場をつくるだけでは、共創は生まれない。 LiSHが「街全体を実験場」に変えるリアルな関係性のつくり方

      「この会社と、このスタートアップを引き合わせたら、何かが起きるかもしれない」

      そんな仮説を持ちながら、日々、会員企業の話を聞く人たちがいる。

      大企業には、既存事業のなかで解決できていない課題がある。長年の研究開発によって蓄積してきた技術や設備もある。スタートアップには、新しい技術やプロダクトがある。一方で、実際の社会で試す場所や、事業を一段進めるために足りない知見がある。

      だからといって、両者を単純に引き合わせれば必ず「共創」が生まれるわけではない。

      互いの強みを理解し、まだ言葉になっていない課題や価値を見つけ、必要であれば実証実験まで伴走する。

      TAKANAWA GATEWAY CITYにあるビジネス創造施設「LiSH」が目指しているのは、そのような関係を継続的に生み出すことである。

      LiSHには、スタートアップ、大企業の新規事業部門、研究開発部門など、約200の企業・組織が参画している。彼らが使えるのは、LiSHのオフィスやイベントスペースだけではない。住宅、商業施設、病院、保育園、緑地、さらには街の地下にある発電施設まで、高輪ゲートウェイシティそのものが実証のフィールドになり得る。

      街のコンセプトは、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」。

      その実験場で、アイデアを実際の社会へ接続するための「人のインフラ」として機能するのがLiSHである。

      小西 政弘(こにし・まさひろ)

      株式会社ジェイアール東日本企画
      ブランド・イノベーション局第二部

      福井県出身。過去、大丸有ワーカーの横断コミュニティ形成業務に従事。丸の内ワーカーのアイデアを地方課題とマッチングさせて現地で実践する事業を中心に手掛ける。2025年~現職。ジェイアール東日本企画にて高輪ゲートウェイシティ「LiSH」の開業から参画。街全体を実証フィールドとする「LiSH実証実験チャレンジプログラム」のほか、平時より会員コネクションを強化し、コミュニティ形成イベント運営を進める。

      10ヘクタールの街を「100年先の心豊かなくらし」を目指す場所にする

      高輪ゲートウェイシティは、もともと鉄道の車両基地として使われていた土地を再開発して生まれた。

      機能をほかの場所へ移したことで生まれた約10ヘクタールの土地を、JR東日本が一体的にまちづくりしている。

      ――LiSHは、なぜこの街につくられたのでしょうか。

      小西さん:TAKANAWA GATEWAY CITYは、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」をコンセプトにしています。

      実験場というからには、多様なプレイヤーがアイデアやソリューションを持ち寄り、街のいろいろな場所でトライしてほしい。

      そのために、建物や街というハードだけではなく、そこで実験をする人や組織をどう育んでいくか。そのソフトの部分を担うためにつくられたのがLiSHです。

      LiSHには、現在の日本や世界が抱える社会課題に対して、未来の答えを提示できるようなソリューションを生み出したいという志を持つ方々が集まっています。

      いきなり世の中へリリースするのではなく、まずこの街を使って試してみる。そうした人たちの共創拠点です。

      「実験場」という言葉は、単に新しい商品を試せる場所という意味ではない。

      街では、実際に人が暮らし、働き、学び、買い物をし、医療を受ける。つまり、生活に関わる複数の機能を横断して、新しいサービスや技術を試すことができる。

      研究室や実験施設だけでは分からない、実生活のなかでの使われ方を確認できることが、街を実証フィールドにする価値である。

      公園、住宅、病院、学校。街そのものを使い倒す

      LiSHの会員には、スタートアップや大企業の新規事業部門が多い。

      彼らに共通するニーズの一つが、「世の中へ出す前に、一度試したい」というものだ。

      小西さん:スタートアップや新規事業に携わっている方は、商品やサービスをローンチする前に、実際に試せる場所を求めています。

      高輪ゲートウェイシティには、商業施設、住宅、病院など、街と聞いて想像するような機能があります。

      消費者へサービスを届ける上で、非常に実験しがいのある街だと思っています。

      LiSHでは、単に「街があります」と紹介するだけではなく、街のアセットや知見を会員の方に提供し、実証実験やアイデアのブラッシュアップにつなげています。

      例えば、一般には公開されていない街の地下施設を会員向けに案内する。住宅であれば、LiSH会員が生み出した商品やサービスを実際の居住空間へ導入し、住民が生活のなかで使い、フィードバックを返す。

