正解ではなく問いを共有する──市民・行政・企業をつなぐ共創の技法とリビングラボの現在地

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    複雑化する社会課題を前に、単一の組織やトップダウンの手法だけで解決策を提示することは限界を迎えています。特に「まちづくり」のような、企業・行政・住民という多様なステークホルダーが混在する領域では、いかにして合意形成を図り、共に動く構造をつくるかが問われています。

    今回は、CULUMUが主催するナレッジイベント「くるむとまなぶ」より、逸見貴人氏(サービスデザイナー/カタリスト)を迎えたセッションの内容を再構成。単なる意見調整を超えた、ソーシャルイノベーションを生むための“現場の技法”を紐解きます。

    解決策の提示より、問いの共有を

    行政や企業がまちづくりを進める際、陥りがちなのが「コンサルタントや専門家が正解(ソリューション)を用意し、住民に提供する」という構造です。しかし、逸見氏が紹介したオランダの「Waag Future Lab」の事例は、これとは真逆のアプローチをとっています。

    例えば、大気汚染の対策。通常であれば高性能な測定器を自治体が設置し、データを公表します。しかしWaagでは、市民自身がIoTセンサーデバイスを作り、自分たちの手で計測するというプロセスを採用しました。

    一見、非効率に見えるこのプロセスの本質は、疑問を形成する人格の育成にあります。

    • Before(従来型):与えられたデータを見て行政に対策を要望する受動的な立場。

    • After(共創型):自分で測ることで「なぜここは数値が高いのか?」「自分たちの生活行動が影響しているのでは?」と自ら問いを立てる能動的な立場へ。

    参加したCULUMUのUXデザイナーは、この点について次のように分析します。

    CULUMUデザイナーの視点:

    「コンサルを入れればすぐできることを、あえて自分たちで作る。それによって、市民自身が環境に対する解像度を高め、アクションの必要性を自分事として捉えることができる。『点を解決する』のではなく『問いを生む主体をつくる』ことが、持続可能なまちづくりの要諦である」

    共創において重要なのは、全員の意見を揃えることではなく、全員が同じ「問い」を共有し、自分事として向き合える土壌(オーナーシップ)をデザインすることにあると言えます。

    横展開の罠と、リビングラボのリアル

    欧州で進む「リビングラボ(生活空間を実験の場とする取り組み)」や「ウォーカブルシティ(人中心のまちづくり)」の成功事例は魅力的です。しかし、それをそのまま日本に持ち込んでも機能しないケースが多々あります。

    議論の中で浮き彫りになったのは、「都市の歴史・文脈」と「シチズンシップ(市民意識)」の関係性です。

    成功している都市(メルボルン、パリなど)には、「自分たちの街は自分たちでつくる」という高い市民意識の土壌があります。一方で、トップダウンで整備された仕組みだけを輸入しても、そこに市民の参加意欲は宿りません。

    CULUMUデザイナーの視点:

    「仕組みに常にさらされ続ける生活は、時に外圧となり息苦しさを生むこともある。自らを問いただす前に、内発的な動機付けをいかに自然に持てるか。その『自然体のシチズンシップ』を育むための、都市のナラティブ(物語)や歴史理解が不可欠である」

    これは、新規事業や共創プロジェクトにも通じる課題です。成功モデルの導入だけでは現場は動きません。その土地、その組織に眠る文脈を読み解き、参加者が「自分たちの物語」として語れるように翻訳するプロセスこそが、共創ファシリテーターに求められるスキルです。

    ステークホルダーの拡張:「人間」以外との合意形成

    これからの共創を考える上で無視できないのが、「人間以外のステークホルダー」の存在です。SDGsやサーキュラーエコノミーの文脈において、まちづくりは「人間が便利になること」だけを追求する段階を終えています。

    逸見氏の講義では、「生物との共生」を可視化するデザインについても触れられました。

    CULUMUデザイナーの視点:

    「これまでの『多様性』は、年齢・性別・障害の有無など、人間社会の中に閉じたものでした。しかし、地球環境や他の生物からの恩恵なしに人間社会は成り立ちません。目に見えない生態系を可視化し、それらを含めた全体との合意形成を図る視点が必要です」

    例えば、あえて雑草を残す、鳥の動線を都市計画に入れる。これらは一見無駄に見えますが、都市のレジリエンス(回復力)を高めます。「人間中心設計(HCD)」から、「地球中心設計(Planet-centric Design)」への視座の転換。この視点を持つことで、共創のパートナーは飛躍的に広がり、より強靭な社会システムを描くことが可能になります。


    Guest Profile:逸見 貴人さん(サービスデザイナー/カタリスト) 

    建設業に携わった後、デンマークに留学。帰国後に広告代理店、テック系スタートアップを経て2023年よりNTTデータに入社。サービスデザイナーとしてまちづくりに関わる一方、多様な業界での経験を活かし「カタリスト」としてNTTが持つ多様なアセットを繋ぎ合わせ、企業課題の解決、新たなサービス創出のサポートを行う。

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