AI時代のデザイナーは、広げるキャリアから、重ねるキャリアへ — これからのデザイナーのスキルの話

CULUMU

    • #ナレッジ

    みなさん、こんにちは。STYZ CDO、インクルーシブデザインスタジオCULUMU代表(インクルーシブデザイン事業責任者)の川合です。

    今日は、この1年ほど、ずっと考えていることを書きます。

    デザイナーが何をできる人なのかを説明するのが、急に難しくなりました。

    採用の面談でも、メンバーの評価でも、自分のキャリアを考えるときでも同じです。これまで使ってきた言葉で説明しようとすると、どうにもうまくいかない。肩書きと、実際にやっていることのズレが、以前よりはっきり大きくなっています。

    AIができることが、デザインのどの段階にも広がった

    理由ははっきりしています。AIができることが、一気に増えたからです。デザインも、その範囲に入りました。

    ここで大事なのは、これが「AIでビジュアルが作れるようになった」という話ではない、ということです。ビジュアルだけでなく、デザインのどの段階にもAIが入ってきています。画面の構成、情報の整理の仕方、必要な機能の洗い出し、事業の目標とユーザーの困りごとを並べた整理まで。どれも数十秒で、それらしいものが返ってきます。

    もちろん、返ってくるのは、どれも「そこそこ」のものです。そのまま使えることは、ほとんどありません。ただ、どの段階についても、もうゼロからは始まらない。これは、デザイナーという仕事にとって、かなり大きな変化だと思います。

    補足:デザインの段階を整理したモデル

    ここでいう「段階」について、先に共有しておきます。J.J.ギャレットが『The Elements of User Experience』(2000)で示した、5つの層です。下に行くほど抽象的で、上に行くほど具体的になります。

    もともとはWebサイトの設計を整理したものですが、いまは「その人がどこに強みを持っているか」を見るのにも使えます。この記事では、細かい定義の話ではなく、話を進めるための共通の言葉としてお借りします。

    これまでは、中心から外へ広げていく形だった

    これまでのデザイナーのキャリアの積み方は、中心から外へ広げていくものだったと思います。

    まず、中心になるデザイン領域をひとつ持つ。そこから外側へ、順番に手を伸ばしていく。私自身がそうでした。UIデザインから始めて、UXデザインへ。そのあとビジネスデザイン、いまは組織開発のあたりまで来ています。

    この形には、いいところがありました。中心があるので、自分が何者かを説明しやすい。「もともとUIの人」「もともとリサーチの人」と言えば、だいたい通じます。広がった範囲の大きさが、そのまま経験の量として伝わりました。

    ただ、この説明の仕方は、もう通じにくくなってきていると感じます。

    いまは、誰でも最初から全部を薄く持っている

    「外へ広げる」という考え方が前提にしていたのは、「外側については、まだ何も持っていない」という状態でした。UIから始めた人は、最初はUXのことを何も知らない。だからこそ、広げることに意味がありました。

    ところがいまは、やる気さえあれば、誰でも最初から全部を薄く持っています。UIデザイナーが事業戦略のたたき台を作ることも、リサーチャーが動くプロトタイプを出すことも、以前よりずっと手前の段階でできてしまいます。

    そうなると、「広げる」という感覚が、実感と合わなくなってきます。広げるも何も、最初から全部が薄く乗っているからです。

    これからは、レイヤーを重ねていく形になる

    代わりに、いま私がしっくりきているのが「レイヤーを重ねていく」という感覚です。

    最初はどのレイヤーも薄い。AIが用意してくれる、薄い土台です。そこから先は、自分で実際につくって、うまくいかなくて、やり直したところだけが厚くなっていきます。

    厚くなるのは、たぶんこういうことを経験したレイヤーです。AIが返してきたものを見て「なんか違う」と思ったときに、どこがどう違うのかを言葉にできる。その判断の理由を、他の人に説明して納得してもらえる。うまくいかなかったときに、どこまで戻ればいいかがわかる。

    これは、つくる力ではなく、出てきたものを判断する力です。そして判断する力は、そのレイヤーで実際に失敗した回数の分しか育ちません。だから、経験が厚みとして残ります。

    「広げる」は、どこまで届いたかを見ます。「重ねる」は、どこが厚いかを見ます。前者は広さの話で、後者は深さの話です。深さで見ると、同じ「UX歴10年」でも、まったく違う人であることがわかります。

    重なったとき、どんな色になるか

    ここからが、いちばん面白いと思っているところです。

    デザイナーを見るとき、私は「このレイヤーがどう重なっていくか」を見ています。そしてもうひとつ、「重なったときに、どんな色になるのか」。

    同じレイヤーを持っていても、厚みの配分が違えば、重なって見える色が変わります。上のほうが厚い人、下のほうが厚い人。どちらが上ということではなく、単純に別の色です。

    この色は、一度決まったら終わりではありません。新しいレイヤーを厚くすれば、色も変わっていきます。キャリアを「広げるもの」だと考えていたときには、あまり出てこなかった感覚です。

    どこまで広げたかではなく、どのレイヤーに厚みがあり、重なるとどんな色になるか。これからのデザイナーは、そうやって見られるようになると思います。

    全部をひとりで見る人が、増えていく

    レイヤーを重ねていくと、最後はどうなるか。「誰の、どんな困りごとを、どう解決するか」を、端から端までひとりで見るようになると思っています。

    課題を見つけるところから、構造を決めて、形にして、動かして、結果を見て、また直す。その全部に、同じ人が関わる。

    最近よく聞くようになった FDE(Forward Deployed Engineer)や FDD(Forward Deployed Designer)は、この形を指しているのだと理解しています。顧客の現場に入り込んで、課題を決めるところから実装までを、ひとり、あるいは少人数で通す役割です。もともとはエンジニア側から出てきた言葉ですが、デザイン側でも同じことが起きつつあります。

    ここで効いてくるのが、レイヤーの厚みです。全部を横断するときに、どのレイヤーで深く判断できるかが、その人の価値になります。薄いレイヤーはAIに任せて、厚いレイヤーは自分で判断する。そういう働き方になっていくはずです。

    CULUMUのメンバーは、みんな重なり方が違う

    こう考えるようになったのは、正直なところ、CULUMUのメンバーを見ているからです。一人ひとりの重なり方が、本当にバラバラで面白い。

    • 建築家 × デザインリサーチャー。導線と行動の話を、空間と画面の両方から見られる

    • デザインエンジニア × リサーチャー。聞いたその日のうちに、動くものが出てくる

    • クリエイティブディレクター × UIデザイナー。伝わる形と、使える形をつなげられる

    採用のときに「この人はUIの人ですか、UXの人ですか」と聞かれることがあるのですが、その質問にうまく答えられません。答えられないこと自体が、いい状態なのだと思っています。

    そして、こういう人たちはそれまでのキャリアを捨てていません。建築をやっていた時間も、コードを書いていた時間も、広告を作っていた時間も、全部そのままレイヤーとして残っていて、いまの判断に効いています。

    いろんな経験が価値になる時代

    デザイナーの仕事は、これからもっと複雑になります。同時に、もっと面白くなるとも思います。

    「デザイナーのキャリアパス」が一本道だった頃は、遠回りに見える経験は説明しづらいものでした。いまは逆です。変わったレイヤーを持っている人ほど、重なったときの色が珍しい。

    いろんな経験が、そのまま価値になる。そんな時代がもっと来ると思っています。楽しみです。

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