      スタートアップの方々や新規事業の方々はとてもバイタリティがあるので、こちらがそういう“補助線”を少しでも引けば、あとは邁進してアクセルをベタ踏みで進んでいただくような状況が多く見られています。

      ――“補助線”とは、実証実験のフィールドとしての街のオリエンテーションや、他の会員同士のネットワーキングをサポートされているということなんですね。

      小西さん:会員になっただけでは、この街のことを十分には理解できません。だから一般には公開していない場所を見ていただいたり、実際の住宅空間を使って実証実験をしたりします。

      「未来の住宅を考えるなら、LiSHにいる誰の知見を掛け合わせられるだろう」と考えるためのヒントを提供しています。

      私たちが少し補助線を引くと、スタートアップや新規事業の方々は本当にバイタリティがあるので、そこから一気にアクセルを踏んで進んでいくことが多いです。

      実証実験の場所を紹介するだけではない。

      「この場所なら、この課題を試せるかもしれない」「この企業と組めば、別の仮説を検証できるかもしれない」と、事業の可能性を見つけるための補助線を引く。

      LiSHの役割は、場所と人をつなぐところにある。

      「これをつくってください」は、共創ではない

      「共創」という言葉は、ビジネスの現場で広く使われるようになった。しかし、複数の会社が一緒に仕事をすれば、それだけで共創と言えるのだろうか。

      LiSHでは、その境界を比較的明確に捉えている。

      ――LiSHにとって、共創とは何でしょうか。

      小西さん:まだ世の中に顕在化していない課題や価値を、共につくることだと考えています。

      例えば、「こういう仕様で、この素材を使って、この製品をつくってください」とお願いするのであれば、それは発注者と受託者の関係です。業務委託であって、共創とは呼ばない。

      まだ解決されていない課題や、誰も価値だと認識していないものに対して、お互いの強みを持ち寄り、価値を顕在化させる。課題を解決する、あるいは新しい価値を大きくする。その動きが「共に創る」ということだと思っています。

      共創には、最初から完成した仕様書がない。

      誰が何をつくるかだけでなく、そもそも何をつくるべきか、何が価値になるのかも、対話しながら定めていく。

      LiSHで行われるマッチングは、発注先を紹介するものではない。「この二社が持つものを掛け合わせると、まだ誰も定義していない課題を解けるのではないか」という仮説をつくることから始まる。

      マッチングとは、名刺交換を増やすことではない

      LiSHには、会員一人ひとりを担当する「ブリッジコミュニケーター」や、コミュニティ全体の関係づくりを担う「コミュニティマネージャー」がいる。

      彼らは、日常的な会話から、企業の課題や技術を把握していく。

      小西さん:大企業からは、「いま何に困っているのか」「どのようなテーマを探しているのか」を聞きます。スタートアップからは、「どのような技術やソリューションを持っているのか」を聞きます。

      その情報を持ちながら、常に「ここはつながるかもしれない」と探しています。

      もちろん逆もあります。スタートアップが困っていて、大企業に「うちならできます」「その技術を持っています」と言っていただく場合もあります。

      大企業は、長年の研究開発によって、多くの設備、技術、専門家を抱えている。スタートアップが、あと一つの実験さえできれば技術的な壁を越えられるという状況で、大企業にその設備があることもある。

      小西さん:スタートアップが、「ここを突破できれば新商品がつくれるのですが、この知見を持つ人はいませんか」と話したら、大企業側から「その機械、うちにあるよ」と返ってきたこともあります。

      設備を無償で貸す場合もありますし、その後、出資のような関係になる場合もあります。

      共創は、最初から契約形態が決まっているわけではない。

      機械を貸すことから始まるかもしれない。共同研究かもしれない。出資かもしれない。

      最初に必要なのは、互いの資産と困りごとが見えることだ。

      さらに大事なのは明確にマッチングが予想される企業同士はもちろん、言葉に出てない、顕在化されてない出会いもあえてぶつけること。
      黒のマフラー欲しいなと思っている方に、黒を提案するのはもちろんですが、「あなたなら緑色も似合うんじゃないですか?」と一度相手に想像させる。そんな出会いも作っています。

