インクルーシブ遊具を置けば、インクルーシブな公園になるのか?エイト日本技術開発が考える、公共インフラのつくり方

      「インクルーシブな公園にしたいので、どの遊具を置けばよいでしょうか」

      公共空間の計画に携わっていると、そのような問いを受けることがある。

      近年は、身体の状態や年齢、障害の有無にかかわらず遊べることを掲げた「インクルーシブ遊具」が、様々なメーカーから提供されている。複数の遊具を選び、公園へ設置すれば、提案書には「インクルーシブな公園」と記載できるかもしれない。

      しかし、それだけで本当にインクルーシブな公園になったと言えるのだろうか。

      一つの製品を導入するだけでは、答えられない問いが残る。

      道路、橋、公園、学校、駅前広場、防災施設など、多様な公共インフラの調査、計画、設計、維持管理を担ってきたエイト日本技術開発は、建設コンサルタントの業務へインクルーシブデザインを取り入れられないか、検討を始めている。

      その第一歩として実施されたのが、CULUMUによるインクルーシブデザインワークショップだった。ワークショップに参加したのは、建築だけではない。都市計画、環境・エネルギー、地質・防災、橋梁など、異なる専門分野の社員が集まった。

      複雑化する社会課題に、一つの専門分野だけでは対応できない

      エイト日本技術開発は、70年以上にわたり公共インフラに関わってきた総合建設コンサルタントである。

      道路、橋、公園などの調査や計画、設計だけでなく、完成後の点検や維持管理まで、公共インフラの幅広い工程を担っている。

      同社が掲げるミッションは、「価値ある環境を未来につなぐ」。

      ここでいう環境とは、自然環境だけではない。人が暮らし、移動し、働き、学ぶための社会基盤を含む、広い意味での環境である。

      ――インクルーシブデザインに関心を持った背景を教えてください。

      堀部さん:最初のきっかけは、CULUMUさんが開催していた、都市やまちづくりにインクルーシブデザインを取り入れることをテーマにしたウェビナーでした。

      当日は別の予定があり参加できなかったのですが、インクルーシブデザインという言葉自体は以前から耳にしていました。まちづくりには多様な人が関わるため、新しい考え方として学び、業務へ取り入れられないかという個人的な関心がありました。

      その後、CULUMUさんからご連絡をいただき、面談する機会がありました。

      CULUMUさんは建築だけでなく、サービスや運用などのソフト面にも取り組んでいます。私たちが行政分野で事業を広げるときに、協働できる可能性があるのではないかという話になりました。

      今回のワークショップには、建設コンサルタントの業務にインクルーシブデザインの考え方や手法を取り入れられるのか、他社との差別化やプロポーザルの提案力向上につながるのか、その感触を確かめる目的もありました。

      社会課題が比較的明確であれば、道路は道路、建築は建築というように、一つの専門分野で対応できる場合もある。しかし、人口減少、地域の衰退、防災、福祉、教育、多様な住民の参加といった課題は、複数の領域が絡み合っている。

      堀部さん:当社は、公共インフラであれば幅広く対応する総合建設コンサルタントとして事業を続けてきました。

      一方、近年は社会課題が多様化、複雑化しています。建設コンサルタントだけでは対応しきれない課題も増えていますし、建築だけ、都市計画だけでは解けない問題もあります。そもそも、土木だけの問題ではないことも多いのです。

      会社としても、異業種、異分野のパートナーと一緒に社会課題を解決する方針を進めています。その共創の枠組みの中で、CULUMUさんとインクルーシブデザインに取り組めないかと考えました。

      専門分野を深めることと、専門領域の外にいる人と協働すること。複雑化した社会課題に向き合うには、その両方が必要になる。

      空き家を建物単体ではなく、地域全体の価値として捉え直す

      堀部さんの専門分野は、都市計画とまちづくりである。

      現在、関心を寄せているテーマの一つに、人口減少が進む地域の空き家や空き地がある。かつて栄えた地域であっても、人口が減り、担い手が不足し、古民家や空き地、空き店舗が使われないまま残っていることがある。

      一つの建物を改修するだけでは、地域全体の活力は戻りにくい。そこで、複数の建物、公共空間、地域の産業や文化を一体として捉え、エリア全体の価値をつくり直す「エリアリノベーション」や「エリアマネジメント」の考え方が必要になる。

