デザイン経営とは何か?9つの取組の入り口と期待されるイノベーション

特許庁・経済産業省のデザイン経営宣言を紐解く

なぜ今「デザイン経営」が注目されるのか

近年、日本のビジネスシーンにおいて「デザイン経営」という言葉が急速に広がりを見せています。特に、2018年に特許庁と経済産業省が共同で発表した「デザイン経営宣言」は、単なるスローガンにとどまらず、企業経営の新しい方向性を示す大きな転換点となりました。これまで日本企業は「ものづくり力」や「技術力」に強みを持ってきましたが、グローバル競争が激化し、顧客のニーズや市場環境が複雑化する中で、技術や価格競争だけでは生き残れない時代に突入しています。そのような背景から、「デザインを経営資源として活用する」考え方が注目されているのです。

デザインの役割の変化

かつて「デザイン」と言えば、製品の見た目や広告・パッケージのビジュアル表現といった領域に限定されがちでした。しかし、AppleやIDEOといったグローバル企業が示したように、デザインは単なる外見の美しさを超えて、「顧客体験を設計し、ブランド価値を高め、イノベーションを生み出す仕組み」として捉えられるようになっています。デザインは「表層」から「構造」へ、さらには「戦略」へと役割を拡大し、経営の中枢に位置づけられるようになりました。

この流れを受けて、日本でもデザイン経営の重要性が再認識されるようになり、国としても「デザインを活用できる企業文化を浸透させること」が急務であると捉えられています。

デザイン経営宣言のインパクト

特許庁と経済産業省が発表した「デザイン経営宣言」は、日本企業がこれからの時代に競争力を維持・向上するための指針を示したものです。この宣言の中で特に強調されているのが、次の二点です。

  1. ブランドの構築:顧客との関係性をデザインし、企業の存在意義や価値をわかりやすく伝えること。

  2. イノベーションの創出:ユーザー視点を起点としたデザイン思考を活用し、新しい製品・サービス・体験を創造すること。

これらは、単なる製品開発や広告宣伝の領域を超えて、経営全体をデザインの視点から見直すことを意味しています。つまり、デザインは経営の根幹に関わる戦略的な武器である、という考え方です。

なぜ今「デザイン経営」なのか

では、なぜ今このタイミングで「デザイン経営」がこれほど強調されるのでしょうか。その背景にはいくつかの要因があります。

  • 市場の成熟化:日本国内市場は人口減少や高齢化により成長が鈍化しており、価格競争やコスト削減だけでは持続的な成長が難しくなっています。

  • グローバル競争の激化:中国や東南アジアの新興企業が台頭し、価格優位性や技術力で日本企業に迫ってきています。差別化のカギは「体験価値」や「ブランド力」に移行しています。

  • デジタルシフト:AIやIoT、DXの進展により、サービスや顧客体験そのものが企業価値を左右する時代になっています。デザインはその中心的な役割を担います。

  • 人材・組織の多様化:イノベーションを生むためには多様な視点の融合が不可欠であり、デザイン思考がその橋渡しとなります。

これらの要素が複合的に作用し、今まさに「デザイン経営」が企業の存続と成長を左右する重要なテーマとなっているのです。

デザイン経営宣言とは何か

デザイン経営宣言の概要

「デザイン経営宣言」とは、2018年5月23日に特許庁と経済産業省が中心となり公表した文書で、日本の産業界における「デザインの位置づけ」を根本から問い直すものでした。従来、日本の経営においてデザインは「製品の最終段階に加えられる付加価値」や「広告・販促のための手段」として扱われることが多く、経営戦略の中核に位置づけられることは稀でした。しかし、この宣言はデザインを経営資源の一つとして組織的に活用し、企業価値を高める「戦略的デザイン活用」の必要性を明確に提示したのです。

この宣言の目的は、単にスローガンを掲げることではなく、具体的に「ブランド構築」と「イノベーション創出」という二本柱を打ち出し、経営者や組織に対して実践を促すことでした。

