書籍「当事者発想」発刊に寄せて / デザインと当事者発想

      当事者発想ジャーナル発刊に寄せて

      この本を手に取っていただき、感謝申し上げる。この本は、知識を増やすための本というより、「自分がどんな問いを立てて生きているのか」を見直すための本である。だから、最初から順番に読んで理解しようとするよりも、むしろ自分の中にある違和感や、最近引っかかっている出来事を持ち込んで読むほうが、本来の力を発揮することだろう。

      どんな人向けの本なのか、というところでは、下記のような方々にお薦めしたいと考えている。

      • 「社会のため」「誰かのため」と思って行動したいのに、なぜか気持ちが乗らない人、ポジティブな反響・反応が得られていない人、行動を実践したにもかかわらず望ましい成果が得られていないと感じている人。

      • SDGsや多様性やDXなど、正しいとされるテーマには賛成できる。でも、それを自分の問題として動けるかと言われると、どこか遠い話に感じてしまう人。

      • 良いことをしたいと思っているのに、現場ではうまくいかず、誰かを助けたつもりが相手に嫌がられてしまったり、むしろ関係が悪くなってしまった経験がある人。

      この本が扱っているのは、「みんなにとって良いこと」と「自らが視ている現実」の間にある溝だ。社会の正しさは、たいてい大きな言葉で語られる。国や企業や専門家が、社会全体のために必要だと言う。しかしその言葉は大きすぎて、個人が引き受けられる形になっていないことが多い。そのとき、問われている問いが個人の行動につながる形に翻訳されていないと捉えることが大切になる。この本は、その翻訳の仕方を扱っている。

      この本の読み方

      この本の読み方の中心は、「誰かのために」という言葉を疑うことにある。誰かを助けたい、良いことをしたいという気持ちは、もちろん悪いものではない。ただ、善意はそのままでは簡単に空回りしてしまう。助ける側は合理的に考え、「これが役に立つはずだ」と思う。しかし助けられる側には、その人なりの自尊心や過去の経験や怖さがある。同じ行為でも「管理されているように感じる」「自分を否定されたように感じる」と受け取られることがある。ここで起きているのは、善意が足りないことではなく、前提がずれていることだ。

      ここでは支援や配慮が失敗するとき、そこには「助ける側と助けられる側が対等ではない」という構造が隠れていると説明している。つまり、助ける側が無自覚に強い立場に立ってしまうと、支援はいつのまにか支配に変わってしまう。そのため、問いは「何をしてあげるか」ではなく、「どんな関係の中で、一緒に何を考えるのか」でなければならない、という方向へ導かれることだろう。

      この本が本当に役に立つのは、「良いことをしたいのに、どうしていいか分からない」ときだ。あるいは「正しいはずの仕組みが、なぜか人を傷つけている」と感じたときかもしれない。しかしそんなとき、この本は、あなたに正解をくれるわけではない。ただ、あなたが何を問題として扱うべきかを見抜く目を育ててくれる。つまり、答えを探す本ではなく、問いを立て直す本であると考える。

      つまるところ、この本の正しい読み方とは、読み終えることを目標にしないことにある。読みながら、自分の違和感を言葉にし、誰のための正しさなのかを問い、当事者の立場にある人が本当はどうありたかったのかを想像し、現状と未来をつなぐ構造を考える。そのプロセスそのものが、この本の目的だ。もし読み終えたときに、自分の現場で問い直す力が少し増えていたなら、それが著者としての望みでもある。


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