      堀部さん:全国で空き家が増えるなか、以前は市街地として栄えていたものの、ほとんど手が付けられず、行政による取り組みも十分ではない地域があります。人口が減り、担い手がいなくなり、空き家や空き地が増えている。一方で、昔ながらの古民家が残っていたり、自然や文化などの貴重な資源があったり、活用しきれていない魅力もあります。

      個人的には、非常にもったいないと感じています。

      私たちのノウハウや、社外のパートナーの力を組み合わせて価値を加え、そのエリアの魅力を高められないか。エリアリノベーションやエリアマネジメントの考え方で、現在取り組みを進めています。

      地域の再生では、建築物の保存や改修だけでなく、その場所を誰が使い、どのように関わり、継続的に運営するのかを考える必要がある。これは、インクルーシブデザインが重視する「誰とつくるのか」という問いとも重なる。

      バリアフリーの延長だけでは、インクルーシブには到達しない

      公共施設の設計では、バリアフリーに関する法律や基準が整備されている。

      段差の解消、通路幅、スロープの勾配、トイレの広さなど、一定の数値や仕様が示されているため、設計者は基準への適合を確認できる。

      しかし、合理的配慮やインクルージョンは、同じ方法では扱いにくい。

      利用者の身体、認知、感覚、生活環境によって必要な対応が異なり、一人に有効な環境が別の人には負担となる可能性もある。

      ――建築分野では、合理的配慮やインクルージョンをどのように捉えていますか。

      髙橋さん:建築分野では、バリアフリーは法律で決められているため、「必要だから対応する」という段階には来ています。

      一方、インクルーシブは、バリアフリーの延長だけではないと感じています。別の視点から検討しなければ、到達できない高い目標です。

      都市計画の中で学校をつくる場合、必要な規模や用途を整理するところまでは行います。「合理的配慮が必要である」と記載することはあっても、具体的に何を行うかまで踏み込むことは、これまで十分にはできていませんでした。

      設計者が「合理的配慮を行う」と書くだけでは、空間は変わらない。

      誰がどのような場面で困っているのか。建築によって解決できるのか。運用や人の支援が必要なのか。複数の方法をどう組み合わせるのか。その具体化が求められる。

      髙橋さん:今後のプロポーザルでは、合理的配慮やインクルーシブな視点が、さらに求められていくと考えています。

      私たちは、提案を評価する側の基準や仕様書をつくる業務にも関わります。何をどのように評価するか、基準として具体的な数値を示すのかという段階まで扱うため、現場としては非常にハードルが高い。

      それでも、実務上は取り組まなければならないテーマになっています。

      バリアフリーは、最低限守るべき条件を数値化しやすい。しかし、インクルーシブな環境の評価を、設備の数や寸法だけで決めることは難しい。

      誰が計画へ参加したのか。どのような困難が把握されたか。異なるニーズの衝突をどのように調整したか。完成後に、実際の利用状況を検証する仕組みがあるか。

      評価対象は、成果物だけでなく、つくるプロセスにも広がっていく。

      「インクルーシブな給食時間」を考えたら、答えが出なかった

      ワークショップで髙橋さんのチームが選んだテーマは、「インクルーシブな給食時間」だった。

      一見すると、学校施設の設計や設備によって改善できそうなテーマに見える。しかし、実際に子どもの行動や感覚を想像すると、問題は急速に複雑になった。

      髙橋さん:ワークショップで考え始めると、困りごとが膨大にあることに気づきました。

      音一つを取っても、その子に何ができるのかを考えると、食器の音を立てない方がよいのか、配膳する音も負担になるのかと、次々に問題が出てきます。

      最初の「行動の洗い出し」や「多様性の認識」の段階で、かなりつまずきました。

      一方で、刺激が負担になったときに逃げられる場所をつくれないかという話も出ました。ただ、具体案まで到達することはできませんでした。

      解決案まで到達できなかったことは、ワークショップの失敗ではない。「給食室や食堂の設計だけでは解決できない」ということに気づくこと自体が、最初の成果だった。

      食器の素材を変える。吸音性を高める。座席を選べるようにする。静かな場所へ移動できるようにする。給食を食べる時間をずらす。周囲の子どもや教職員が、感覚過敏について理解する。

      ハードとソフトの複数の対応が考えられる。

      髙橋さん:先生方からは、「情緒面に課題のある子どもがいる」「身体面に課題のある子どもがいる」と説明されることがあります。ただ、「情緒」とは具体的に何を指すのかが、十分に理解できていませんでした。