宣言の核心:二本柱の明示

デザイン経営宣言では、特に以下の二つが強調されています。

  1. ブランド構築のためのデザイン活用
    企業が持つ理念や存在意義を顧客や社会にわかりやすく伝え、信頼を獲得するためにデザインを活用すること。

    ロゴやビジュアルアイデンティティにとどまらず、顧客接点のすべてを統合的に設計すること。

    ブランドを単なるマーケティング資源ではなく、経営そのものを方向づける基盤として位置づけること。

  2. イノベーションのためのデザイン思考活用
    ユーザー起点で課題を捉え、プロトタイピングや仮説検証を繰り返しながら新しい価値を創造するプロセスを経営に組み込むこと。

    技術主導ではなく「生活者・利用者の課題解決」から発想する。

    サービスデザインやUXデザインを活用し、事業そのものを再設計する。

この二本柱は、まさに「攻めのデザイン」と「守りのデザイン」を包括的にカバーする考え方であり、日本企業の競争力強化に直結しています。

特許庁・経済産業省が宣言を出した背景

では、なぜ特許庁と経済産業省という知財・産業政策を担う官庁が「デザイン経営」に注目したのでしょうか。そこには三つの狙いがありました。

  1. 産業競争力の再構築
    日本企業は高度成長期に「技術力」と「製造力」で世界をリードしてきましたが、21世紀に入り、グローバル市場では「体験価値」や「ブランド力」で差別化する企業が台頭しました。特許庁は知財戦略の観点からも、特許や商標と並んで「デザインの保護と活用」が競争力の鍵になると判断しました。

  2. イノベーション創出の加速
    経産省は長らく「オープンイノベーション」「産学連携」「DX推進」を掲げてきましたが、いずれも実効性の面で課題がありました。そこで「デザイン思考」を経営に導入することで、既存の技術や組織を横断する形でイノベーションを生み出す力を高めようとしたのです。

  3. 中小企業・スタートアップ支援
    デザインは大企業だけのものではありません。むしろ、資源が限られる中小企業やスタートアップこそ、ブランディングやUX設計を通じて大企業と差別化できる可能性があります。特許庁と経産省は、デザイン経営の普及によって裾野の広い産業振興を目指しました。

宣言の具体的な構成

デザイン経営宣言の文書は、大きく以下のパートで構成されています。

  • 前文:デザインの役割の変化と世界的潮流への言及

  • 課題認識:日本企業が直面する競争力低下や市場環境の変化

  • 基本方針:「ブランド構築」と「イノベーション」の二本柱

  • 推奨事項:経営者・組織が取り組むべき具体的な行動指針

  • 将来展望:知財制度との連携や国際的なルール形成

特に推奨事項の中では「経営トップがデザインを理解し、意思決定に関与すること」が明記されており、デザインを単なる現場レベルの活動に閉じ込めない姿勢が示されています。

宣言の意義と波及効果

デザイン経営宣言は、その後の日本企業や自治体、教育機関に大きな影響を与えました。いくつかの具体例を挙げます。

  • 大手メーカーが「デザイン経営推進室」を新設し、経営層にデザイン責任者を置く動きが進んだ。

  • 地方自治体や商工会議所が「デザイン経営セミナー」や支援プログラムを展開し、中小企業にも普及。

  • デザイン経営に関する研究や事例集が出版され、ビジネススクールでもカリキュラム化。

つまり、デザイン経営宣言は単なる文書にとどまらず、政策・産業界・教育の各領域を巻き込む「変革の起爆剤」として機能したのです。

宣言の背景(特許庁・経産省の狙い)

日本経済と産業構造の転換点

「デザイン経営宣言」が発表された2018年前後、日本経済は大きな転換点に差し掛かっていました。バブル崩壊後の長期低成長を経て、国内市場は成熟化し、人口減少や少子高齢化が進行。従来の「大量生産・大量消費」モデルでは持続的な成長が難しくなっていたのです。

