良かれと思った解決策がなぜ反発を生むのか?「ケア」と「仕組み」のジレンマを解く
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社会課題の解決や新規事業の開発において、「ユーザーのために(Design for)」考え抜かれた解決策が、現場では使われなかったり、予期せぬ反発を招いたりすることがあります。なぜ、専門家や企業が良かれと思って作ったシステムが、当事者の自由を奪い、新たな障壁となってしまうのでしょうか。
その原因は、デザインが持つ本質的な性質である両義性と、提供者側が陥りやすい過剰な仕組み化への依存にあります。
今回は、CULUMUが主催するナレッジイベント「くるむとまなぶ」より、デザイン研究者・上平崇仁教授(専修大学)を迎えたセッションの内容を再構成。著書『コ・デザイン―デザインすることをみんなの手に』でも語られる共創の本質的な意義と、持続可能な社会実装のために不可欠な余白の設計論について紐解きます。
デザインは「治療薬」であると同時に「毒」にもなる
共創の現場において、私たちがまず直視しなければならないのは、「デザインの両義性」という概念です。
ある課題を解決するためのプロダクトやサービス(治療薬)は、別の視点や時間軸で見れば、新たな問題を引き起こす要因(毒)になり得ます。例えば、生活を便利にするプラスチック製品が環境汚染の原因となったり、効率的な業務システムがそこで働く人の思考力を奪ったりするように。
特定のステークホルダー(例えば企業や行政)だけで完結したデザインは、この「毒」の側面を見落としがちです。だからこそ、多様な立場の人々を巻き込む「共創」が必要となります。それは単にアイデアを出し合うためではなく、自分たちの解決策が孕む副作用(毒)を早期に発見し、社会的な摩擦を最小化するためのリスクマネジメントでもあるのです。
仕組みとケアの対立をどう乗り越えるか
上平氏は、社会実装における重要な対立軸として「仕組み(Mechanism)」と「ケア(Care)」の関係性を挙げています。
仕組み:再現性があり、効率的。行政や企業が好み、提供したがるもの。「誰でも同じ結果が出る」ように標準化されたシステム。
ケア:個別の文脈に依存し、人間的。その場のアドリブや配慮。「その人・その時」にしか発生しない一度きりの対応。
行政や大企業は、公平性と効率を担保するために、すべてを「仕組み」で解決しようとする傾向があります。しかし、ガチガチに固められた仕組みは、現場の人間から自分で工夫する余地を奪います。結果として、当事者意識(オーナーシップ)が失われ、形骸化したサービスだけが残る。これが、多くのプロジェクトが失敗する構造的な要因です。
CULUMUデザイナーの視点:意図的な「余白」が合意を支える
セッションに参加したCULUMUのデザイナー・リサーチャーからは、この理論を実際のプロジェクトに落とし込む際の重要なインサイトが挙げられました。
CULUMUデザイナーの視点:
「私たちはUI/UXデザインにおいて、ユーザーが迷わないよう『完璧な導線(仕組み)』を作ろうとしがちです。しかし、社会課題の文脈では、あえて『ユーザーが手を加えられる余白』を残すことが重要だと気付かされました。全てをシステムで自動化するのではなく、人の手による『気づかい(ケア)』や『アドリブ』が入り込む隙間を設計に残す。そうすることで、使い手が『これは自分たちのための道具だ』と感じるオーナーシップが生まれ、結果として長く使われるサービスとして定着(合意形成)していくのだと思います」
「完璧な完成品」を提供するのではなく、現場の人々が使いながら完成させていく「未完成なプラットフォーム」を提供する。この発想の転換(Design forからDesign with/byへ)こそが、共創プロジェクトを成功させる鍵となります。
人は作ることを通じて変容する
共創の真の価値は、優れたアウトプットを作ることだけではありません。上平氏が提唱する「存在論的デザイン(Ontological Design)」の視点に基づけば、「人は道具を作ることで、道具によって作られる」という相互作用があります。
プロジェクトに参加し、議論し、共に手を動かすプロセスそのものが、参加者の意識を変え、コミュニティのあり方を変容させていく。これこそが共創の本質です。
「意見を吸い上げる」だけのリサーチから脱却し、「共に悩み、共に変容する」ためのプロセスをどう設計するか。それこそが、複雑な利害関係の中で合意を形成し、誰にとっても生きやすい社会を実現するための最初の一歩となるはずです。
Guest Profile:上平 崇仁さん(デザイン研究者 / 専修大学教授)

鹿児島県阿久根市生まれ。1997年筑波大学大学院芸術研究科デザイン専攻修了。グラフィックデザイナー、東京工芸大学芸術学部助手、コペンハーゲンIT大学インタラクションデザイン・リサーチグループ客員研究員等を経て、現在、専修大学ネットワーク情報学部教授。2000年の草創期から情報デザインの研究や実務に取り組み、情報教育界における先導者として活動する。近年は社会性や当事者性への視点を強め、デザイナーだけでは手に負えない複雑/厄介な問題に取り組むためのコ・デザインの仕組みづくりや、人類学の視点を取り入れた自律的なデザイン理論について研究している。
日本デザイン学会理事、大阪大学エスノグラフィラボ招聘研究員、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所フェロー、㈱ACTANTデザインパートナーとしても活動。
著書に「情報デザインの教室」(丸善出版/共著)、「コ・デザイン―デザインすることをみんなの手に」(NTT出版/単著)など。
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