      今回のワークショップは、そうした言葉の先にある具体的な経験を考えるきっかけになりました。建築の設計だけを行えばよいわけではないと、考え始めることができたんですね。

      「情緒」「発達」「合理的配慮」といった言葉を仕様書に記載してあったとしても、その人が体験している困難は、書面からは見えてこないのですから。

      抽象的な属性を、給食を運ぶ、席へ座る、食器を使う、人の声を聞くといった具体的な行動へ分解することで、初めて設計や運用の検討が始まる。

      ペルソナカードが、抽象的なダイバーシティを具体的な個人に変える

      ワークショップでは、異なる身体特性、感覚特性、生活背景を持つ人物を想定したペルソナカードが用いられた。

      今回のために用意されたカードでは、従来のバリアフリー設計で想定されやすい身体障害だけでなく、感覚、認知、精神面など、外側からは分かりにくい困難を意識した。

      桑原(CULUMU):事前に堀部さんと相談し、一般的なバリアフリーの範囲だけで考えられるペルソナは、あえて多くしませんでした。「情緒」や「精神的な部分」など、想像を広げるきっかけになるカードを用意しました。

      それによって、これまで考えてこなかった方向へ思考が広がればよいと考えていました。

      堀部さんのチームが扱ったテーマは、「インクルーシブな休み時間」だった。

      休み時間は、授業のように全員が同じ行動をする時間ではない。友達と遊ぶ、身体を動かす、一人で休む、次の授業の準備をするなど、様々な過ごし方がある。

      ペルソナカードを見ながら、「この人はどの場面で困るのか」を考えることで、議論は具体的になった。

      堀部さん:私たちだけで議論すると、どうしてもハードの話へ寄りがちです。「情緒」や感覚の問題は、運用やプログラムなど、ソフト面の話にも関係します。

      ペルソナカードには、人物像と具体的な場面が記載されていました。それを最初に全員で見ることで、共通のイメージを持ち、議論へ入りやすくなりました。

      「多様な利用者に配慮する」と言われても、誰を想定すればよいか分からないんですよね。ただ、一人の具体的な状況から考え始めれば、必要な環境や支援を想像できます。同時に、別のペルソナを重ねることで、一つの解決策では足りないことにも気づけるのだと知りました。

      インクルーシブデザインとは、『すべての人に一つの正解を当てはめるのではなく、どうすればよりよい環境になるかを考え続けること』

      新卒で入社した中村さんは、今回が初めて参加するワークショップだった。

      ワークショップではペルソナカードを使い、「こういう人がいたらどうすればよいか」を、グループで一つのケースについて議論しました。

      大学でインクルーシブ教育を研究している知人がいたため、言葉や概念には親しみがあった。しかし、複数のペルソナを同時に考えたとき、最初は議論の目的が分からなくなったという。

      中村さん:具体的な内容は知らないままだったのですが、「面白そうだ」と思ってワークショップに参加しました。

      ワークショップが始まり、一つのカードについて、この人には何が必要なのかを一生懸命考えていました。しかし、カードには別の人もいます。一人にとって好ましい環境が、別の人には好ましくない環境になる可能性がある。それなら、この議論は何のためにあるのだろうと、最初は考えていました。

      そこから話し合いを重ね、『どうすればよりよい環境になるかを考え続けること』が、インクルーシブデザインなのではないかと気づきました。

      例えば、刺激を減らすために空間を細かく区切ることが、落ち着きにつながる人もいる。一方、先の見通しを持つことが重要な人にとっては、閉じた空間が不安を強める可能性がある。

      車椅子使用者が移動しやすいように段差をなくすことが、視覚障害者にとっては歩道と車道の境界を分かりにくくする場合もある。

      異なるニーズは、単純に足し合わせられない。だからこそ、インクルーシブデザインでは、対立が起きない唯一の正解を探すのではなく、選択肢を増やし、優先順位や調整方法を話し合う必要がある。

      異なる専門分野が集まることで、ハードとソフトがつながる

      今回のワークショップには、建築、都市計画、環境・エネルギー、地質・防災、橋梁など、多様な分野の社員が参加した。

      同じペルソナや場面を見ても、専門領域によって着目する点は異なる。

      空間の配置や動線を考える人がいる。設備や構造を考える人がいる。運用や人によるサポートを考える人もいる。

      堀部さん:異なる分野のメンバーが参加すると、出てくる視点が違います。

      空間や動線などのハード面を考える人もいれば、仕組みやサポート方法などのソフト面を考える人もいます。それぞれを組み合わせることで、困っている本人だけでなく、ほかの人にも役立つ解決策へつながる可能性があります。