      出会わせて終わらず、プロジェクトの「その後」にも入る共創の現場感

      ビジネスマッチングの場では、企業同士を紹介し、その後は当事者同士に任せる場合も多い。しかし、LiSHでは必要に応じて、プロジェクトが進み始めた後も関係に入る。

      ――マッチングした後は、どこまで伴走するのでしょうか。

      小西さん:「こういう企業ありませんか」と相談を受けて、おつなぎすることは基本的な動きとしてあります。

      ただ、紹介して「あとは二社でお願いします」ということは、ほとんどありません。

      二社のコミュニケーションが円滑に進むようにファシリテーションをしたり、次回までに「こちらはこれを準備する」「こちら側はここまで進める」と、進行管理に近い役割まで伴走することもあります。

      新規事業や研究開発では、企業文化や意思決定速度が大きく異なる。

      スタートアップは翌週には試したいと考えていても、大企業では社内承認に数か月かかることもある。同じ言葉を使っていても、「実証実験」「共同開発」「事業化」の意味が異なる場合もある。

      第三者が間に入り、双方の前提を理解しながら交通整理することは、単なる連絡係以上の役割を持つ。場合によっては、秘密保持契約を結び、秘匿性の高い情報も扱う。

      共創を起こすとは、人と人を出会わせるだけではなく、異なる組織が一緒に動ける状態をつくることである。

      共創拠点のKPIを「実証実験の数」で測る

      共創やコミュニティは、ともすると成果が曖昧になりやすい。イベント参加者数、会員数、スペース稼働率などを追えば、施設としての賑わいは測れる。

      しかし、それだけでは、事業創造の場として何が生まれたのかは分からない。

      LiSHが重視している指標の一つが、実証実験の件数である。

      小西さん:LiSHは、「実証実験型のビジネス創造拠点」を掲げています。そのため、実証実験の件数は非常に重要な指標です。

      2025年は、開業からの1年間で60件以上の実証実験を行いました。ビジネス創造拠点は全国にありますが、LiSHの特徴は、実際に試すところまで持っていくことです。

      だからこそ、実証実験数にはこだわっています。

      構想を語った数ではない。イベントで名刺交換した数でもない。実際の場所へ技術やサービスを持ち込み、試した数を追う。

      そのKPIには、LiSHが「交流施設」ではなく、「社会実装へ進むための場所」であるという思想が表れている。

      ただし、件数を増やすこと自体が最終目的ではない。その先にある、事業の成長へつながるかどうかが重要になる。

      有名経営者の講演より、「隣で何をしている人なのか」を知りたい

      LiSHの運営を始めてから、予想と違ったこともあった。

      小西さん:開業から時間が経ち、会員企業数の増加もある程度落ち着いてきました。それでも、「もっと新しい人とつながりたい」「もっと顔が見える関係をつくりたい」という声がなくなりません。

      最初は、半年から1年経ったら、有名な投資家や先輩起業家を招いたトークセッションが必要になると思っていました。

      でも会員さんからは、「それより、LiSHにいる人をもっと知りたい」という声が多かったんです。

      フォロワーが何万人もいる有名経営者より、隣で頑張っているスタートアップや新規事業担当者の話を聞きたい。そこは、コミュニティを運営する立場として、とてもありがたい発見でした。

      LiSHにいるからこそ得られる価値は、オンラインでも聞ける有名人の知識ではない。

      同じ場所で働いているからこそ出会える人との関係にある。

      その気づきから、現在は座学型のイベントを減らし、会員同士の交流や、互いの事業を知る機会へ重点を移している。

      リアルなプロダクトには、リアルな街と関係性が必要になる

      LiSHに集まる企業には実物のプロダクトを扱う企業も多く、そうした企業にとって街というリアルな環境があることは大きい。

      小西さん:この街の最大の魅力は、リアルであることだと思っています。だからこそ、LiSHにはリアルなプロダクトを持つ人が集まりやすい。キノコ由来の素材から革製品をつくる方や、米を原料にプラスチック代替製品をつくる方もいる。こうした技術は、自然環境や住宅、医療など、現実の場で試して初めて価値が分かる技術であると言えます。