さらに、グローバル市場における競争環境も大きく変化しました。中国や韓国の企業は価格競争力と技術力を武器に台頭し、欧米企業は「ブランド力」や「ユーザー体験」を武器に市場をリードしていました。日本企業は技術的には優れていても、顧客体験の設計やブランド戦略において遅れをとり、存在感が相対的に薄れていったのです。

この状況を打破するために、特許庁と経済産業省は「知財」「技術」「デザイン」を統合した新しい産業政策の必要性を痛感しました。

特許庁が注目した「デザインと知財」

特許庁が「デザイン経営」に関与するのは一見意外に思えるかもしれません。しかし、特許庁が扱う「意匠権」は、製品の形態やデザインを保護する制度であり、知財戦略とデザインは本来密接に結びついています。

グローバル市場では、Appleのようにデザインを知財として守り、それを武器に市場競争を有利に進める企業が増えています。日本でも同様に、デザインを単なる装飾ではなく「保護し活用すべき経営資源」と位置づける必要がありました。

特許庁の狙いは次の二点に整理できます。

  • デザインを知財制度で保護し、国際競争力を高めること

  • 知財活用の文脈でデザインを経営者に意識させること

つまり、知財政策とデザイン活用を統合することで、企業の競争力を底上げする意図があったのです。

経済産業省の視点:イノベーションと産業振興

一方、経済産業省がデザイン経営に注目した背景には、イノベーション政策の強化があります。

経産省は長らく「技術革新による産業競争力の強化」を旗印に掲げてきましたが、イノベーションが必ずしも市場に受け入れられるとは限らない、という課題に直面していました。技術主導ではなく「ユーザー起点」での事業開発を行わなければならない。そのために必要なのが「デザイン思考」であり、顧客体験を重視したサービス設計やプロダクト開発でした。

経産省の狙いは次の三点に要約できます。

  1. デザインを企業の成長戦略に組み込むことで、産業全体の競争力を強化すること

  2. スタートアップや中小企業においてもデザインを活用し、差別化を促進すること

  3. DX(デジタルトランスフォーメーション)やサステナビリティとデザインを結びつけ、新たな産業を育成すること

このように、経産省にとってデザイン経営は「産業振興の基盤」であり、「日本企業の生き残り戦略」そのものだったのです。

グローバルな潮流との接続

デザイン経営宣言の背景には、国際的な潮流もありました。欧米ではすでに1990年代から「デザインマネジメント(Design Management)」や「デザイン主導型イノベーション」という概念が広がっていました。

  • EU:欧州委員会は「イノベーション政策におけるデザインの統合」を推進し、各国でデザイン支援プログラムが展開されました。

  • 米国:IDEOやスタンフォード大学d.schoolを中心に「デザイン思考」が広まり、シリコンバレー企業が実践。AppleやAirbnbなどはその代表例です。

  • アジア:韓国やシンガポールも国家戦略としてデザインを取り入れ、デザインセンターを設立して産業支援を行いました。

こうした国際動向を踏まえ、日本も国として「デザイン経営」を推進しなければ、世界的な競争力で後れを取る危機感があったのです。

宣言を通じて目指したもの

特許庁と経産省は、デザイン経営宣言を通じて次のような変化を企業社会に促そうとしました。

  • 経営層の意識変革:デザインを単なる装飾ではなく、経営戦略そのものとして捉える。

  • 組織文化の改革:縦割り構造を超えて、デザイナー・エンジニア・マーケターが協働する体制を築く。

  • 知財とブランドの統合:意匠や商標を戦略的に活用し、ブランドを保護・強化する。

  • 新産業の育成:デザインを活用したスタートアップや地域産業を支援し、経済全体の活性化につなげる。

つまり、デザイン経営宣言は単なる政策文書ではなく、「経営者へのメッセージ」であり、「産業変革の呼び水」だったのです。

デザイン経営の二本柱「ブランド構築」と「イノベーション」

デザイン経営の核となる二つの柱

特許庁・経済産業省が掲げた「デザイン経営宣言」の中心には、明確に定義された二つの柱があります。それは「ブランド構築」「イノベーション創出」です。

一見すると異なる領域のように見えますが、実は両者は密接に結びついています。ブランド構築は「外部への価値伝達」、イノベーションは「内部からの価値創出」と言い換えることができ、この二つが循環することで企業の競争力は飛躍的に高まります。