      座学で紹介されたカーブカット効果を、議論のプロセスを通じて実感することができました。

      カーブカット効果とは、特定の人の困難を解決するためにつくられた工夫が、結果としてより多くの人に役立つことを指す。

      歩道の段差を解消するカーブカットは、車椅子使用者だけでなく、ベビーカー、台車、大きな荷物を持つ人にも使いやすい。

      ただし、特定の設備を導入すれば、自動的にカーブカット効果が生まれるわけではない。

      誰のどのような困難を起点にするのか。その困難を深く理解した上で、ほかの利用場面へ価値を広げられるかを考える必要がある。

      AIがアイデアを出せても、共通の理解と納得はつくれない

      現在は、生成AIへ条件を入力すれば、様々な利用者を想定した設備やサービスのアイデアを短時間で得られる。しかし、アイデアを列挙することと、複数の関係者が納得して一つの計画を選ぶことは異なる。

      ワークショップでは、他者の発言によって、自分の前提に気づく。

      最初は理解できなかった意見も、具体的な場面を話し合う中で、その必要性が見えてくる。自分の専門分野だけでは考えられなかった案が、別の専門家との対話によって生まれる。議論の過程を共有することで、最終案は「外部から与えられた正解」ではなく、「自分たちでつくった案」になる。

      公共インフラの計画では、この納得の形成が重要である。

      市民、行政、設計者、専門家、運営者など、異なる責任と利害を持つ人が関わる。優れた案を提示するだけでは、実行へ移せない場合があるからだ。

      堀部さん:座学では、インクルーシブデザインは共創のデザイン手法だと説明されました。

      ワークショップで異なる専門性を持つメンバーが視点を持ち寄り、よりよい解決策を話し合ったことで、それが共創なのだと実感できました。

      公共インフラには、市民、発注者、大学の先生など、多くのステークホルダーが関わります。計画や設計だけでなく、市民参加や合意形成においても、インクルーシブデザインは活用できる概念だと感じました。

      幼稚園では、障害のある子もない子も自然に同じ場所にいた

      中村さんがインクルーシブという考え方を身近に感じていた背景には、幼少期の経験がある。通っていた幼稚園では、身体や精神面に障害のある子どもも、ほかの子どもと同じ空間で過ごしていた。

      それが特別な教育方針として説明されていたわけではない。

      子どもたちは公園へ出かけ、ザリガニを捕り、同じ場所で遊んでいた。困っている子どもがいれば、保育者や周囲の園児が、どうすれば一緒に過ごせるかを自然に考えていた。

      中村さん:小学校へ進学したとき、障害の有無によって特別支援学級などに分かれることに、「なぜ分かれるのだろう」と疑問を感じた記憶があります。

      幼稚園では、同じ空間にいることが当たり前でした。

      建築的に、インクルーシブな施設として特別につくられていたわけではありません。普通のワンフロアの中で、保育者や園児が助け合い、その子が過ごしやすい環境を考えていました。

      この経験から、中村さんは、「インクルーシブ」という言葉が先行し、目的化することに違和感を持っている。

      中村さん:「インクルーシブだから、この機能を設置する」というように、言葉だけで物事が決まっていくことには危うさを感じます。人と人が助け合うことが当たり前だという感覚が、大切なのではないでしょうか。

      建築やソフト面の仕組みは、そのための補助だと思っています。

      インクルーシブな空間があっても、使う人(利用者や運営者)が、その目的を理解して適切に使えるかどうかが大事だと感じました。

      空間と人のどちらか一方ではなく、両者を組み合わせる必要がある。

      100点の空間が難しくても、人の力で60点を80点にできる

      髙橋さんは、中村さんの幼稚園での経験から、「すべてを空間だけで解決しなくてもよい」という希望を感じたという。

      髙橋さん:すべての人にとって100点の空間を用意することは、現実的には難しいと思います。しかし、空間としては60点であっても、人の力によって80点まで高められると提案できれば、それは一つの強みになります。