      その点において、リアルな街と、リアルなプロダクトの相性が非常にいいんです。

      だからこそ、私たちも最終的には、リアルな関係性やコミュニケーションを大切にしたいと思っています。

      人が同じ場所に集まることには価値がある。予定していなかった会話が起きる。実物を触ってもらえる。街を一緒に歩きながら、「ここで使えないか」と話せる。

      共創の種には、計画された会議の外側で生まれるものも多いはずだ。

      「運営者と会員の距離が開く施設」にはなりたくない

      ――LiSHが今後、「こうはなりたくない」と思う姿はありますか。

      小西さん:LiSHのよいところは、ものすごく現場主義なところだと思っています。

      こういう施設では、オーナーや運営者が少人数で、週に数回だけ現場へ来るようなケースもあります。

      LiSHでは、JR東日本をはじめ複数の運営事業者が関わっていますが、多くのメンバーが日常的にLiSHにいます。一人、二人ではなく、十人、二十人単位で運営側が現場にいて、会員さんと綿密にコミュニケーションを取っています。ここまでウェットな関係をつくるインキュベーション施設は、かなり稀有なケースなのではないかと思っています。

      だから、会員さんと運営側の距離が開いてしまう施設にはしたくありません。

      運営者が施設の裏側に下がり、会員は会員だけで活動する。効率だけを考えれば、その方が運営コストは下がるかもしれない。

      しかし、LiSHが目指している価値は、スペースの管理にはない。会員の課題や変化に日常的に気づき、「この人と会わせたら面白いかもしれない」と考え続ける。

      そのためには、運営者自身が現場にいる必要がある。

      会員の成功が、LiSHの価値として返ってくると信じて

      最終的には、LiSHで生まれた事業が成長し、経済的な価値へとつながることが求められる。

      ――それでは今度は、今後LiSHはどのような場所でありたいかを、お聞かせください。

      小西さん:これから目指したいことは、現在やっていることの延長線を、さらに磨いていくことです。

      世界一の実証実験都市の拠点にしていきたい。2025年度は60件以上の実証実験がありましたが、第一にあるのは会員さんの成長です。

      その結果として、会員の誰かがIPOする、あるいは大型のM&Aにつながるなど、経済指標のなかで分かりやすい価値として還元されたら、この施設を運営する意味が見えると思います。社会的インパクトはもちろん大切ですが、その大きな指標として経済的な目標は大切にしたいです。

      共創を、良い話で終わらせない。実証実験を行い、事業になり、企業が成長し、投資やM&A、IPOといった経済的な成果へつながる。その循環が生まれて初めて、ビジネス創造拠点としての価値も証明される。

      共創を生むのは、人と機会をつなぐコミュニティ

      コワーキングスペースには、机がある。イベントスペースには、人を集められる広さがある。インキュベーション施設には、スタートアップや大企業が集まる。

      しかし、それだけでは共創は生まれない。

      LiSHが特徴的なのは、場所のなかに、人の関係をつくる仕組みを組み込んでいることである。

      ブリッジコミュニケーターが会員の話を聞く。コミュニティマネージャーが、人と人が自然に出会える機会をつくる。必要なら実証フィールドを紹介し、相手企業をつなぎ、プロジェクト開始後もファシリテーションする。街で試した結果を、次の実証や事業へ返す。その循環が続くことで、LiSHは単なる「場所」から、「事業が動く環境」へ変わっていく。

      そして興味深いのは、運営側が一方的にその仕組みを完成させているわけではないことだ。

      当初は、有名な経営者の講演が必要になると考えていた。しかし、会員は「隣にいる人を知りたい」と言った。

      運営は、その声を受けてコミュニティの設計を変えた。

      会員にサービスを提供する側と、提供される側が固定されず、施設自体も利用者の反応によって更新されている。これもまた、一つの共創と言えるのかもしれない。

      「100年先の心豊かなくらし」を、今の時点で正確に予測することはできない。だから、最初から100年後の正解をつくろうとはしない。

      必要なのは、未来を知っている人ではなく、未知の課題について一緒に考えられる人と、何度でも実験できる共創の環境である。

      「困っている」「助けてほしい」と言える距離に、誰かがいるか。「それなら一緒にやれるかもしれない」と返してくれる人がいるか。そして、その会話を実際の街で試せるか。

      LiSHがつくろうとしているのは、このような機会が100年先も連続する状態なのだ。

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