ブランド構築:企業の「存在意義」をデザインする

ブランドとは単なるロゴや名称ではなく、顧客の心に形成される「信頼」「期待」「体験の一貫性」です。つまり、顧客が「その企業や商品に何を感じ、どう評価するか」という無形資産です。

デザイン経営におけるブランド構築の要点は、企業のビジョンや理念を顧客体験全体に落とし込み、「一貫性」と「共感性」を作り出すことにあります。

ブランドを効果的に伝えるためには、デザインが不可欠です。具体的には次の領域で力を発揮します。

  • ビジュアルアイデンティティ:ロゴ、カラー、タイポグラフィ、UIデザイン

  • トーン&マナー:広告コピー、製品パッケージ、接客態度、デジタル上の表現

  • 体験設計:オンラインからオフラインまでのカスタマージャーニーを統合的に設計

これらをバラバラに運用するのではなく、統合的にデザインすることで「ブランドの一貫性」が生まれ、顧客からの信頼を得やすくなります。

日本企業は技術や品質に強みを持ちながらも、ブランド構築においては課題が多いとされます。

  • 製品ごとにブランドが分断され、企業全体のストーリーが伝わりにくい。

  • 経営トップがブランド戦略に深く関与せず、現場やマーケティング部門に委ねられがち。

  • グローバル市場における「感情に訴える訴求」が弱く、機能やスペックでの競争に偏りがち。

こうした状況を打破するために、デザイン経営ではブランドを経営戦略の中核に据えることが求められています。

イノベーション創出:顧客起点の価値創造

「イノベーション」は単に技術革新を意味するのではなく、顧客にとって新しい価値を創造し、市場を変革することです。ここで重要な役割を果たすのが「デザイン思考(Design Thinking)」です。

デザイン思考の特徴は以下の通りです。

  1. 人間中心:顧客やユーザーの潜在的な課題を観察・共感する。

  2. 可視化と試作:アイデアを早い段階で形にして検証する。

  3. 反復と改善:フィードバックを得ながら柔軟に改善していく。

このプロセスを経営に導入することで、企業は従来の「技術起点」ではなく「顧客起点」のイノベーションを実現できます。

デザイン経営におけるイノベーションは、製品やサービスの改善にとどまりません。

  • 新規事業開発:ユーザーインサイトを起点とした新しいビジネスモデルの創出

  • サービスデザイン:顧客体験全体を俯瞰し、複数の接点を統合して設計

  • 組織変革:部署間の壁を超え、横断的なコラボレーションを促進

たとえば、トヨタのモビリティ事業やパナソニックのスマートホーム領域では、デザイン思考を取り入れた新規サービスの開発が進んでいます。

しかし、日本企業におけるイノベーションには構造的な課題も存在します。

  • リスク回避文化:失敗を恐れる文化が強く、挑戦的なアイデアが実行されにくい。

  • 縦割り組織:部門間の情報共有が不十分で、顧客体験を横断的に設計できない。

  • 技術偏重:技術的な性能向上を重視しすぎて、ユーザー体験が後回しになりがち。

デザイン経営の「イノベーション創出」は、これらの課題を克服し、顧客中心の発想を経営に浸透させる道筋を示しています。

デザイン経営がもたらす効果

デザイン経営の効果を測る視点

デザイン経営が注目される背景には、「企業の持続的成長に直結する」という確かな成果があるからです。では、実際にどのような効果が得られるのでしょうか。大きく分けると、以下の4つに整理できます。

  1. 企業価値の向上(ブランド資産の強化)

  2. 売上・利益の拡大(新市場開拓・付加価値向上)