      学校には、子どもだけでなく、保護者、教職員、地域の人がいます。全員の考えが一つにまとまることは、おそらくありません。

      だからこそ、空間だけで解決しようとせず、人や運用を含めて考えることが重要だと思います。

      合理的配慮は、設計段階で完成するものではない。利用者の状況に応じて、運用の中で調整される。完成後も、使い方を観察し、必要に応じて設備やルールを変えていく必要がある。

      公共施設の設計者が、運営のすべてを担うことはできない。しかし、設計の段階から、運営者が調整しやすい余白を残すことはできる。複数の過ごし方を選べる空間にする。家具を動かせるようにする。静かな場所と交流する場所を用意する。相談や情報提供の仕組みを設計条件に含める。

      ハードとソフトを切り離さず、完成後に人が動ける環境をつくることが求められる。

      「インクルーシブ遊具を置く」が目的になってはいけない

      インクルーシブな公園をつくるとき、設備を導入することは重要である。

      しかし、製品を選んだ時点で、利用者との対話を終えてはいけない。

      堀部さん:各メーカーから、様々なインクルーシブ遊具が提供されています。いろいろな子どもが遊べる公園にするため、それらをいくつか置けばよいと考えがちです。

      しかし、本来は、実際に多様な子どもたちへ「どのような公園にしたいか」「どのような遊び方をしたいか」を聞き、一緒に形にすることがインクルーシブデザインなのだと、今回のワークショップを通じて感じました。

      製品には、設計者が想定した利用方法がある。

      一方、実際の子どもは、遊具メーカーや設計者の想定どおりに遊ぶとは限らない。遊具そのものより、周囲の砂や水に関心を持つ子どももいる。友達が遊んでいる様子を離れた場所から見ることで、参加していると感じる子どももいる。「遊べる」の定義そのものが、一人ひとり異なる。

      どのような場所が必要かを考える最初の段階から、利用する子どもが関わることもまた、当事者参画の在り方である。

      参加者全員の意見を集めるのではなく、見落としてきた声を起点にする

      エイト日本技術開発では、従来から市民参加や利用者ニーズの調査を行ってきた。アンケート、ヒアリング、説明会、ワークショップなどを通じて、地域住民の意見を計画へ反映する。

      しかし、広く意見を募るだけでは、拾いにくい声がある。

      会場まで来られない人。大人数の場では発言しにくい人。設問に用意された選択肢では、自分の経験を表現できない人。多数意見と異なるため、要望を出すことをためらう人。

      堀部さん:これまでも、合意形成や利用者ニーズの調査、ヒアリングは行ってきました。ただ、広く地域住民や利用者を対象とするため、どうしても抜け落ちる声があります。

      インクルーシブデザインでは、これまで見落としていた当事者の声を聞き、一緒につくることが重要です。

      調査、計画、設計、維持管理という業務プロセス全体へ、そうした視点を取り入れられる可能性を感じました。

      インクルーシブデザインは、すべての市民から同じ量の意見を集める方法ではない。従来の計画プロセスでは見えにくかった人を起点に、空間やサービスの前提を問い直す方法である。

      その一人の経験を深く捉えることで、ほかの利用者にも共通する不便や、これまで想定されなかった価値が見えてくる。

      公園、防災、駅前広場へ――公共インフラ全体に視点を広げる

      今回のワークショップでは、教育施設と学校生活をテーマにした。

      しかし、エイト日本技術開発が扱う対象は、建築だけではない。公園、道路、橋、駅前広場、防災施設、地域再生、維持管理など、暮らしを支える多様なインフラに関わっている。

      堀部さん:今回のワークショップは教育施設がテーマでしたが、会社全体としては、公園、防災、駅前広場など、幅広い公共空間やインフラを扱っています。

      総合建設コンサルタントとして、多様な分野の技術者が連携しながら社会課題を解決しているため、インクルーシブデザインとの親和性は高いと感じました。

      単に配慮を追加するのではなく、よりよい空間やサービスを提供するための基本的な視点として、業務へ取り入れることが重要だと思います。

      髙橋さんは現在、平常時は公園として利用し、災害時には防災拠点となる官民連携事業の計画に関わっている。そこでも、「どのインクルーシブ遊具を設置するべきか」という問いが出ているという。

      髙橋さん:担当者の方も、インクルーシブ遊具を設置しただけでは、インクルーシブな公園にはならないと感じています。

      今回のワークショップで得た学びは、実際の提案へつなげられると思います。子ども、保護者、職員、施設利用者、地域住民にとって使いやすいものを提案するため、傾聴する力を身につけたいです。

