その言語化が必ずしも正しいわけではない。
作ってみることで考えられるようになって、そこから問いが生まれて、また議論して、また作り直す。あやふやな状態のまま形にできることが、デザインの力だと思っています。
──インクルーシブデザインも、そこに近い。
徳野 そうです。当事者の方と一緒にやるといっても、当事者の方自身も言語化できていないことがある。社会構造の中にいるからこそ、気づけないこともある。
そこに自分たちが外側の存在として参加して、わからないまま何かを作る。そうすると、初めて議論できるようになることがある。わからなさは残りつつも、みんなで合意できるところに少しずつ近づいていく。そのプロセスが大事だと思っています。
竹中 僕は、前職が事業会社で、Webで働くフリーランスという限られた人たちに向けたサービスに関わっていました。そこから、もっといろいろな人に向けてものづくりをしたい、関わる人や目線のストックを増やしたいと思ってCULUMUに入りました。
当事者の方を知れば知るほど、インプットが増えて、アウトプットに活かせる。答えの数を増やして、新しい問いを見つける。そういうことをなるべくたくさんやっていきたいです。

「わからない」と言える組織であること
──CULUMUでは最近、案件で得た知見や、それぞれの専門性を共有する勉強会も積極的に実施していますよね。そうした場に限らず、新しく知ったことをみんなで面白がったり、「それ、わからないね」と一緒に考えたりする空気があるように感じています。
こういう文化は、以前からあったものなんでしょうか。
山﨑 「わからない」と言える空気は、私が入ったときからあった気がします。
誰かが「わからない」と言ったときに、「なんでそんなこともわからないんだろう」ではなく、「確かにわからないね」となる。あるいは、「その人はなぜまだそれを知らなかったんだろう」という問いになる。
わからないことが、誰かの発見につながる。そこにネガティブな感じがあまりないんです。
竹中 CULUMU内では、全員に投げたら誰かが答えてくれる、という場面を何度も見ています。新しい案件では様子を見ることもありますけど、社内では聞きやすい雰囲気がありますね。
狩生 私も、すごくフラットだなと感じています。前の環境では、上の人が決めたことならしょうがない、やるしかない、という感覚もありました。でもCULUMUでは、「どうなんだっけ?」と言いやすい。上下の権力差のようなものをあまり感じないです。
徳野 もう少し、他の事業や案件の話を気軽に聞けるといいなとは思います。案件でも使えるような知見が、いろいろなところにあるはずなので。きちんとした共有会にしてしまうと大変かもしれないですけど、もう少し気軽に聞ける場があるといいなと思います。
この対話を、どう組織の学びにしていくか
──クライアントワークだから、情報共有は常に難しいですよね。周りの人がどんな仕事をしているのかを、100%はわからない状態で動いている事業部でもあると思います。
だから、提案ですけど、メンバーがメンバーにインタビューする形で、他の案件の話を聞くのもいいのかなと思いました。みんながそれを聞いている、みたいな。
プロジェクト共有会や事例紹介は、どうしても一方通行になりやすい。先生と生徒のような関係になりやすいんです。もう少し会話形式にできたほうが、話しやすいし、質問も出やすいのかなと思います。
山﨑 たしかに。プロジェクトの話もそうですし、CULUMUについてどう思っているかを、メンバー同士で話すのはいい気がします。聞く人と喋る人が固定されるのではなく、フラットに話せるといいですね。
まだ言葉にならないものを、考え続ける
インクルーシブデザインスタジオで働くとは、何か。
今回の対話では、その問いに対する明確な答えが出たわけではない。
インクルーシブデザインの仕事だと思って入ったら、そうではない仕事もあった。
逆に、もっと少ないと思っていたら、想像以上にその領域に向き合っていた。
「CULUMUらしい提案」を考えようとしても、案件やクライアントの状況によって、出し方は変わる。
そもそも、インクルーシブデザインとは何なのか。その定義すら、簡単には言い切れない。
けれど、だからこそ、問い続けることが仕事になる。
わからないことを、わからないままにしない。
でも、急いでわかったことにもしてしまわない。
当事者に聞き、クライアントと考え、形にして、また問い直す。
CULUMUの仕事は、まだ言葉になっていないものを、誰かと一緒に考え続けることなのかもしれない。
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