  3. 組織変革と人材の活性化

  4. 顧客体験(CX)の飛躍的向上

これらは単に理論上の話ではなく、実際に国内外の企業で確認されています。以下では代表的な事例を見ていきましょう。

海外企業の事例

Apple:デザインを核としたブランド経営

Appleは「デザイン経営」の代名詞的存在です。同社は創業当初から「テクノロジーを人間にとって親しみやすいものにする」という理念を掲げ、製品デザインを戦略の中心に据えてきました。

  • プロダクトデザイン:iMacやiPhoneは、直感的に使える操作性と美しい外観で世界中のユーザーを魅了。

  • ブランド体験:Apple Storeの店舗体験やパッケージデザインも含め、一貫性のある「Apple体験」を提供。

  • 収益効果:同業他社と比較して高価格帯でも選ばれるブランド力を確立。

結果として、Appleは単なるハードウェア企業を超えて「ライフスタイルブランド」としての地位を築き、世界最大級の時価総額企業となりました。

Airbnb:ユーザー体験を基盤とした急成長

Airbnbは宿泊予約のプラットフォームですが、その成功の鍵は「UX(ユーザー体験)デザイン」にあります。

  • 利用者視点のデザイン:宿泊者が安心して利用できるよう、レビューやホスト紹介を丁寧に設計。

  • ホスト体験の最適化:物件掲載プロセスを簡略化し、誰でも気軽に参加できる設計を導入。

  • ブランド価値:「Belong anywhere(どこでも居場所になれる)」というメッセージがデザイン全体に反映。

結果として、Airbnbは世界190カ国以上にサービスを展開し、旅行業界に大きな変革をもたらしました。

無印良品(良品計画):シンプルさと一貫性の追求

無印良品は、日本におけるデザイン経営の成功例としてしばしば挙げられます。

  • デザインコンセプト:「わけあって安い」というコンセプトのもと、シンプルで機能的な商品群を展開。

  • ブランド構築:生活全体をデザインする「世界観」を提案し、家具、食品、衣料など多岐に展開。

  • 顧客体験:店舗デザインから広告まで統一されたトーンで「無印らしさ」を確立。

この結果、無印良品は国内外で支持を集め、グローバルブランドとして成長を続けています。

パナソニック:デザイン本部の設置と組織変革

パナソニックは2010年代以降、「デザインを経営に取り込む」動きを強めました。

  • 組織改革:社内にデザイン本部を設立し、経営層とデザイナーを直接つなげる体制を構築。

  • プロジェクト事例:スマートホームや高齢者支援デバイスなど、新しい生活提案型の製品を開発。

  • 効果:従来の「家電メーカー」という枠を超え、社会課題解決型企業としてのブランドを強化。

中小企業・スタートアップの実践

中小企業でもデザイン経営の効果は確認されています。例えば地方の食品メーカーが、パッケージデザインとブランドストーリーを刷新した結果、若年層や海外市場で売上を大幅に伸ばした事例があります。スタートアップでは、サービス設計にUXデザインを早期導入することで、競合との差別化に成功する例も増えています。

実際、デザインを経営に取り入れた企業は売上成長率や株式市場での評価において優位性を持つという調査結果も存在します。

  • デザイン主導企業の株価は市場平均を大幅に上回る(米Design Management Instituteの調査)

  • ブランド力の高い企業は新規事業の成功率が高い(経産省レポートより)

つまり、デザイン経営は「感覚的に良いもの」ではなく、数値で裏付けられる経営戦略だと言えます。

今後の展望:知財戦略、DX、サステナビリティとの連動

デザイン経営の進化の方向性

「デザイン経営宣言」から数年が経過し、日本企業でも徐々にデザイン経営の実践が広がりつつあります。しかし、単なるブランド刷新やUI改善にとどまらず、より広い文脈で経営と結びつける動きが今後重要になります。

特に注目すべきは、知財戦略、DX(デジタルトランスフォーメーション)、サステナビリティという3つの領域との連動です。これらは企業の持続的成長を支える基盤であり、デザイン経営と統合されることで新たな競争優位を生み出す可能性があります。