      当社には、山やトンネル、橋など、幅広い分野の専門家がいます。異なる人の声と専門性を組み合わせれば、様々なことができると思います。

      公園では、日常時と災害時で利用者や行動が変化する場合がある。

      普段は遊び場であっても、災害時には高齢者、障害者、子ども、外国人、観光客など、多様な人が避難する場所になる。平常時の使いやすさだけでなく、非常時の情報提供、移動、休息、プライバシー、医療や介助の必要性まで考える必要がある。

      多様な専門家と当事者が参加するプロセスは、こうした複合的な場面でこそ価値を持つ。

      言葉だけを導入するのではなく、考える姿勢を組織へ残す

      中村さんは、入社して間もないため、今後どの業務を担当するかはまだ分からないという。それでも、合理的配慮やインクルーシブデザインという言葉が業務で使われたとき、機能の導入だけで終わらせない姿勢を持ちたいと話す。

      中村さん:誰かにとって使いやすいものが、別の人には使いにくい場合があります。

      すべてを考えるときりがありません。それでも、目の前の人に対して、自分にはどのような配慮ができるかを考えることが大事だと思います。機能だけでなく、使う人がどのような気持ちで使うかを考えたいです。

      「インクルーシブな建築にするから、この機能を入れる」というように、最初から答えを決めてしまわないようにしたい。言葉や勢いで決めず、全体を冷静に見ながら考えを深めていきたいですね。

      インクルーシブデザインが公共事業の要件として増えれば、形式だけが導入される可能性も高まる。

      当事者参画を行ったことにするため、短時間の意見交換会だけを開催する。インクルーシブと呼ばれる製品を設置し、要件を満たしたと判断する。

      その形骸化を防ぐには、言葉の定義を知るだけでなく、なぜその手法が必要なのかを組織の中で理解し続ける必要がある。

      桑原(CULUMU):プロポーザルを分析すると、合理的配慮やインクルーシブという言葉はたしかに増えています。

      一方、インクルーシブデザインの基本である共創や当事者参画まで実施している事例は、まだ多くありません。これから関心が高まるほど、正しい進め方が伝わらず、形骸化する危険もあります。

      概念を広げるだけでなく、実際のものづくりの中で、適切に実行していきたいと思っています。

      インクルーシブデザインは、建設コンサルタントの業務を横断する基盤になり得る

      公共インフラは、多くの人が利用する。だからこそ、平均的な利用者を設定し、その人が問題なく使える空間を効率的につくることが求められてきた。

      しかし、平均から外れる人を後から例外として扱うだけでは、多様な市民が利用できる社会基盤にはならない。

      エイト日本技術開発が今回のワークショップで得たのは、インクルーシブな施設をつくるための完成した答えではない。

      一人の困りごとを具体的に捉えること。異なる専門家の視点を持ち寄ること。ハードとソフトを組み合わせること。一人にとってよい案が、別の一人に与える影響を考えること。完成後の使われ方まで想像すること。そうした問いを、調査、計画、設計、維持管理という業務全体に持ち込む可能性である。

      堀部さん:CULUMUさんのように、インクルーシブデザインの専門性と実績を持つパートナーと連携し、今後のプロポーザルや実際の業務でご一緒しながら、よりよい社会の実現に貢献できればと考えています。

      インクルーシブデザインを導入するとは、提案書に新しい言葉を加えることではありません。公共空間を、誰の視点から、誰と共につくるのかを問い直すことなのだと思いました。

      すべての人の要望を、そのまま一つの空間へ詰め込むことはできませんが、それでも、これまで声を聞かれてこなかった人と対話し、異なるニーズの衝突を知り、複数の選択肢を用意することはできる。建築だけで解決できなければ、人や運用と組み合わせることもできるのだと思います。

      完璧な空間を一度で完成させることよりも、その街にいる人たちと共に よりよい空間へと更新し続けられる環境をつくっていきたいと思います。

      インクルーシブ遊具を置くことは、その一歩にはなる。しかし、本当に問われているのは、どの遊具を置くかではない。その公園を使う人たちと、どのように話し、何を一緒に決め、完成後もどのように関わり続けるかである。

      公共インフラをつくる専門家が、答えを与える人から、様々な人の声を繋ぎ、共に答えをつくる人へ変わる。

      その転換の先に、配慮を追加した施設ではなく、人が互いを助け合える社会基盤が生まれるのかもしれない。

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