総務省データから見る「2040年問題」への解。老朽化する公共施設を、インクルーシブデザインでどう再生するか?

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2025年、CULUMUは神奈川県のオープンイノベーションプログラム「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」において、鎌倉市が公募した「地域資源の再生を通じた共創型福祉施設の利活用モデルづくり」に応募しました。
現地視察と、専門チームによる課題分析を経て提案を行いましたが、最終結果は非採択。 しかし、私たちがこのプロジェクトを通じて直面したのは、一自治体の課題にとどまらない、日本全体を覆う公共施設の限界と再生への糸口でした。
今回は、惜しくも実現には至らなかったこの提案プロセスを、あえてナレッジとして公開します。

鎌倉市への提案と、そこから見えた「問い」

名越やすらぎセンターの実地リサーチによる課題分析図

鎌倉市が提示した課題は、市が運営する高齢者福祉施設の老朽化と、それに伴う利用者の減少でした。 特に60代を中心としたアクティブな層の利用が減り、維持管理コストに対して稼働率が見合わない。
私たちはこれに対し、既存施設を単なる高齢者専用の場所から、インクルーシブデザインを用いて多世代が交流できる地域共創の拠点へと再定義する提案を行いました。
対象施設を視察して痛感したのは、山奥という立地の不便さと、昭和の時代に作られたハードウェアの限界です。しかし同時に、豊かな自然や無料の浴場といった、磨けば光る原石(ポテンシャル)も確かにそこにありました。
私たちは今回、この提案が非採択となった事実を受け止めつつ、そこで思考を止めることはしません。なぜなら、鎌倉市が直面しているこの悩みは、日本のあらゆる自治体が抱える悩みそのものだからです。

社会課題は、総務省データが示す「ハコモノ行政」の限界

全国の公共施設の老朽化状況を示す統計データ図解

リサーチを進める中で、私たちはこの問題の根深さを再認識することとなりました。それは、高度経済成長期に建設された公共施設が一斉に更新時期を迎える、いわゆる公共施設の老朽化問題です。
総務省の公共施設等更新費用に関する試算やデータを見ると、事態の深刻さが浮き彫りになります。

  • 築年数の壁: 全国の公立小中学校の約60%、市町村庁舎等の約半数が、すでに築40年以上を経過しています。

  • 財政の壁: これらをすべて建て替え・更新するには莫大な費用がかかります。しかし、人口減少に伴う税収減により、多くの自治体で予算確保は不可能です。

例えば神奈川県内の伊勢原市の試算(公共施設等総合管理計画)では、今後40年間の施設更新費用が、確保可能な年平均予算の約4倍に達するとされています。これは氷山の一角に過ぎません。
「古くなったら建て替える」という20世紀型のスクラップ&ビルドは、もはや財政的に破綻しています。今求められているのは、「今あるストック(既存資産)を、いかに延命させながら価値を最大化するか?」という、極めて高度なデザインとマネジメントの視点なのです。

予算は「維持」に消えていく。しかし“価値ある場所”になっていない構造的欠陥

公共施設の老朽化と法改正の変遷を示す普遍的社会課題の図

ここで私たちが注目したのは、「維持管理の予算(ハードの補修費)は投じられているのに、肝心の中身が時代に合わず、十分に活用されていない」という「機能的な陳腐化(時代遅れになってしまうこと)」の問題です。
行政は安全確保のために外壁や配管の修繕には予算を付けます。しかし、「そこで何をするか?」というソフト面(運営・体験)の根本的な仕組みが、数十年更新されていないケースが散見されます。

  • 中間的福祉の欠如: 介護が必要な方へのケアシステムはありますが、自立した元気な高齢者が社会参加し、生きがいを感じられる中間の居場所が決定的に不足しています。

  • 時代錯誤な空間設計: 「会議室と体育館だけ」といった画一的な機能提供では、現代の多様なニーズ(コワーキング、多世代交流、ワークショップ等)に応えられず、結果として”使われないハコ”を生み出し続けています。

建物としての寿命は残っていても、場所としての社会的寿命が尽きかけている。これが、私たちが捉えた本質的な課題でした。

CULUMUのアプローチ:インクルーシブデザインによる「場のあり方」の書き換え

福祉施設を地域の共創拠点に変える提案コンセプトのイラスト

この構造的な課題に対し、CULUMUは『福祉施設から、“地域の共創拠点”へ』をコンセプトに、単なるリノベーションではない、包括的な再生モデルを提案しました。

私たちが提案したのは、ハード・ソフト・コミュニティを一体としてデザインする、以下のアプローチです。

  1. 空間の再編集(まちのリビングラボ化): 大規模改修を行わずに価値を変える手法です。用途が限定された部屋を、多世代が実験的に使える「まちのリビングラボ」として再定義。サイン計画や照明、什器の配置をインクルーシブな視点で編集し直すことで、物理的な壁を壊さずとも、心理的な入りやすさを劇的に向上させます。

  2. N=1の声の可視化と反映プロセス: サイレントマジョリティを含む住民の声を拾い上げる仕組みを設計。Webや予約システムの使いやすさ改善はもちろん、利用者の潜在的なニーズを常に運営にフィードバックするサイクルを構築し、施設が時代遅れになるのを防ぎます。

  3. 共創エコシステムの構築: これが最も重要な点です。利用者をお客様として扱うのではなく、運営の担い手へと変える仕組みです。例えば、元気な高齢者がスキルを活かして若者の活動を支援するなど、多世代が役割を持って関われる”余白”を設計しました。

リサーチで得た豊かな自然や浴場といった資産も、単なる設備としてではなく、コミュニティを醸成する装置として位置づけ直しました。

CULUMUからの宣言:「共創 × 高度な再編集」こそが、縮小社会の希望になる

共創・声の可視化・空間の再編集という3つの着目点の図解

今回の応募を通じて、CULUMUはひとつの確信を得ました。 施設をよみがえらせるために必要なのは、何十億円もの建設予算ではありません。今ある資源を深く読み解き、現代の文脈に合わせて組み直す高度な編集力とデザインの力です。
インクルーシブデザインの手法を用いて、地域住民や当事者と共に使い道をゼロから考え直す。 「行政が管理する場所」から、住民が愛着を持つ「地域みんなの共有財産」へと意識を変容させる。
そうすることで、老朽化したお荷物施設は、多世代が集い、新たな価値が生まれる生きた場所へと再生します。
私たちはこの共創のアプローチこそが、人口減少と財政難に直面する日本において、公共施設再生の解になると信じています。

今後の展開:自治体・民間施設へのパッケージ提供と共創の呼びかけ

今回の鎌倉市への提案は、あくまで一つの通過点に過ぎません。 CULUMUでは、このプロジェクトで培ったナレッジと方法論をさらに磨き上げ、同様の課題(老朽化・低稼働・居場所不足)を抱える全国の自治体や民間施設のオーナー様へ展開していきたいと考えています。

  • 更新時期を迎えた公共施設の活用に悩む自治体担当者様

  • 地域貢献と収益性の両立を目指す遊休施設のオーナー様

  • エリアリノベーションに取り組むデベロッパー様

「壊して新しく作る」ことが困難な時代だからこそ、今ある場所の可能性を再発見するアプローチが必要です。 現状の課題分析から、住民を巻き込んだ対話の場づくり、そして具体的な空間・サービスの再編集まで。 もし、こうした取り組みの必要性を感じていらっしゃれば、まずは一度、お話ししませんか?
皆様の地域が持つ可能性を、私たちと一緒に考えていければ幸いです。


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