知財戦略との連動

特許庁がデザイン経営に関与した背景でも触れたように、デザインは意匠権や商標権と直結する知財資産です。今後は「デザインをいかに知財として守り、事業の競争力に活用するか」がますます重要になります。

  • 意匠権の活用:プロダクトやUIデザインを法的に保護し、模倣から守る。

  • 商標・ブランド戦略:ネーミングやロゴを知財として保護し、国際市場での競争力を強化。

  • デザインドリブン知財マネジメント:製品やサービスを企画段階から「知財戦略と一体化」させる。

Appleがデザイン特許を武器にサムスンとの訴訟で優位に立った事例のように、グローバル市場ではデザインと知財は密接に結びついています。日本企業も、単に製品を開発するだけでなく、デザインを保護・活用する知財戦略を組み込むことで、長期的な競争力を確保できます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)との融合

DXは「デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織を変革すること」を意味します。ここで重要なのは、単なるデジタル化ではなく「顧客体験(CX)の革新」です。

デザイン経営は、この顧客体験の設計において不可欠な役割を果たします。

  • UI/UXデザイン:デジタルサービスの使いやすさ、心地よさを高める。

  • データ×デザイン:顧客データを分析し、パーソナライズされた体験を提供。

  • オムニチャネル設計:リアルとデジタルを横断する一貫した顧客体験を実現。

DXとデザイン経営の相互補完として、

  • DXは「技術による変革の手段」

  • デザイン経営は「顧客中心の価値創造の方法論」

この二つを組み合わせることで、企業は技術起点ではなく 人間起点のDX を推進できます。たとえば、ECサイトのパーソナライズ機能や、金融サービスのUI改善などは「DX×デザイン」の典型例です。

サステナビリティとの接続

近年、企業経営において「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」を重視する ESG経営 が広がっています。ここでもデザインは重要な役割を果たします。

  • サステナブルデザイン:環境負荷を減らす素材選定や循環型プロダクトの設計。

  • 社会包摂性(インクルーシブデザイン):高齢者や障害者など、多様なユーザーに配慮した設計。

  • 透明性のデザイン:サプライチェーンや企業姿勢をわかりやすく伝えるコミュニケーション。

欧州ではすでに「グリーンデザイン」「サーキュラーデザイン」が政策レベルで推進されています。日本企業も、デザイン経営にサステナビリティを統合することで、海外市場での競争力を高めることができます。

今後の展望と課題

デザイン経営の今後を展望すると、以下の方向性が見えてきます。

  • 知財とデザインの統合:ブランド資産を守りつつ活用する経営手法の確立。

  • DXとの融合:デジタル技術を用いた顧客体験デザインの深化。

  • サステナビリティの実現:環境・社会課題を解決するデザイン経営への進化。

一方で課題も残されています。

  • 経営層がこれらの要素を統合的に理解し、意思決定できるか。

  • デザイン、IT、知財、CSRなど異なる専門領域を横断できる人材の育成。

  • 短期的な収益と長期的な価値創造のバランスをどう取るか。

デザイン経営は、もはや「製品や広告の見た目を良くする」段階を超えています。今後は知財戦略、DX、サステナビリティと統合し、企業が持続可能で国際競争力のある存在へと進化するための中核的手段となるでしょう。

参考情報とリソース

  • 特許庁「デザイン経営宣言」

  • 経済産業省「デザイン経営」関連ページ

  • 前田育男『デザイン経営宣言』(日経BP社)

  • 佐藤オオキ『問題解決ラボ — デザイン思考ができる人は何が違うのか』(ダイヤモンド社)

  • Tim Brown, Change by Design(IDEO代表によるデザイン思考の基本書)

  • Jeanne Liedtka, Design Thinking for the Greater Good(公共分野への応用事例)

  • D. A. ノーマン『誰のためのデザイン? 増補・改訂版:認知科学者のデザイン原論』

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